微生物の寿命について考察。微生物は無限に増える?【2024.5.12更新
生物の構成単位である細胞。
細胞は2つに分かれて増えます。
微生物の場合で言えば、倍々ゲームで増えていくので、一つの微生物の細胞が一晩たったら一億個、なんてことも決して珍しくありません。
では、細胞は無限に増えることができるのでしょうか?
細胞の種類
実は細胞の種類によって、傾向が異なるので、まずは細胞の種類を整理してみます。
細胞の構造によって、生物は「真核生物」と「原核生物」に分かれます。
「ヒト」、パンやビールの発酵に用いる微生物「酵母」、「乳酸菌」「納豆菌」を2つに分類してみると以下のようになります。
同じ微生物であっても、「酵母」と「乳酸菌」「納豆菌」とは分類が異なります。
さらに細胞の構造だけで見れば「酵母」は「ヒト」と同じ分類になります。
酵母の増殖
まずは「酵母」のお話から。
パンやビールの発酵に用いる微生物が「酵母」です。家庭でパンを作るときに入れている「ドライイースト」が「酵母」ですね。
パンやビールに使う酵母は、出芽といって芽を出すように増えます。
そして、出芽のたびに、お母さんにあたる細胞(母細胞と言います)に「出芽痕」という構造ができます。
ひとつの母細胞の出芽回数は、文献によれば平均で23.9回。無限に増える、というわけではないようですね。
娘細胞には「出芽痕」がないので、その後も分裂できます。
命のろうそく
私たち人間を含む真核生物。真核生物の染色体には「テロメア」という構造があり、これが細胞分裂の回数を制限しているのでは、とも言われています。
テロメアは「命のろうそく」なんて表現もされますね。「テロメア」が寿命に関わっているかはともかく、私たち人間は少なくとも寿命が存在することは事実です。
細菌の寿命
一方で、「乳酸菌」や「納豆菌」などは「寿命がない」と言われていますが、「調べるのが難しい」と言うのが実際のところのようです。
文献情報のまとめ
文献情報をまとめると、「真核生物」と呼ばれる「ヒト」や「酵母」には寿命がある一方、「乳酸菌」や「納豆菌」などの「原核生物」はよくわからないが「寿命がない」とも言われている、と言うことになります。
では、これら文献のとおり、本当に細菌に寿命はないのでしょうか?
確たる証拠がないから寿命がない、とも言い切れないんじゃないのかなあ、というのが私の意見です。
細菌の「変異」
というのも、細菌はどんどん増殖していくと、一定の割合で遺伝子に「変異」が発生します。そうすると、元の細菌とは性質が変化してしまいます。
そうすると、もりもり増えている細菌も無限に「同じ性質のまま」増え続けることは難しいわけです。
ある意味、変異が発生すると「元の性質」は「寿命を迎える」とも言えるのではないでしょうか。
「不老不死」「永遠に変わらない」というのは、どこか憧れるところもありますが、どんな生物にとっても非常に難しいものと言えそうです。
ちょっと専門家向け「増殖」自体も実は難しい
微生物を勉強する中で比較的初期に出てくるものに「増殖曲線」というのがあります。初めは1つの細胞が、2個、4個、8個...、と倍々に増えていく(対数増殖)んですが、だんだん栄養などが枯渇することで、一定の細胞数に収まっていくというものです。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/guidelines-for-maintaining-cultured-cells/
この「増殖曲線」。微生物学の基礎でありながら、色々と奥深い世界だなあと感じさせられる面があります。
細胞が倍々に増えていくわけですがら、増えていく初期の細胞は若者のイメージ、栄養が枯渇してくる頃の細胞は中年のイメージでしょうか。そうすると、何か実験をしたり菌の保管をするときには、若者の状態の方がいいのかな、というのが率直なイメージではあります。
ところがどっこい、微生物を保管するときには倍々で増える後半の段階(対数増殖期後期)がどうやら一般的には優れているそうです。若者の細胞より、中年の細胞の方が、保管に対するダメージは少ないとのことです。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cryopreservation_5/
これから伸び盛りの若者よりも、酸いも甘いも噛み分けた細胞の方が保管に優れているとは。割と長いこと微生物に関わってきましたが、この知識は全く知りませんでした。
微生物の世界に限らずかもしれませんが、「基本」と言われることこそ、その背後には奥深い物があるんだなということを再認識しましたね。「対数増殖期」なんて単語、随分昔に知っていたはずなのになあ。
微生物に興味を持たれた方へ
最後に、こちらの記事で微生物に興味を持たれた方。こちらの微生物写真集「微生物の世界」は美しい写真が満載でおすすめです。ただ、如何せん高額なので、大学図書館などで一度見てみてると良いと思います。
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