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ギムレットにはちょうどいいころ

久々にBARで飲んでいたら、隣の大学生が言った。

「バーテンダーさんのオススメでなにか作ってくれますか?」

その言葉を聞いたとき、圧倒的な距離感を感じた。

ああ、私はこの世界線にはいないのか。
途端、悲しい気分になった。

オススメで酒を作ってもらったことは何度かある。
わけもなく深夜2時に自転車を飛ばして、近所のBARへ飲みに行っていたころだ。

あのときのわたしも
(バーテンダーさんは何を作ってくれるのだろう?)
とワクワクしながら、メニューにない酒を注文していた。

出てきた酒は可もなく不可もない普通のカクテルだった。

(あれ? もっと洒落たもの作ってくれるんじゃないの? なんかその場で名前とかつけてくれないの?)

と首を傾げたものだ。

現代っ子は金がない。
飲みに行く場所は、だいたいチェーン展開しているBARで、バーテンダーさんも若い人が多い。


彼らの作るカクテルは、なんとなく美味しくできるお酒を混ぜ合わせて作る。
口当たりもいいし、美味しいし、飲みやすい。

(あれ? 飲みやすいんだけど、なんかコレジャナイ……)
という世知辛いカクテルを飲みすぎて数年、私はメニューにない酒をオーダーするのをやめてしまった。

度数の強い酒を二、三杯頼んで、
「あ〜低価格でいい感じに酔った! 強い酒はコスパ良く酔えていいな〜!」
などとご満悦にふらふらしながら帰宅することが定番になった。

今回、決定打になったのは、
小洒落たワクワク感はもうない、ということ。

隣席で繰り広げられる夢の会話に、萎えもせず寒気も感じず、ただ圧倒的な距離を感じてしまった。
BARに対する浪漫を脱出した瞬間だった。

このまま冷静になったら勿体無いから、大好きなスコッチを頼んで、とにかく酔っちまおう……
とメニュー表を見たら、グレンリベットどころかブラックニッカもなかった。

時勢に即した激安BARは、ストレートで飲めるレーベルを置いてなかった。

ジンベースの「ギムレット」はあったので、それを頼んだ。

ギムレットを頼むあたり、まだすがっている感じがしないではなかったが、
ひたすら度数の強いそれを飲んで、衝撃を隠しながら家に帰った。

ギムレットはいつものようにまずかった。
まずいことがありがたい。
一生、ギムレットには早すぎるよとか言っていたい(心の中で)。

とにかく、びっくりした。
酔っ払いにきたのに、酔いどころか人生に冷めてしまいそうになったよ。

飲みに行く理由がなくなるから、
スコッチを常備しないでいたが、
買い置きしたほうがいいかもしれない。

グレンリベットもラフロイグも、BARから消える日は近いかもしれない
(若者は金がないので……)。


時のすすみにびっくりしたのは、直前に友近さんが、ただ火曜サスペンス劇場のヒロインをやっているYouTube動画を見たからかもしれない。

令和の今に、なんてものを作っているんだ。
瀬戸大橋がそろそろ開通するっていつの話だよ……

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