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漫才台本 『秘宝Ⅱ』

※この内容は漫才台本 『秘宝』の続編となりますが、連続性は薄いためこちらからでも読むことが可能です。





A「私ね、オークション会場で自分が持っている秘宝を売りつけて荒稼ぎをしたいんだよね」

B「…何? またやるの? あのAが要らなくなったオタクグッズを売り捌くためだけに開く即売会をさ」

A「しょうがないじゃん。私のオタ活は推しが引退するまで永遠に続くんだからそれに伴って不要なグッズは溜まる一方なんだよ!」

B「それはAが気軽に推し変したりするからでしょ? 1人の推しをずっと純粋に応援し続けていたんだったら実質Aが終活をするまでグッズを手放す必要なんてないんじゃないの?」

A「ごちゃごちゃうるさいなぁ。推し活は俯瞰で見たら終わりなんだよ! 本来推しなんてこの世に必要ないことくらいみんな心のどこかでは理解しているけどこの辛い現実を生きるためにはお金を払えば全力でファン酔わせてくれる推しを誰もが必要としているんだよ! …それに、今回出品するのは私だけじゃないからね。今日のオークションにはあの『バンクシー』の作品が出品されているっていう噂もあるくらいなんだから!」

B「何で主催者のくせにオークションに出品される内容すら知らされていないのさ…」

A「それじゃあ後でまたオークション会場の場所を連絡するからそこで集合ね! ちなみに覚えてると思うけど入場にはオークションで売られる品物が書かれているカタログを持参する必要があるからそこんとこよろしく!」

B「え!? ちょっと待ッ A!? さっきはスルーしちゃったけどバンクシーってあのバンクシー!?」





A「皆さんようこそおいでくださいました! それでは第2回A主催による秘宝オークションを開催させて頂きます!」

B「うわー、さっそくカタログにAIイラスト導入してるじゃん。私、いらすとやとかもそうなんだけどこういう無料ツールをアマチュアが利用する分には全然大丈夫なんだけど、プロが恥ずかしげもなく利用してると若干引くんだよね。全く利いてない『あえて感』が鼻につくっていうか、せっかくインターネットの世界には無料で商用利用が可能なイラストを投稿されている方もいらっしゃるのにそれを探す努力もしないで流行り物に手を出す辺りアンテナの狭さの幅が知れるっていうかーー」

A「それではさっそく1つ目の品物でございます! 『フィンセント・ファン・ゴッホ』がリリースしたーー」

B「え!? 嘘!? 『フィンセント・ファン・ゴッホ』って『ひまわり』を描いた人じゃん! 本当!?」

A「第2回単独ライブ『向日葵が咲く頃に』のDVDと、直筆サイン入り色紙のセットです!」

B「…どういうこと?」

A「知らないの? 最近地下ライブ界隈でメキメキと頭角を現している若手ピン芸人『フィンセント・FUN(ファン)・ゴッホ』だよ?」

B「いやたまにいるけど過去の偉人から名前を拝借しているお笑い芸人! ていうかゴッホの名前が出てきちゃうとどう足掻いてもそれこそ人気ピン芸人の『永野』さんの顔が思い浮かんじゃうから! 大物アーティストに限って芸名なんて適当に付けたって言って格好付けるけど絶対にそんなわけないんだから10年20年先を見据えてもっと真剣に考えないと! …ってアレ? もしかしてその色紙、Aの名前が書かれてない?」

A「あー、そうだね。これ確か単独ライブの出待ちをした時に書いてもらったやつだし」

B「やめようよ…。よっぽど人気で世に出回っているサインの絶対数が少ない人とかじゃないと宛名入りのサインは売れないことが殆どなんだからさ…。宛名入りの直筆サインは出品者のサインを書いてもらった人との思い出が画面越しに伝わってきちゃうんだよ…。フリマアプリで売れ残ってる宛名をモザイクで隠したサイン色紙を見るたびに少し切ない気持ちになるんだよ…」

