百人一首についての思い その85

 第八十四番歌
「ながらへばまたこの頃やしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき」 
 藤原清輔朝臣
 この世に生きながらえたら、またこの頃のことを懐かしく思い出すだろう。憂いに満ちた昔を、今は恋しく思うのだろうから。
 
 Since I now recall fondly
 The painful days of the past,
 If I live long, I may look back
 on these days, too.
 And find them sweet and good.
 
 清輔の父親の顕輔は若くして白河上皇の院判官代に任じられた。地道に努力して評価を得た。だが、その息子の清輔は若い頃は才能がないといわれ、全く評価されなかった。しかし、人間は厳しい試練に何度もあうと、人間が鍛えられて大きく成長するのが普通である。その試練に耐えられ場に脱落する人も多いが。そして、清輔は厳しい試練を耐え抜いて中年になってようやく頭角を表した。
 
「ながらへば」というのは、清輔本人が長生きするという意味ではない。英語訳では本人が長生きすれば、という文脈で捕らえているが、それは読みが浅い。清輔がいいたかったのは、人の世が長く続くという意味である。つまり、自分達の子孫が続けば、という意味である。「憂しと見し世」とは、「厳しい試練の最中」ということを意味する。つまり、不評だった当人の若い時代のことを指す。
 
 他人がどのような評価を下すにしても、己は己の誠意を貫けば良い。功績や手柄を狙わず、淡々と仕事をこなして責任を果たせば、いつの日か理解してくれる人も出てくる。そのように清輔は言っているのだと思われる。
 

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