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『アフガニスタンの診療所から』 中村哲

『アフガニスタンの診療所から』
中村 哲 1993年 ちくま文庫

「近代化された自我には個性的な顔がない。日本の女たちには少ないかがやき、あくの強さ、しぶとさと弱さ、高貴と邪悪が素直にとなり合っている。
アフガニスタン-それは光と影。強烈な陽光と陰影のコントラストは現地の気風である。暗さが明るさに変わる奇跡を私は信ずる者である。」

「だが、まるで異物を排して等質であることを強制するような合意が日本社会にはある。ある種の底意地の悪い冷厳な不文律が、いかようにも説得力のある拒絶の論理を提供するように思えた。~私はただ、拙い表現のなかに真実を、正統な論理のなかにおごりを、耳ざわりの良い修辞に偽りを発見しようとしていた。」

「戦争も平和も実は等質なのであろうか。」

戦争も平和も等質。先進国がビジネスのようにあげつらい、騒ぎ、発展の遅れた国を侵略し、危険が迫れば放棄して逃げていく。
武力の蹂躙と、正義を盾にした蹂躙。まぎれもない悪意と、偽善と表裏一体の親切心。
果たして何が善、何が悪。

現地の人々の生きる姿を、市民の生活を、激戦地と呼ばれるアフガニスタンに暮らす私たちと変わらない人々の喜怒哀楽を伝えたいだけなのに、すべてが政治的なフィルターとともに解釈され、主張が独り歩きをする。
人はみな、人を憐れむのが得意だ。そこに住まう人々の顔を見ようとしない。表情の機微は自分たちにだけ許されたものだと思っている。

そういう同情が必要な場面ももちろんあるだろう。優しい心のおかげで生きられる命もあるだろう。
だが、それだけで世界が回れば苦労はしない。

そういう小さくて大きな人の思い違いと闘い続けるのが、中村氏の行いではないだろうか。それがすべてではなくとも、語る一つの術であることは真実だと思う。

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