さて、何度ラッシーと言った事でしょう。
ランチタイム。
どうやら風邪をひいたらしいのでスパイス補給にと休憩中にお気に入りのインド料理屋に初めて1人で入った。
陽気なインド楽曲と色鮮やかな雑貨たち。
店内に充満するスパイスの香り。
先客はインド人(多分)男性と日本人(多分)女性のカップルだけ。
いつもいるお店の日本人のマダムの「いらっしゃいませ〜。」に続く、
厨房にいるインドの方々(多分)の「イラッシャイマセ〜。」
そう!これこれ!この感じ。
扉一枚で急に別世界にトリップするこの感じ。
インド料理屋は来ただけでその日が特別な1日になるから大好きだ。
席に着くなり注文をする。
このお店ではチキンカレーとチーズナンと決まっている。
なるほど。ランチメニューはサラダもドリンクもセットになっているのか。
いつも夜に来るから初めて知った。
ドリンクはラッシーでお願いします。
きびきびと素早く動くマダムは注文を受けるとすぐにサラダを出してくれた。
ありがたい。
時刻は14:00過ぎ。
つい先ほどまでお店の中は人々で賑わっていたんだな〜。
と隣の席のお風呂待ちのお皿たちをサラダを頬張りながらぼんやり眺める。
向かいの壁に飾ってあるハヌマーン様のオブジェと目が合う。
先客のカップルが退店するのと入れ替えに小学校低学年くらいの少女とお母さんの親子が現れた。
私の斜めお向かいの席に着く。
お母さんはセットドリンクからコーヒーを。
少女はラッシーをどちらも食後に持って来ていただくように注文していた。
チキンカレーと4枚に切り分けられたチーズナンが到着。
待ってました〜!!!
まずはアッツアツのチーズが溶ろけきっているチーズナンを何も付けずにそのまま1枚。
美味しすぎる〜!
そして2枚目。カレーをつけて。
美味しすぎる〜〜〜!!!
ここのカレーは全体的に結構辛めで甘いカレーが嫌いな私の舌によく合う。
それにしても毎回この美味しさ。
このお店は本当に素晴らしいよ・・・。
感動していたら斜めお向かいの少女と目が合う。
大変美味しいぞ!?とジェスチャーで報告しておく。
暫くして、親子にもカレーとナンが到着する。
美味しいねぇ。おいしいねぇ。と食べている親子。
(でしょでしょ!おいしいよねぇ!)と心の中で会話に参加する。
でも、からいね。うん辛い。と少しツラそうな親子。
(そう!ここのカレーはちゃんと辛いんだよ!そこが良いんだ!)
ラッシー先に持って来てもらおうか。とお母さん。
(そうだね!ラッシーは舌を落ち着けるのにぴったりだから、辛かったら無理ぜずに頼んだ方が良いと思うよ!うん!)
お母さん「すいません!ラッシー先にください。」
マダム「はい。今行きまーす!」
ラッシーを持って颯爽と現れるマダム。
(すぐ来て良かったね〜。ちびっこ!ここはラッシーも美味しいよ〜!)
「はい。どうぞ。」
と私のテーブルにラッシーを置いた。
私(いや!!!こっち!?!?!?)
お母さん(いや!!!そっち!?!?!?)
タイミング的にもそちらのテーブルに行くと思っていたラッシーがこちらのテーブルに来てびっくりして、ビクッと跳ねてしまった。
挙動不審な私。
不思議そうにしているマダム。
不安そうにしているお母さん。
辛そうにカレーを食べている女の子。
急に緊張感が生まれる店内。
どうやら、マダムは元々私用のラッシーを準備していて、お母さんにラッシーを頼まれたのは聞こえておらず、ただ呼ばれただけと思っているようだ。
とりあえずラッシーを私のところに届けて、親子の元へ行く。
お母さんはすかさず「すみません。ラッシー下さい。」
わぁ〜!!!聞こえてたら先に少女の元へこのラッシーは行っていたはずに違いない。(私は特にラッシーのタイミングを決めていない。)
いや。おらもラッシー注文したけど、おらは今じゃなくても良いんだけど…。
まぁ。また注文したから今度こそは確実に少女の元にラッシー来るね。
どうか!はやく届けてあげて下さい!そうしてほしいと!!!心から!!!!私は!!!思う!!!!!!
と様子を伺っていたら、マダムは別のテーブルの片付けを始めた。
え。
あの親子にラッシーあげないの?
え?ラッシーは?
からい辛いって言ってるよ?
私は辛さに強いから今じゃなくて良いんだよ???
このラッシーお先にどうぞってあげたら良いかな。
いやご時世的にも厳しいし、ご時世関係なくても厳しい。
えぇ。どうしよう。あちらの親子にラッシーを出してあげて下さいって教えてあげたら良いかな。
でもね。すぐそこにいるから全員に丸聞こえだし。
それってすっごく気まずいな。
そして、これは偽善なのかもしれない。
あぁ。ラッシー。どうしよう…ラッシー。
マダムは現れた八百屋さんと悪いけど今回はほうれん草だけ仕入れさせてもらうね。って交渉している。
ほうれん草じゃない!
思い出して!ラッシーを!待っている人がいるって!
きっと最初に言われた「食後に持って来て下さい。」のワードに引っ張られて、マダムはうっかりしているのだ。
いつも注文したらテキパキと接客してくれるもの。
何となく出されたラッシーを飲めずにいた。
まるで砂漠のど真ん中に取り残された私たち3人に与えられたコップ1杯の貴重なお水のような気がした。
オアシスには歩いても歩いても辿りつかない。
思わず飲み物を飲み物で例えてしまった。
マダムは申し訳なさそうに親子の元に現れる。
あ!やった!ラッシー思い出した!?
マダム「ごめんなさいねぇ。これ忘れてたわ。」
あーーーーーーー良かったーーーー。
マダム「セットのサラダ」
だぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ〜〜〜!!!
さ
ら
だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああぁ〜〜〜!!!
セ
ッ
ト
の
さ
ら
だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああぁ〜〜〜!!!
そんなバカなああああああぁぁぁああぁぁあああぁぁ〜〜〜〜〜。
そうこうしている内に休憩時間の終わりが近づいて来た。
氷が溶けて味の薄まったラッシーをストローで一気に吸い上げる。
視線を感じる。
きっと少女はこちらを見ている。
目が合わないようにうつむきながら私はラッシーなど飲んでませんと装いながらラッシーを飲む。
もし、罪悪感に味があるとするならば
この味なのかもしれない。
自分はただただ無力だ。
どうか。ここにいる人々が争わずに心穏やかにラッシーできますように。
ハヌマーン様にそっと手を合わせる。
お会計を済ませる。
ラッシーおいしいねえ!甘いねえ!
と笑顔になる少女とお母さんを想像しながら。
彼女たちの近い未来がそうでありますように。
インド料理屋は来ただけでその日が特別な1日になるから大好きだ。
終わり。
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