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天使はこの世界を去った後だ -NEEDY GIRL OVERDOSE プレイ後記-

はじめに

 「NEEDY GIRL OVERDOSE」は――最早説明も不要に思えますが――2022年1月にsteam版が発売され、全世界で70万本の売上を達成した配信者育成ADVです。

 もともと企画立案のにゃるら氏に敬意を抱いていたことや、ヒロインであるあめちゃんのデザインが非常に好みだったこともあり、何となく興味を惹かれながらも、元々アドベンチャーゲームにあまり触れてこなかった、パソコンの前に座ってゲームをするのがめんどいなどの理由で何となく見て見ぬふりをして来ました。

 ただ、今回(といっても前年秋ですが)switch版が発売されたことでようやくプレイに至った結果、これがとんでもなく私の魂を抉る作品であったために居ても経っても居られず、何でもいいから何かしらこの作品について自分の想いを世に残したいと思い、こうしてキーボードを叩いています。

 ゲームのコンセプトがどうとかはもうプロのゲームレビュアーの方々に賛否両論触れられ尽くしているため割愛して私の癖の話をするのですが、ヒロインのあめちゃん。この娘がかわいい。本当にかわいい。

めんどくせ~(かわいい)

 公式サイトでの紹介にもある通り、彼女はワガママで、承認欲求が強く、気まぐれな少女です。プレイヤーである「ピ」に対してすきすきと言いながら、エンディングによっては何のためらいも無く切り捨てますし、こっちが気を遣ってステータス管理をしているというのにコマンドを強制させたり、配信を休んだり、上のスクショのようなランダムイベントで勝手にストレスが上がったり(微量ですが)、未読無視に痺れを切らして出て行ったり、プレイヤーは彼女に振り回されることになります。

 ですが、彼女を性格が悪いメンヘラ少女と言い切ってしまうのも少し違う気がします。「ピ」は彼女に指示こそ与えますが、配信のネタを見つけ出してくるのはあめちゃんですし、絶妙なネタのセンスや気丈な振る舞いで配信に訪れたオタク達を湧きあがらせているのもあくまであめちゃんです。引きこもりのような前印象に反して東京の各所にお出かけもしますし、何なら出会い系にまで手を出します。初配信の「帰れ」というおもんないコメントにも、「お前が帰れ。指示厨だけは勘弁な」と毅然と言い放ち、インターネット強者の風格を見せつけます。本人は「顔面が最強でよかった、それだけは自信持つ」と自虐しますが(顔面が最強なのは事実ですが)、それだけでフォロワーが100万人に届こうはずもありません。そんな、内に秘められた強さ、それに気付けていない哀しさも、私を魅了したのでした。

ここ弱ってる人の解像度高過ぎてすごい

 ですが、配信をする度にあめちゃんの心には負荷がかかり、ゲーム上でもストレス値としてそれを見せつけられます。私の選択のせいで自傷行為に走り、配信で「人を救える大人になってね」と微笑む姿には毎回心が痛みました。そして、目標の100万人を達成して30日目を迎えてもなお、あめちゃんの心は空虚であることが示されます。公称「マルチ破滅エンド」のどこかにひとさじでも救いは在りはしないか、全エンディング解放で見られるという「ひみつのこと.txt」に何かがあるのではないかと、飽きっぽい私としては珍しくこのゲームを何度も周回プレイし、エンディングを全開放し、明かされた真実に呆然とし、そしてどこかすとんと腑に落ちたのです。

 以下、各エンディングのうち、特に私の心に残ったものについて所感を述べていきます。当然ですがネタバレを含みますので、未プレイ、未クリアの方はご注意ください。

各エンディングについて

Os-Alien

 最初に迎えたエンディングです。というか、大体の人が最初に迎えるのはこのエンディングか、やみ度が0になってあめちゃんが社会に迎合していく「Healthy Party」でしょう。エンディングというよりはゲームオーバーな気がします。そんな美少女ゲームがあるかよ。ゲーム画面が「好き」で埋め尽くされる演出は何やら幸せそうで、何ならこれがハッピーエンドでいいんじゃ……と最初は思っていたのですが、これがそうでもありませんでした。詳しくは最後に。

Utopian Parody

 初回プレイで期限内に100万フォロワーを達成できずに迎えたエンディングです。あめちゃんにブロックされる展開はショックでしたが、後に知った情報によると好感度が一定値以上でなければ発生しないエンディングとのこと。「これ以上私の承認欲求にピを付き合わせられない」という、彼女なりの気持ちがこの展開にはあったの……かも……?

