2月に聴いたもの

Soweto Kinch 『Nonagram』
アルトサックスかつラップもするソウェト・キンチ。ヒップホップのムードを濃厚に漂わせながらも、トラック的な垂れ流しにならずに各プレイヤーのソロもがっつり堪能できるハイブリッドなアルバムという印象。ヒップホップ系のジャズが流行って久しいが、「マイナーコード平行移動の連結」みたいな安易な曲も生まれたりしている中でバラエティに富んだコンポーズを感じた。

Shuta Yasukochi 『In Full Bloom - EP』
個人的にアンビエントは1時間前後の長尺よりも、30-40分のEPサイズのものがサクッと聴けて今は好み。アロマやお香のように。あとアンビエントは間が多い(無音という意味でも展開の希薄さという意味でも)のでそれぞれの音色(というかテクスチャー)の「置きの美学」みたいなものが問われると思っているが、この方はそれがとても好みだった。

コトリンゴ 『小鳥観察』
2枚組で1枚目はオリジナル中心、2枚目はカバーやコラボ曲中心。1枚目での個人的ハイライトはやはり最初と最後の『こんにちは またあした』。オリジナルバージョンはやはりコトリンゴの核が詰まって短い曲ながら今でもキラキラしているし、今回新たに収録されたストリングスを加えたアレンジはより楽曲に深みを与えている。アルゼンチンでのクリバスらとの共演が大きく影響しているであろうこの芳醇なアンサンブルの路線は今後も期待したい。2枚目では、コトリンゴの声がいい意味で「浮いている」曲が何曲かあり、その声の素材性(サンプル性)の高さに気付かされる。以前にも書いたがC.O.S.A. × KID FRESINOとの『Swing at somewhere』はサビを歌ってはいるが、これは完全にサンプルを流しているような浮遊感。

Davi Fonseca 『Piramba』
ブラジル・ミナスからすごいピアニスト・シンガー。界隈の人が書いてますが、本当にロウレイロを初めて聴いた時の衝撃を再び味わったような感じ。基本はセクステット編成でのミニマルなのに緻密なアンサンブル(アレシャンドリ・アンドレス参加)で、モニカ・サルマーゾ、ハファエル・マルチニがゲスト参加。個人的にはロウレイロよりもサンバやジャズの要素が残っているところが好感触。

Pat Metheny 『From This Place』
多くの人が待ち侘びたメセニーの新譜。配信で先行公開されていた『America Undefined』を聴いてぶっ飛ばされてから3か月ほど楽しみにしていた。編成的にはコンボプラスオーケストラだが、所謂ウィズストリングスやウィズオーケストラによくみられる空間の広さによってコンボの緊張感や臨場感が半減するという形にはなっておらず、かつ壮大さもあり絶妙な録音だと思った。今回一枚目に取り上げたソウェト・キンチのアルバムとは対極で、ファッション性やゲーム性などの小細工(失礼)無しで正面突破してくる巨大生物(ゲームの『ワンダと巨像』の巨像を連想した)のよう。そんな疾走感溢れる曲たちの合間にM6ではハーモニカのグレゴア・マレ、M8ではミシェル・ンデゲオチェロをフィーチャリングして静かなナンバー。ラストのM10ではエンディングにふさわしく落ち着いたバラードで、ラスト1分でカーテンコールよろしくさりげなくボレロのパターンに移行。この演出がとにかくニクい。その他の曲でもラスト1分くらいを余韻を引き延ばすような構成で作られていて聴き手の感情をコントロールするのが巧みだなと思ったりした。

Rejoicer 『Spiritual Sleaze』
あまりこちら系には明るくないのだがビートミュージック系の中ではかなり好みのリジョイサー。他にはTeebsなども好きなので多分こういうサイケデリックな感じが好きなのだと思う。パンやコーラスをふんだんに使ったエレピとかいろんな鈴の音とか。ファッション的なところとスピリチュアルなところの均衡を上手く保っているものが好きなのではないだろうか。でも今作は割と取り留めないジャズの空気。


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