見出し画像

WOWOWで実写版配信中『三体』レビュー 期待を上回る完成度だったサイエンス・ミステリードラマ

劉慈欣りゅう・じきん原作の大ヒットSF小説『三体』(早川書房)が遂に映像化。WOWOWオンデマンドでドラマ版(制作:中国 テンセント社)の配信がはじまった。

原作既読勢からすれば、あまりにデカいスケールの作品であるがゆえに映像化には正直不安があった。ところが配信を観てみたところ、期待以上の完成度にビックリした! なんなら原作よりも先にこのドラマ版を観ちゃうというのもアリだし、劉慈欣作品の入門編として最適じゃないだろうか。

10/7から配信の1〜10話は、めちゃくちゃスタイリッシュなサイエンス・ミステリードラマとして仕上がっている。これから12月にかけて残り20話が配信予定で、宇宙規模で繰り広げられる物語を十分な尺で描いてくれそうだ。以下、見どころを紹介しよう。



最先端科学トリックに驚愕

ドラマ版の第1話、物語は全世界で相次ぐエリート物理学者の自殺事件からはじまる。

彼らはみな死の直前、謎めいた言葉を残していた。

これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのは分かっています。でも、ほかにどうしようもなかった」

この奇妙な事件の探偵役として登場するのが、冷静沈着で繊細な科学者・汪淼ワン・ミャオと、野生的な嗅覚で数々の難事件を解決してきた敏腕刑事・史強シー・チアンだ。

彼らは、被害者たちが「科学フロンティア」という国際学術組織と接触していたことを突き止める。汪淼は組織への潜入を試みるが、超自然的な怪現象が次々と起きて捜査は難航する。

誰が、どうやって物理学者たちを死に追いやったのか? そして一体何のために……? 汪淼と史強が「敵」の正体に迫るにつれ、全人類を恐怖に陥れる巨大な陰謀が明らかとなる。

『三体』で何といっても凄いのは、最先端の物理学や天文学を総動員したトリックだろう。どうやら犯行は、はるか宇宙から地上に向けて行われているらしい。しかも、光の速さで進んでも何年もかかる場所からなので、もはや密室殺人並みの不可能犯罪感すらある。

この「空間」と「時間」という分厚い壁をいかにして破るのかが、サイエンス・ミステリーのキモだ。原作者の劉慈欣は、ワープやタイムトラベルといったお馴染みの技術には頼らない。あくまで現代科学の知見を使って、怪事件のウラにある仕掛けをラストでドカンと見せてくれる。

作中、高エネルギー粒子加速器とか宇宙マイクロ波背景放射とか科学用語が次々と登場するが、あまり深追いせずに観てもストーリーの理解上問題ないような親切設計になっている。とにかく原作者の科学への偏愛に圧倒され、「なんかすげえ!」という感覚に浸るだけでもすごく楽しいのだ。このあたり、庵野秀明が脚本を手掛けた映画『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』に似た作風かもしれない。


不穏なエンディング曲の意味

ドラマのエンディングで、毎回、意味深長かつ不穏なテーマ曲が流れている。筆者としては、歌詞の内容が非常に気になって仕方がない。

僕は目にした 信じ難い事実を
もうすぐこの星は消える 
僕は知った 誰も予想しない未来を 
もうすぐ君の星は罰を受ける

我々の星が「罰を受ける」とは一体どういうことなのだろうか?

歴史を振り返れば、人類は取り返しのつかない罪を何度も犯し続けてきた。例えば、森林伐採や水質汚染などの環境破壊。そして暴力と憎悪がぶつかりあう文化大革命が、物語のもうひとりの主人公・葉文潔イエ・ウェンジエの視点で生々しく描かれる。まさにこれこそが、今回の怪事件の発端だった。

また、人類というのは、今戦っている「敵」に比べたら非常に劣った存在らしい。喩えるなら、我々の知性は農場で飼育される七面鳥程度だという。おまけに、敵である農場主に生殺与奪の権を握られている。

しかし、人類は強い生存本能を持ち、ずっと「しぶとさ」を発揮して生き延びてきたというのも事実だ。それを象徴するかのように、ドラマ版は、敵に抵抗する人類の姿が原作よりも鮮明に描かれる。史強は科学者たちの身を守ろうと大胆な作戦を展開するし、汪淼は怪現象の恐怖にめげずに自身のナノマテリアルの研究を再開する。

以前、劉慈欣は『三体』についてのインタビューのなかで、次のようなコメントをしていた。

「人間の自画像はたしかに美しくない。ですが別の角度から見ると人類の文明は強い適応能力を備えています。智恵を振り絞り、努力を重ねて、苛酷な環境を乗り越えるとともに、自身の欠点を改善してきました。人間はその歩みの中で、科学革命や工業革命を経て現代文明を作り上げました。(中略)私個人は人類の未来に対して楽観的です。人類が自分の暗い側面を克服する可能性は十分にある

(「Voive」2020年11月号より)

そんな力強いメッセージを投げかけてくる『三体』。11月4日から配信開始の中盤戦に大いに期待したいし、作中で登場するVRゲーム「三体」の描写はここからが本番だ。恐らく誰も観たことがない映像になるだろうから、要チェックだ!

番組情報

「SF超大作『三体』」(全30話)
[WOWOWプライム]で3カ月連続放送
10月7日(土)、8日(日)後0:00から第1話~第10話放送(各日5話ずつ)
11月4日(土)、5日(日)午後0:00から第11話~20話放送
12月9日(土)、10日(日)午後0:00から第21話~30話放送
[WOWOWオンデマンド]で配信

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?