 ちなみに、このエンディングタイトルは映画「パプリカ」の劇中歌である平沢進の「Parade」からの引用でしょう。あの映画や平沢進はわたしも好きなので、ちょっと嬉しかったです。

(Un)happy end world

 初めて目標を達成した時のエンディングです。フォロワーが100万人になっても彼女は満たされない。だったらどうすりゃいいんだよ……と絶望したのを覚えています。

THE INTERNET ANGEL Be INVOKED

 なんかひたすら配信を繰り返したらフォロワーが9,999,999人になってしまい、いきなり発生したエンディングです。最後の配信前に表示されるネットの反応のトンチキぶりには笑わされました。「自他ともに認める最も顔のいい存在となる」ってなんだよ。そして始まる天使の降臨と、インターネットの終焉……。いや何この、何? ある意味ハッピーエンドなんでしょうが……とりあえずこれを見て、私の力だけで出来る事はもうないと悟ったので、ここからは攻略を解禁する事にしました。

Catastorophe

 あまりにもシンプルで残酷な関係性の崩壊。エンディング全回収のため、心を鬼にして無理やりストレスを上げたり、もっと増やせるはずのフォロワーを無理やり抑制したりしたわけですが、これは本当に辛かった……。「私のために何もしてくれなかった嘘つき」というあめちゃんの罵声は、今でも胸に突き刺さっています。

Labor is Evil

 Catastropheとフォロワー数は同条件ですが、こちらは好感度が高く、やみ度が低いと発生するエンディングのようです。配信者をやめ、普通の人間としてピと共に生きていくことを選んだあめちゃんですが……。そう簡単に行く筈もありません。現実を突きつけられる、哀しい最後でした。

There Is No Angel

 条件としてはLabor is Evilと対になるエンディング。こちらのあめちゃんは社会に溶け込んでいく選択肢を選ぶことが出来ず、飛び降り自殺配信という暴挙に出ます。余りにも洒落にならないというか、このゲーム本当にSwitchで出して大丈夫だったのかという疑念が湧く展開ですが、コメントの悲痛な制止の声の中、真夜中のビルの屋上でこちらに手を伸ばす超てんちゃんの姿がひどく美しく、大好きなエンディングの一つです。

NEEDY GIRL OVERDOSE

 メインタイトルを冠したエンディングですが、全くもってハッピーエンドではありません。ただ、この名前が確かに一番相応しいのはこのエンディングだろうな、という気がします。割れた液晶に映る、血塗れの包丁を握ったあめちゃんの姿にはゾクゾクしました。かつて一世を風靡した「ヤンデレ」の概念を本歌取りしたような展開で、個人的な性癖としては大満足です。

INTERNET OVERDOSE

 ネット上で「七色ゲロエンド」の俗称で呼ばれるエンディング。……ですが、そのギャグめいた響きに反した最悪の展開でした。些細なアンチの言葉がきっかけで全てが崩壊し、狂気に蝕まれ、まほうのおかしの過剰投与を繰り返しながらも配信をやめないあめちゃん。ファンの心配の声すらもう目には入らない。この世の全てが敵に見えて、ついにはピすらもその狂気に染まっていく。「自分がこの展開を招いた」という罪悪感も相俟って、プレイヤーの心を滅多刺しにします。

 「INTERNET OVERDOSE」はKOTOKO氏が歌うこのゲームのメインテーマのタイトルでもありますが、そちらは打って変わって、そこかしこに闇を感じさせながらも明るい曲調。作中でも聴くことが出来ますが、その条件を達成するにはこのエンディングを回避するのが必須……というところには唸らされます。インターネットという刃を武器に出来る者、逆にそれに殺される者……ゲーム内に二つ存在する「INTERNET OVERDOSE」の名は、それを暗示しているのでしょうか。

Milkey Way Train

 他とはやや違った雰囲気の、幻想的で美しい一枚絵とオルゴールアレンジが織り成すファンタジックなエンディングです。他もそうですが、「真実」を知っているか否かで大きく印象が変わる気がします。どちらにせよ、超てんちゃん=あめちゃんはプレイヤーを置いてどこかに消えてしまうわけですが……。また、Youtubeの動画に「この一枚絵だけ超てんちゃんの唇の血色が悪い」というコメントがありましたが、それに本家「銀河鉄道の夜」の展開を踏まえると……。

Happy End World

  「不明なエンディング」。実機のネット回線を切断する(Switch版では機内モードにする)という、魔王物語物語の「窓を後ろに」を思い出させるメタ的解法で到達できる隠しエンドで、「ひみつのこと」解放の達成条件にもなっていません。そんな離れ業をさせるのだからこれこそがトゥルーエンドだろう……と思わせつつ、実際の展開は、「超てんちゃんが配信者を引退し、インターネットがそれを皮切りに衰退していく」というだけのもので、あめちゃんとピのその後は明示されません。ここを想像に委ねてくるあたりからは、何となく製作者の美学を感じます。



