1月に聴いたもの

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『Aca Seca Trio & La Orquesta Sin Fin』 Aca Seca Trio
アカセカからのクリスマスプレゼントでした。「終わりなきオーケストラ」と名曲しかないレパートリーを演奏。ブラジルにもウィズオーケストラものは多いが、オーケストレーションとして聴き比べてもやはりブラジルとアルゼンチンではかなりサウンドが異なる印象。ブラジルはやはりオーケストラが入ると自然とジャズと結びついたテイストが含まれてくる気がするが、アルゼンチンの場合はあくまでチェンバーサウンドの延長、厚みと奥行きを増す効果が強いように思う。M2は『Trino』の中でも3人ですでに素晴らしい豊かなアンサンブルだったが、こうして実際に人数が増えるとより大団円感が増して涙腺にくる。

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『Hologram Plaza』 Disconscious
何かのきっかけでVaporwaveについて調べてみようと思い、以下の記事を読んで一通りのものを聴いてみたところなぜか惹かれてしまったこの作品。サブジャンル名としては『Mallsoft』というらしい。架空のショッピングモールのBGM的なコンセプト。詳しくは元記事を参照ですが、思った以上にVaporwaveというものは表面に現れている音的特徴に至るまでに明確な哲学やコンセプトがあるジャンルだった。ただちょっとこのサウンドに足を突っ込みすぎると酔って帰って来れなくなる気もしてなかなか最後まで通して聴くのが憚られる時もある気がする。

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『LP1』 Joseph Branciforte & Theo Bleckmann
ジョゼフ・ブランチフォートがテオ・ブレックマンを誘う形で作られた作品のよう。私事としてようやく長尺のアンビエントの楽しみ方がわかってきたところもあるのだが、そのコツみたいなものを抜きにしてもこのアルバムは存分に楽しめると感じた。ジャズ側の人間から見ても有機的で身体的な音の並びだと感じられる場面展開が続くからだ。用意された間ではないライブレコーディングで即興的に生まれる間。フレーズといえるような単位ではないのにフレーズに聞こえてくる断片のグラデーション。テオの声や時折聞こえる息継ぎの音によって、この漠然とした音の霧のようなものが何か得体の知れない大きな生き物で有機的に胎動しているように感じられる。それは自分を外から見ていたり、抱いていたりするような気もするし、自分の内側で静かに蠢いているようにも感じられる。

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『Intención』 Tardeagua
ミニマルな編成のアルゼンチンフォルクローレ。音がとても良いのが印象的で耳に残った。シンプルだがなんだか新しい印象を受けてしまうのはこの立体感のある音な気がする。フォルクローレをあまり聞いたことがない人でも聴きやすい気がする。この「瑞々しさ」がやはりフォルクローレの一番の魅力だと思う。

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『amuletum bouquet - Single』 青葉市子
コラボやCM仕事以外でクラシックギターのみじゃない楽曲はほぼ初めてではないだろうか。新鮮な気持ちで聴いた。メロディ、歌声、言葉の素朴さをクラシックギターのみで支えるというスタイルが絶妙なバランスで成り立っていてそれは勿論大好きなのだが、個人的にはそれらをもっと素材として積極的に料理、盛り付けたところが見てみたいと願っているいちファンなので、実はコラボなどの他者プロデュースの仕事を楽しみにしている。そんな中で今作は青葉市子名義だが今までのスタイルから少し外に出たサウンドで新鮮に響いた。2曲目はギターと歌のみのスタイルだが、1曲目からの文脈もありいつもより洒脱に響く。あとハミングでのポルタメントがなんとも美しい。まん丸で曇りのない水晶玉を穏やかな晴れの日に太陽に翳してまどろんでいるようだ。

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『Piano Pieces "SF2" M.Hamauzu』 浜渦正志
浜渦さんは植松伸夫さんと並んでよく語られるが、なんというか植松さんよりも硬質な楽曲を作られるイメージがある。音楽という土俵でとても緻密な構造物をひたすら形成しているような。初めて知ったのは『チョコボの不思議なダンジョン』だったと思うが、今思うとチョコボシリーズでは結構敢えて物語的な作曲をしていたのではないかという気がする。本作は浜渦さんのピアノ小品を集めた作品だが、サティやドビュッシーのような美しい結晶のような響きが並んでいる。ピアノのヴォイシングをベストな形で引き出していく。ハーモニーの変化をアルペジオなどで聴かせる構造物的な曲と、ただただ美しい旋律を響かせる曲の対比(あるいは共存)でアルバムが展開していく様は織物が作られていくようで美しい。

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『Respirar』 Adriana Ospina
コロンビア出身。一曲目のMVで知ったが、二曲目のニューオリンズライクで王道をゆく中に所々クセのあるコードワークを忍ばせる手腕に完全にやられてしまった。今ジャズやらアルゼンチンやら言っとりますが、根っこをほじくればラグタイムとニューオリンズが埋まってるのです。アルバムとしてはフォルクローレ的なものもあるが全体的にポップに振っている印象。コードワークと参加ミュージシャンの安定のプレイでそれぞれの楽曲のクオリティが高いので楽しく聴ける。

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『Nature』 Cécile Andrée
フランスのジャズボーカル。チェンバー系のワールドミュージックの趣も強くて気持ち良い。バックのピアノトリオはヨーロピアンらしい透明感がある。自身の声でコーラスを重ねている場面が多く見られるがエアリーな声質が妖精のような独特なムードをプラスしていて面白い。

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『Family Tree (with Linley Marthe & Tilo Bertholo)』 Grégory Privat
グレゴリー・プリヴァは以前にタワレコでデヴュー作が試聴機に入っているのを聴いて上手いと思ったが、その時は特にソングライティングなどには引っかからず忘れていた。先日またタワレコで試聴機を物色していたら(やはり定期的に物理的なセレンディピティを期待してタワレコ・ユニオンには足を運んでしまう)、彼の新譜があるのを発見してその場では聴かずとりあえずサブスクに追加(この辺の行動は賛否ありそうですが)してその流れで過去作も聴いてみたところACTレーベルから出ているこのアルバムが個人的大ヒット。ジャズが自分の中でメインストリームだった時はやはりピアノトリオをよく聴いたが、アルバムを通してのバランス感というものがトリオというものは難しいと思う。その点このアルバムは各曲のボリューム感、個性がよく考えられていてアルバム通して聴かせるのが上手いなと感じた。ジャズ的なソロを聴き込む醍醐味あり、ヨーロピアン的センチメンタルなコードの移り変わりに揺蕩うもよし、ビートもののようにいい意味で軽薄にリフに身を委ねていることもできる。シャイ・マエストロよりクセがなく、ブラッド・メルドーよりも気軽で洒脱な感じ。来日して欲しい。

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『oar』 角銅真実
ちょっと良すぎてびっくりしてその後に続けて聴いた他のアルバムが全然耳に入って来ないという事態を作り出した傑作。一曲目、霧の向こうに何か見え始めたと思ったら途方もない巨木だったみたいな印象。これは勿論角銅さんの声という太すぎる根っこがあってこそだが、それと同じくらい録音やミックスがその幹を太くしていて、多彩な参加ミュージシャンが枝葉を彩っている。靄がかっているようなのに繊細で鋭利な音の輪郭。この相反する要素が同居して至近距離で全力で撫でてくるみたいな。「そんなことされたらもう」みたいな。『いかれたBaby』もどうなるかなと内心不安と期待でしたが前述のやり口で料理されたら完敗でした。いやらしさを全く見せずハイライトを奪っていく。かっこいい。


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