A「18番の方! 3,2000円で落札です‼︎」
B「ああゴメン多分その人よっぽど人気ある人だったんだね! ここは素直にAの先見の明を褒めておいてあげるよ! でも売れ残った宛名入りの直筆サインはいつまでも出品したままにしてないで一思いに燃やしてあげてね!」





A「それでは続いて2つ目の品物でございます! 『ミケランジェロ』がリリースしたーー」

B「え!? 『ミケランジェロ』って『ダビデ像』で有名な彫刻家兼画家で、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』と並ぶ元祖マルチクリエイターの芸術家じゃん!」

A「違う違う。数年前に設立されてから原作に忠実なアニメーション作りに真摯に取り組む姿勢が評価されて徐々に業界の信頼を得始めている新進気鋭のアニメ制作会社『ミケランジェロ』の初のオリジナルアニメである『首ノ皮少年 -継<ツナグ>-』のキャラクターデザインを務めたイラストレーター『睾丸ムチ』さんによる複製サイン入り色紙だよ!」

B「何かそのアニメのタイトル、そこはかとない『TRIGGER』感が否めないね…。というかイラストレーターさんって覚えてもらえたら何でもいいや的なノリで名前を決める人が多いイメージなんだけどもはやここまで来たんだね! 成人誌上がりの匂いを隠す気がさらさら無いその潔さにもはや好感すら覚えるよ! …ってそこまで熱弁しておいて複製サイン入り色紙なの!? 絶対に直筆サインでなきゃ有り得ないテンションで喋ってたよね!?」

A「…別に複製サイン色紙でもよくない? 何をそんなにムキになってるのさ」

B「私、昔から複製サインの良さが何も分からないんだよね…。だって複製だよ? 直筆じゃないんだよ? そんなん言ったら本人が自らデザインしたグッズの類も全部複製サイン入り色紙みたいなものだし、そもそも複製サインが見たい!ってタイミングが見当たらなくない? 直筆サイン入り色紙やグッズをフリマアプリで購入する時に筆跡を確かめる時くらいにしか使用する用途がないっていうか、それすらも他のファンが持ってる直筆サインの画像を検索する方が複製サイン入り色紙を探すよりよっぽど速いと思うんだよね」

A「何で複製サイン入り色紙を無くしていることが前提なのさ…。もしかしたら目に見えるところに飾ってるかもしれないじゃん」

B「それに、何とか複製サイン入り色紙に付加価値を見出そうとコピーサインやプリントサインみたいに手を変え品を変えそれっぽい名称にたまに変えているところも腹立つんだよね。複製サインは複製サインでしかないんだから余計な手を加えるべきじゃないんだよ! たまに直筆サインと間違えて手に入れて喜んでいるお子さまもいるからね!?」

A「11番の方! 300円で落札です‼︎」

B「ホラもう送料と手数料を差っ引かれればもはや何のために出品しているのかよく分からないくらいの利益しか出ないであろうフリマアプリの最低販売価格で購入されちゃったじゃん! でもそういう商品に限って二度と手に入れる手段のない細々としたものだったり非売品が多かったりするから出品者さんマジでありがとうございます!」





A「それでは続いて3つ目の品物でございます! 3つ目は『モネ』がリリースしたーー」

B「おー、『クロード・モネ』は『睡蓮』や『印象・日の出』が有名な印象派を代表するフランスの画家さんだね」

A「1st写真集『モネのひので』の早期購入者特典で参加したインターネットサイン会で本人に書いて頂いたデジタルサインです!」

B「…えーと、この『秘宝』ネタは世界的に有名な画家さんとニッチなオタクグッズあるあるを組み合わせることで笑いを誘うシステムであることは重々承知なんだけど、肝心な商品がどこにもなくない?」