※以下、本作の核心に迫るネタバレを含むため注意※



Data0 ひみつのことに関する考察

 何度も心を圧し折られそうになりつつも全エンドを回収し、タイトル画面に出現した謎のData0。クリックすると、自動でゲームが展開し始め、驚くピにあめちゃんは「一人でやってみようと思う」と告げます。今まで見てきたような風景の早回しの中、難なくあめちゃんは一人でフォロワー100万人の目標を達成。

「今までありがとう」「この先の未来は自分で手にする」

 それだけ言って、あめちゃんはデスクトップを去っていきました。残ったのは空っぽの椅子が映ったウェブカメラだけ。これでようやく、ゲーム開始時から隠されていた「ひみつのこと.txt」が閲覧可能になります。そこに書かれていたのは、衝撃的な――しかし、どこかすとんと腑に落ちてしまう事実でした。「ピ」、即ちプレイヤーはあめちゃんの想像上の存在であり、実在する人物では無かったのです。

 起動画面で表示される、「Proffessor:raincandy」という文言も今思えば伏線でした。ゲーム画面の視点はピからのものではなかった……というか、あめちゃん自身のものだったのでしょう。ピはあめちゃんの内面に居る存在なのですから当然です。

 こうなると、好感度100でゲームオーバーになるのも合点がいきます。それは自分が作り出した幻想の恋人に囚われることに他ならないのですから。Os-Alienとは、要はあめちゃんの人格が異質なもの=ピに乗っ取られてしまった、ということを意味しているのでしょう。

「ピは優しかったけど、やっぱりそれだけじゃ物足りない」
「今度は永遠に夢から覚めないくらい、完璧なピにしなくちゃ」

 テキストに添えられたそれらの言葉はこれまで寄り添ってきた「ピ」に対してあまりに薄情にも思えるもので、多くのプレイヤーを絶望させたようです。しかし、私は、この結末は一概にバッドエンドとみなされるべきものでもないのではないか? と思っています。

 その理由は、ゲーム内でのざつだんLv5配信「イマジナリー・ドリーマー」の内容です。この配信内であめちゃんは、自分にかつて妄想の友達がいて、毎日一緒に遊んでくれたことを語っています。だけど、そのイマジナリーフレンドは今は消えてしまった。妄想の友達よりも、インターネットの方が自分に寄り添ってくれると気付いた事がきっかけになったそうです。

 ここで私が目を向けたのが、「ひみつのこと.txt」内の画像データです。

 まるで幼い子供が描いたような筆致は、幻想の恋人を作るほど闇に囚われている今のあめちゃんが描いたもの……とも考えられますが、今の彼女ではなく、本当に幼い頃のあめちゃんが描いたものとも考えられるのではないでしょうか?

 だとしたら、黒髪の女の子=あめちゃんと手を繋いでいる金髪の彼女は、件のイマジナリーフレンドなのでは? そして、その服装や髪型は、超てんちゃんの姿そのものとまでは言えませんが、よく似ています。つまり、あめちゃんは、「超てんちゃん」という自分の配信時のアバターを作るにあたって、かつて自分を支えてくれたイマジナリーフレンドをベースにしたのではないでしょうか?

 もう消えてしまった、かつて自分のそばにいた友達のことを、あめちゃんはちゃんと覚えていたのです。理想の姿に投影するほどの思い入れを抱き続けていたのです。だとしたら、「ピ」である我々のことだって、あめちゃんは忘れずにいてくれるのではないか。そんな希望を私は抱きます。

 だとしても、あめちゃんはこれから新しいピを作り出すことを示唆している――つまり、我々がいなくなった後も、ずっと幻想の恋人に縋り続けるだけ。本当にそれでいいのかと思わない事もありませんが、それは客観的な視点でしかありません。たとえ端から見て歪でも、狂っているように見えても、それが彼女にとっての幸せなら、私に言えることはありません。

 先にも言った通り、あめちゃんはなんだかんだ、強い女の子です。それに、何百万人のファンと、それを勝ち取るだけの魅力があります。インターネットという戦場で、砂糖菓子の弾丸を撃ちまくって世界を渡り歩くことが出来る女の子だと、私は信じています。ピに別れを告げた後でなら、「NEEDY GIRL OVERDOSE」という、破滅で閉ざされたピンク色のデスクトップの外でなら、彼女はきっと幸せを見つけられる。

 だから私は、この結末をハッピーエンドだと信じる事にしました。あめちゃんは私の元を去ってしまいましたが、その思い出の一部だけにでも自分がいると信じられるのなら、それで充分です。

 すべては一夜の夢になってしまいましたが、いい夢でした。

さよなら、あめちゃん。

 

 



















 

 

 

 

 

 

 

 

 

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