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本屋大賞2024ノミネート小説全作レビュー【第4位〜第6位編】

今年2月以降、筆者はノミネート作品全10作を制覇しようと黙々と読んでいたところ、世の中には同志とも言える読書家が多くいることに気がついた。

同志が集うのは、読書家コミュニケーションサービス「読書メーター」。筆者はこのサービス内で一冊ずつレビューを書きためており、高評価のリアクションボタンをくれる相手のプロフィールを一通りチェックしていた。

そうしたら、まぁ書店員さんや図書館司書さん率の高いこと高いこと! 自腹でノミネート作品を買い、年に一度の「本のお祭り」を率先して楽しむことで、盛り上げようとする業界の方々の激しい熱量を感じた。

やっぱりお祭りは、ただ見ているだけじゃつまらない。とにかく自分も参加して「踊る」しかない。それもできるだけ前の方で!

本屋大賞なら、一冊でも多く作品を読む。同志と感想を語りあう。そして授賞式をドキドキしながら生中継で観る。これに限るなぁと思った次第である。

それでは前回に引き続き、第4位から第6位までレビューしよう。

第4位『スピノザの診察室』作:夏川 草介/水鈴社

【『神様のカルテ』超えの医療エンタメ】

過去の名作『神様のカルテ』に続き、終末期の患者を看取る静かなドラマが繰り広げられる。でも本作はそれだけではなく、『ブラックジャック』ばりのスリリングな展開もあるから実に豪華な作品だ!

医師でありながら哲学者だともいわれる主人公・マチ先生。日々、「不治の病に冒されても、人は幸せに生きられるのか?」という問いに向き合い続ける。

彼を取り巻く師弟関係、ライバル関係、そして「親子」関係……。読者の心を掴んで離さないエピソードが次々と描かれるなか、後半戦では最高難度の症例患者がマチ先生のもとへ飛び込んでくる。

そんな急展開からの、じんわりと余韻の残るクライマックス。
医療エンタメとしてぜひ読みたかった要素が「全部載せ」になっている作品だ。

また、先述のマチ先生の問いは、現役医師の作者・夏川草介自身が向き合い続けるテーマでもあって、今作ではスピノザの思想が「補助線」として用意されている。

これまでよりも、更に深く深く思索して書かれたであろう本作。今の作者が出した答えを、じっくりと噛みしめてほしい。

第5位『レーエンデ国物語』作:多崎礼/講談社

【自ら道を選ぶ主人公・ユリアが頼もしい】

目を引く華やかな装丁だ。金の箔押しが施されていて、幻想的な森が描かれた表紙を見ると、読む前からワクワクする。上橋菜穂子作品(例えば『精霊の守人』シリーズ)のような王道ファンタジー好きにぜひお勧めしたい本で、オマージュと思われる設定や描写が作中に散りばめられている。

舞台は中世ヨーロッパ風の異世界。貴族の娘であり、望まぬ政略結婚を強いられていた主人公・ユリアが異国の地「レーエンデ」へ旅に出るところから物語ははじまる。

読んでみて、本作は「自由の渇望」を描く作品だと感じた。でもそれは、必ずしも「勝手気ままに生きる」ことを意味しないのというのが面白い。

ユリアは、ただ現状から逃れたいという一心で祖国を離れた。だが、旅を通じて気づく。あえて面倒な責任を背負い、他者の意志を受け継ぎ、今後の人生の原動力にする選択肢もあることを。そして大事なのは、自分自身の意志で道を選ぶということを。

はじめのうちは自己肯定感が低く、自分のことを空っぽの人間だと言っていたユリアが次第に成長していく。そして物語が進むなかで、いつかは父を凌ぐ名君になるんじゃないかと思えてくる。読んでいるうちに元気をくれる力強いヒロインだ。

第6位『黄色い家』作:川上未映子/中央公論新社

【「自分を守ってくれるのは、自分で稼いだ金だけだ」】

筆者としては、10冊のノミネート作のなかで最も予測不能な展開の作品だと感じた。

高校生の主人公・花(はな)は、裏社会の仕事に手を染め、深い沼のなかへと自ら突き進む。次第に不穏な空気が漂い、どんどん逃げ道が閉ざされていく。読んでいて怖い怖いと思いつつも、ページをめくる手は止まらない。それはもう「ノワール小説」として最高に面白かったという証左だ。

幼少のころ母親から育児放棄を受け、経済的な困窮状態にあった花は、カネに対する強い執着を持っていた。でも彼女の心には「強欲」なんてものはひとかけらもなく、ただ、経済的に自立し、自分で決めた人生を生きるための手段を求めていたのだった。

育児放棄と貧困というテーマは、他のノミネート作品(『水車小屋のネネ』や『存在のすべてを』、『星を編む』)と通ずる。一方で、本作が際立っている点は、経済的な弱者から強者にのし上がった者の「欺瞞」を鮮烈に描いたところだろう。

花が破局へと一気に転がり落ちていく後半部が凄い。もうそこからラストまであっという間に読んでしまった。圧巻の600頁だ!

それでは、続きは【第7位〜第10位編】で。次回もよろしくお願いします。

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