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コント台本 『脱獄』

こちらのコント台本を基にして書いた短編小説





A「ハァ…、ハァ…」

(ツルハシを振り、一心不乱に穴を掘り続けているA)

A「ハァ…、ハァ…」

(やがて暗闇から一筋の光が漏れ、パラパラと周りの小石が崩れていく)

A「ハァハァ…。やった! 脱出成功だ!」

(両手を空に突き上げて、『ショーシャンクの空に』バリの喜び方を表現するA)





B「ーー待ちな。お前さん、一体どこへ向かうつもりだ?」

A「!? アンタは、一体…」

B「慌てるな、俺も収監者だ。こうやって脱獄をするために穴を掘り続けている。要は同じ穴の狢ってやつさ。ここは俺が3年かけて掘り進めた穴に作った休憩地点だ」

A「何だ、まだシャバに出られたってわけじゃないのか…」

B「まあそんなに気を落とすな。まさか俺以外に脱獄を企てている野郎がいるとは思わなかったが、好都合であることに変わりはない。何てったってこれで労働力が単純計算で2倍になるわけだからな」

A「ーーやれやれ。まさか収監者と掘り進めた穴が結合するなんて思っても見なかったぜ。とはいえ、流石に腕が痺れてきたところだ。ここは素直にお前の提案に乗らせてもらうよ」

B「だろ? それじゃあ早速もう一仕事ーー、ってちょっと待て!? お前一体どこから掘り進めてきたんだ!?」

A「どっちってーー、こっちだけど」

(Bが掘り進めようとした方向とは反対の方向を掘り進めようとするA。Bは驚いた表情でAを見つめる)

B「何言ってやがる! 俺は脱獄するために3年の月日をかけてこの穴を掘り進めてきたんだぞ!? だったら同じように脱獄しようと掘り進めてきたお前と方向がこうやって逆になるわけがーー、いや待て。お前、まさか…」

A「ーーそう、俺は入獄者だ」





B「…そうか、やはり外の世界はそんなことになってしまっていたのか…」

A「ああ。最初は良かったんだ。インターネットが発展したことによってメディアが多様化し、決して巨大な影響力を持つ組織が言論統制を取れるような社会ではなくなった。それに伴ってこれまで沈黙を貫いてきたマイノリティーが発信をしやすくなり、それまでの価値観を個人で覆すことが可能な理想の社会になったはず、だったんだ…」

B「ーー高まりすぎた相互監視社会の到来、か」

A「ああ。日に日に炎上の基準は下がっていき、それに比例するかのように炎上に対する罰は重くなっていく一方だった。最初は俺だって気にも留めていなかったさ。だけど思わないじゃないか。ーーまさか、配信中に異性との会話内容が映り込んだだけで炎上して収監されるような社会になってしまうだなんて。その結果、人類の半分は監獄にブチ込まれる異常事態に陥り、それに伴って炎上して収監され、服役を終えて釈放された炎上経験者の人間も増えてきた。アイツらは炎上経験のない俺たち善良な市民をダサいヤツら呼ばわりし、シャバにいる人間のことを陰キャ社会と揶揄する若者が出てきてしまう始末だ」

B「…だが、そうだとしても何の罪も犯していないお前が法に触れてまでこうやって入獄をする理由はどこにもないはずだ。それなのにどうしてお前はーー」

A「ーーエロい女が、いなくなったんだ」

B「…は?」

A「人気タレントやインフルエンサーと週刊誌に撮られるようなエロい女は漏れなく炎上して監獄にブチ込まれていった。その結果、シャバに俺と関係を持ってくれるようなエロい女は絶滅してしまったんだ!」

B「お、おう…」

A「悶々としていた折に、俺はとんでもない噂を耳にした。何と監獄の中、つまり陽キャ社会では日夜乱◯パーティーが開催されていると! …だったら、これに参加しない手はないだろう?」

B「いや、まあ、そりゃもしかしたら監獄内にはそんな区域もあるかもしれないがそれはいわゆる都市伝説ーー」

A「だから俺はこうやって入獄することを決意したんだ。俺は入獄するために何もかもを捨ててきた。何人たりとも俺を止めることはできないのさ」

B「…お前がそこまで決意を固めていたのなら俺からはこれ以上もう言うべきことは何もない。個人としてはお前に協力してやりたい気持ちもあるが、生憎俺にはやらなきゃいけないことがあるからな。悪いがお前の掘ってきた穴を使って脱獄させてもらうぜ。代わりに俺の掘ってきた穴を進むと良い。しばらく進めばお前の望み通り入獄することができるだろう」

A「ああ、ありがとう。お勤めご苦労様です、って言った方が正しいのか?」

B「どっちがシャバか分からねえんだ。転勤を上司に言い渡されたようなモンさ」





B「…やれやれ、世の中にはとんでもない大バカがいるもんだな…。ーーってアイツ、散々掘り進めてきたみたいな雰囲気醸し出しておいてここほぼ入り口だったんじゃねえか!」

(数メートル歩いたところで入り口に到達するB)

B「…まあ良い。ここから俺の贖罪は始まるんだ。気合い入れ直さねえとなァ!」





A「かなりの距離を歩いてきたが未だに監獄に辿り着く気配がない…。あの男は3年をかけたと言っていたが流石にそろそろ着く頃だとは思うが…。ーー危ねえ!」

(Aが出口へと差し掛かった瞬間、洞窟内の岩盤が崩れて出口が塞がれてしまう)

A「やれやれ…。まともに作業していたら3年かかっていたところを大幅に短縮できたと思ったらツイているんだかツイていないんだか。…まっ、これくらいの努力をしないで乱◯パーティーに参加したらバチが当たるってもんだ。一丁やったりますかぁ!」





B「…やっぱりだ。度重なる規制の連続によってこのままだと近い未来、必ず国は滅亡する。そりゃあそうだ。これまで当たり前だと思っていたルールが突然ひっくり返される恐怖を、あの頃の俺たちは想像だにしていなかったんだ。自分たちの都合で課したルールは、いずれ自分たちに跳ね返ってくる。そんなことにも気付かずに俺たちは自分たちの正義感に酔ってしまっていた。いつの間にか法に雁字搦めにされてしまっていたんだ。まさか20年後、あんなことになるなんて…。いや、嘆いている暇はない。行動しよう。これは俺たちが、いや法を創り変えてしまった俺自身が果たさなければならない贖罪なんだーー」

(国を変えるために奔走するBと、乱◯パーティーに参加するために穴を掘り続けるAの2人に同時にスポットライトが当たる。やがて、Bの働きかけによって社会は変わり、国の正常化に成功する)





B「ーーよし、何とか国を正常化して監獄に囚われていた収監者たちを全員釈放することに成功したぞ。…ってアレ? 俺は何かを忘れているような…」





A「ハァハァ…。ようやく崩れた岩盤を削り切って入獄することに成功したぞ…。…ん? 思ったより獄中は静かなんだなーー」

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