マーケティング基礎③ ターゲティングの方法【後編】
おはようございます。現役信用金庫マン 兼 中小企業診断士事務所代表の山西です。
ここまで「ターゲティングが必要な理由」と「セグメンテーションの方法」についてお伝えしてきました。
今回は総仕上げとして「ターゲティングの方法」についてお伝えします。今回の記事を読むことで、売上・利益の向上につながる適切なターゲティングが出来るようになることを目指しています。
ターゲティングの方法
ここまで見てきた通り、ターゲティングとは「市場セグメントの選択」のことです。
では、どのように市場セグメントを選べば良いのでしょうか。
方法は主に4通りあります。
方法①:市場セグメントをLTVで比較する
市場セグメントごとにLTVを算出して、最も大きいLTVになる市場セグメントをターゲットとする方法です。
LTVとは、LifeTimeValueの略で、顧客生涯価値のことです。つまり、顧客が自社と取引を開始してから終わるまでの間に、どれだけの利益をもたらすのかを表す指標です。
LTV=(平均購買単価 × 購買頻度 × 継続購買期間)-(新規獲得費用 + 顧客維持費用)
新規顧客獲得費用は主に広告宣伝費、顧客維持費用は主にアフターフォローに係る費用です。
この指標には、コスト面も考慮されているため、単純にLTVの総量が大きい市場セグメントを選べばいい訳です。
しかし、現実的には市場セグメントごとにLTVを算出するのが難しい場合も少なくありません。その場合は、ほか3つの手法を検討してみましょう。
方法②:自社のプロダクトとの相性を見る
自社の商品や強みと相性の良い市場セグメントを選ぶのは、よくある方法です。
例えば、あなたが居酒屋を経営しているのであれば、中高年の男性をターゲットにした方が良いと思う人が多いのではないでしょうか。
このような決め方は、自社の商品(プロダクト)を起点に戦略を決めるので「プロダクトアウト」と呼ばれます。(逆に、顧客ニーズを起点に戦略を決めるのは「マーケットイン」と呼ばれます)
自社のプロダクトの特性を吟味し、その特性がより刺さりそうな市場セグメントを探します。
この時、コレスポンデンス分析を行うのも有効です。
コレスポンデンス分析とは、クロス情報を相関関係に基づいてマッピングする統計解析手法です。これだけでは分かりにくいと思うので、実物を見てみましょう。
属性(年齢・性別)とニーズのクロス情報をコレスポンデンス分析でマッピングしたのが下のグラフです。
右下の象限を見てみますと、「20代女性」と「甘いもの」が近いことが分かります。これは「20代女性」と「甘いもの」に相関関係がある≒おそらく、20代女性は特に甘いものが好き、という解釈ができます。
それを基に、例えば自社に「甘いもの」の製造技術に強みがあるのなら、20代女性を選ぶことができます。
このようにコレスポンデンス分析をすることで、プロダクトアウトによる市場セグメントの選択が分かりやすくなるのです。
方法③:市場規模から判断する
会社には適切な市場規模というものがあります。
かつて、USJは映画のテーマパークとして営業していましたが、それでは必要な売上を確保できないということで、エンターテインメントのテーマパークとなりました。
適切な市場規模で戦うようになり、来園者数はV字回復しました。
満たすべき市場規模というのは、損益分岐点などの売上高のことです。損益分岐点売上高等が市場規模よりも大きい場合、どうあがいても事業継続できなくなります。
ニッチな市場を狙うのが良いとの意見もありますが、シェアを取れるからと言ってあまりにもニッチ過ぎる分野を狙ってしまうと、必要売上高を確保できません。
あらかじめ適正売上高(損益分岐点売上高等)を算出したうえで、どの市場セグメントならそれを満たすことができるか考えてみましょう。
方法④:直感
え、ここに来て直感!?
と思われた方も多いことでしょう。
実務的には、直感で市場セグメントを選ぶことは非常に多いです。
というより、現実的にはこれが一番オススメです。
大切なことは、単に直感で選ぶだけでなく、いくつかの市場セグメントでテストすることで消費者の反応を比較・検証し、トライアル&エラーでより良い市場を探っていくことです。
いわゆる、テストマーケティングと言うやつです。
この方法を選ぶ場合は、注意点があります。
それは前回お伝えした「マーケティングの4R」の「Response(測定可能性)」を持つようなセグメンテーションとなっているかどうかです。
消費者の反応を測定できないのであれば、トライアル&エラーにより、より良い市場セグメントにたどり着くことが出来ないためです。
どうやって消費者の反応を測定するのかをあらかじめ設計した上で、その後は直感で市場セグメントを選んで、どんどん試していきましょう。
ターゲティングの方法まとめ
どれか1つの方法を選ぶというよりは、利用可能な方法を複数組み合わせてみるのが良いです。1つの方法では、判断基準が偏ってしまい、蓋然性の低い市場セグメントの選択になってしまうからです。
どの方法なら使えるのかを考えながら、多面的に判断していきましょう。
USJのターゲティング事例
押しも押されぬ日本屈指のテーマパーク「USJ」。そんなUSJも一時は業況が非常に悪く、倒産も見えていた時期がありました。
しかし、現代最強マーケターの森岡毅氏が中心となって、消費者起点マーケティングを実践したことで、見事V字回復を成し遂げました。
森岡氏はどのようにターゲティングを行ったのでしょうか。
USJの事例を簡単にご紹介します。
森岡氏は、ハロウィーンで14万人集客を増やす必要があると試算しました。その目標を達成するため、以下のようにコアターゲットを設定しました。
セグメンテーションするにあたって、まずはハロウィーン時期の消費者を分析しています。
・9月から10月にかけては試験が終わる大学生が増える。
・若い女性を中心に異様にレジャー需要が高まる。
という2点を見つけた訳です。
これは、セグメンテーションの切り口として、
・(ハロウィーンの時期に)忙しいか落ち着いているか
・(ハロウィーンの時期に)レジャー需要が高い人か低い人か
という2点を使っているということです。
森岡氏が代表を務める「株式会社刀」では、基本的にセグメンテーションはサイコグラフィック基準で行う必要があると考えており、このUSJにおいてもサイコグラフィック基準でセグメンテーションしています。
そして、ハロウィーンの時期に落ち着いており、レジャー需要が高い市場セグメントとして、「独身女性層」を選択したということです。
なお、ハロウィーンを選んだ理由や14万人の集客を目標とした導出根拠は、大学数学程度の知識が必要となるため省略しますが、「ガンマ・ポアソン・リーセンシーモデル」というモデルを使っています。興味がある方は同氏の『確率思考の戦略論』をご覧下さい。
次回予告
次回は「これから起業する人にオススメの資格3選」をお伝えします。8月26日(土)に投稿予定ですので、ぜひご覧ください。
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