A「二次元漫才でメタをしないで!? 構成が複雑すぎて『インセプション』みたいになっちゃうから! えーと、今私が出品したのは有名女性コスプレイヤー『モネ』さんの1st写真集『モネのひので』の早期購入者特典で参加したインターネットサイン会で書いてもらったデジタルサインだから、現物がないのは当たり前だよ?」

B「私もうAが何を言っているのか1つも分からないよ…」

A「デジタルサインっていうのは文字通りインターネット上の画像なんかに書いてもらう2次元のサインのことで、インターネットサイン会は広義的にはインターネット上でサイン会を行って後日その3次元のサインが郵送されるという形式のものも含まれるんだけど、ここで私が出品しているのはあくまで2次元のサインだからデータ上のものであって現物はどこにもないんだよね」

B「もはやオタクは対面で握手会すら安心してやってもらえない世界になってしまったんだね…」

A「まあインターネットサイン会が急速に広まった背景にはもっと別の要因があるってことはちょっと考えれば分かってもらえると思うけど、対面形式は危険は危険だからね。オタクは推しと、供にその推しを推しているファンの尊厳を背負っている自覚をしないと後々こうやって自分自身の首を絞めることになっちゃうんだよ!」

B「まあでもデジタルサインとはいえ同じものはこの世に1つしかないわけだし、一応商品としては成立している、のかな…」

A「私も実はちょっと前まではインターネットサイン会って聞いて鼻で笑っていたんだけどまさかこれが後のNFTの前身だったなんて思ってもみなかったよ!」

B「…で、誰も購入する意思は無さそうだけどどうするの?」

A「責任を持ってスマホごと一思いに燃やすことにするよ…」

B「絶対にそこまではしなくていいよ!? ああゴメンその発想に至ったの完全に私のせいだったね!?」





A「それでは続きまして4つ目の品物でございます! 『フェルメール』がリリースしたーー」

B「おー、『ヨハネス・フェルメール』はオランダを代表する『真珠の耳飾りの少女』や『牛乳を注ぐ女』などの有名な作品がとても多い画家さんだね」

A「芸歴20年を記念して刊行された著書『自分が「お姫様」になれる環境で輝きなさい』の購入者限定特典であるサイン印字レシートです!」

B「ねえちょっとさっきからサイン系の商品しか出てこないんだけど今日何かそういう縛りでもしてるの!?」

A「こういうオークションは商品のジャンルごとにブロックで分けられていることが多いんだよ。だから今はサインが中心になってるブロックってだけ」

B「初っ端からサインが中心のブロックは渋すぎない!? いやオタクグッズのオークションにおける香盤表の正解なんて知る由もないけどさ! この分じゃあバンクシーの出品した作品とやらは当分先の話になりそうだね…。それで、今回のはどういった商品なの?」

A「物怖じしない強気な発言で注目を集めている人気タレント、フェルメールさんの人生を一冊にぎゅっとまとめた著書『自分が「お姫様」になれる環境で輝きなさい』の購入者限定特典であるサイン印字レシートだよ。既に出荷部数は20万部を超えるベストセラーで特典はもう手に入れることはできないからこの商品はかなり貴重だと思うよ」

B「そこはどうでも良いよ、どうせファンが全員買ったが故のベストセラーなんだからさ。タレントの書いたエッセイをファン以外が読んで感銘を受けるなんて体験はこの世には存在しないんだよ! 私が気になっているのはその、…サイン印字レシート? の方だよ」

A「あーこっちね。このサイン印字レシートっていうのは最近流行っている特典で、特定の書店で書籍を購入した際に貰える特典のことだよ。複製サインがコピーサインやプリントサインみたいに手を変え品を変えそれっぽい名称に変えている話はさっきしたと思うけど、このサイン印字レシートはその亜種だね。著者のサインがレシートに印字されているものが貰えるんだけど、ぶっちゃけると紙質の悪いステッカーみたいなものだからね」

