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006_忘れられない11月29日

もうすぐ29日から30日になろうとしてる。
ボクの隣には彼女がいて、
ボクを思いっきり抱きしめてくれていた。



時計の針を少し戻すと...


この日の午前中、
ボクは仕事で人と会っていた。
2日前に自殺をしようと遺書を残した人。
面会して、話を聞き、
自殺では何も解決しないことを伝えた。
小一時間ほど経ったところで、
その人とは別れた。

「もう大丈夫。彼はもう自殺しない」
ボクはそう上司に報告した。

午後、外出の用事でいつもと違うオフィスに行った。
この日は部下を連れていたので、
帰りに飲むことを約束していて、
夕方近くなったので、
そろそろ行こうとした、その時。
ボクの電話が鳴った。上司からだ。

午前中に会った人が、
ビルから飛び降りたとのこと。


ボクは一瞬、頭が真っ白になった。
まさかとは思ったけど、事実であった。
感情が表に出る前に行動に移した。

小さい行動から始めた

部下に今日は飲みに行けなくなったと伝え
社内の調整で、いつもいるオフィスに電話し
これまでの経緯を時系列で整理し
今後の対応案を上司に報告した

訃報から5時間が経過していた
部下も帰り、周りに誰も残っておらず、
オフィスにはボク一人ぼっちだった。

感情が表に出てきた。
涙が止まらない。
理由はわからなかった。

ボクのことを知ってる人に
話を聞いてもらいたかった。
誰かに慰めてもらいたかった。
大丈夫だよって、言ってほしかった。
あなたは悪くないって、言ってほしかった。


帰り道、
「今日出勤してる?」彼女へのLINE
「あと、5分でつくよ(笑)」
珍しい彼女からの即レス

今日は、彼女のお客が来る予定はないみたいで、
ボクは、彼女に会いに行くことにした。


「どうしたの?何があったの?」
優しく彼女が問いかけてくる

ボクは今日一日あったことを彼女に話した。

「大丈夫?」彼女はそっとボクを抱きしめてくれた。
余計なことは何も言わない、
ただ彼女の細い身体でボクを包んでくれた。

そんな彼女が愛しくてたまらなかった。

結局、ラストまでお店にいて、
ボクは浴びるくらいアルコールを飲んだ。
彼女は、ボクのペースに合わせて、
色んな話題でボクを楽しませてくれた。

この日を境に、
ボクは益々彼女にはまっていくことになった。




今でも、
あの日のことを忘れられないし、
あの時、彼女がいなかったら、
ボクは今、
真っ直ぐ歩けてなかったと思う。