B「よくそんなぶっちゃけた話をお客さんの前でできるね…」

A「2番の方! 50円で落札です‼︎」

B「サイン印字レシートに価値がないのかフェルメールさんに人気がないのかは分からないけどとりあえずここはAの商売下手のせいにしてお茶を濁しておこうか…」





A「それではいよいよ最後の品物でございます!」

B「サインが中心のブロックのままオークション終わっちゃった! ということは今から紹介されるのがバンクシーの作品ってこと? バンクシーの直筆サインとかならわりとシャレにならない値段で売れると思うけど…」

A「『ムンク』がリリースしたーー」

B「…『エドヴァルド・ムンク』はノルウェー出身の『叫び』を描いたことで世界的に有名になった画家さんだね。つまりバンクシーとは違う画家さんってことにはなるんだけど」

A「エドムンパンです!」

B「…ハイ?」

A「知らないの? 大人気子供向けアニメ『エドヴァルド・ムンク』、略して『エドムン』のキャラクターを模したパン、通称『エドムンパン』だよ?」

B「何そのポケモンをモロパクリしたコンテンツと商品名! …でもアレでしょ。こういうのってオマケが本体じゃないけど、付属しているシール目当てで大人が買ったりするものじゃん。最近もポケモンカードの転売目的で並ぶ転売ヤーが問題になっていたりするわけなんだし」

A「付かないよ」

B「…へ?」

A「何も付かないよって言ったの。パンが気持ちちょっとキャラクターに似てるってだけ。実際にはパッケージのイラストを重ねてそれっぽく見せているだけだから袋から取り出したらもうほとんど見分けがつかないよ。まあ言っちゃえばシールなしポケモンパンみたいなもんだね」

B「汁なし坦々麺みたいに言わないでよ!? え、まさかたまーに存在するとくに何かシールやステッカーなどの特典が付いているわけでもない、キャラクターのイラストがパッケージにプリントされただけの食品類を今この場で売ろうとしてる!? ここまがりなりにもオークション会場だよ!?」

A「6番の方! 1円で落札です‼︎」

B「パンはパンだからって後ろの席のおばあちゃんが気を使って買ってくれたじゃん! バンクシーの作品が出品されるって聞いたからここまで付き合ってあげたけどそれが嘘なら本当に来た意味なかったんだけど! …あれ? 今何か変な音がしなかった?」

A「え? 別に私は聞こえなかったけど…」

B「…あ、あそこ‼︎ 額に飾られていた1枚のカードが仕込まれていたシュレッダーによって少しずつ裁断されてる!? この演出、もしかしてバンクシーの有名なやつじゃ…」

A「あのカードは複製サインだから大して価値が付かないだろうと思って出品を取り下げた商品をインテリアとして飾ってるやつだから別に大丈夫…。いや、まさか、もしかしてアレは…価値のあるタイプの複製サイン!?」

B「え、どういうこと!? 複製サインに価値が付くことなんてあるわけないじゃん‼︎」

A「ヴァイスシュバルツのような排出率が低いタイプの複製サイン入りカードだったり、映画館で週替りで貰えるようなイベント来場者のみに配布される類の複製サインは複製サインだから価値があるっていうよりも市場に出回る数が少ないからという理由で高額で取引されているんだよ…。きっとあのカードもそういうタイプの複製サインなんだと思う。査定を怠った私のミスだね」

B「複製サインにも色々な種類の複製サインがあるんだね…」

A「…あ、違う。これ過激な炎上商法の連続によって全ての層からそっぽを向かれて大爆死したアニメ『ばん!ばん!バンクシー‼︎』の複製サインだからどっちにしろ価値ないやつだね」

B「最前列に座っていたお客さんたちが急にカメラを取り出して一斉にシャッターを押し出したよ!? 誰がこんな中身の無いオークションのスポンサーをやっているのかずっと気になってたんだけど、これ多分スポンサーに『ばん!ばん!バンクシー‼︎』製作委員会が入ってるよね!?」

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