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Lapin Ange獣医師の「ネットで見たんだけど・・」 番外編: イヌがドラッグ・・・米国事情

3月15日,このシリーズ記事で度々紹介している米国動物虐待防止協会(ASPCA: The American Society for the Prevention of Cruelty to Animals)の動物毒物管理センター(APCC: Animal Poison Control Center)が,恒例の動物毒物リストを発表しました。 2022年に同センターが扱った,全米の中毒事例の原因となった毒物を集計し,Top 10のリストを公表しています。

ASPCA webサイトからDL

プレスリリースの解説

APCC チームは 全米50 州から 278,364 匹の動物を支援しました。 チームが受けた電話相談の件数は,2021 年と比較して 5% 近く増加しました。 史上初めてマリファナベースの薬物,幻覚性キノコ,コカインなどのレクリエーショナル ドラッグが10位に入り,ガーデニング製品はTop 10リストから外れました。 2022 年,APCC チームが受けたマリファナ摂取に関連する電話件数は,前年よりも 11% 近く多く,過去 5 年間では3倍近くに増加しました。

これまでの約 10 年間で初めて,ヒト用医薬品の上位 2 位独占状態が解消し,総電話件数の約17% を占めた家庭用医薬品だけが 1 位にとどまりましたが,処方薬は 3 位に落ち,食品が 2 位になりました。 ペットの,胃腸の不調や腎不全につながる可能性がある,ヒト用医薬品への曝露の危険について,飼い主の認識は向上しています。  プロテインバー,キシリトールを含む製品,ブドウおよびレーズンは,引き続き食品カテゴリーで最も中毒件数が多い品目です。

APCCプレスリリースより抜粋

米国のドラッグ事情

既にこのシリーズ記事[#4キシリトール]や[#番外編 米国の迷信]でも触れましたが,日本でのイヌの中毒の原因は家庭用品によるものが多い(日本中毒情報センター資料)のに対して,米国ではヒトの医薬品によるペットの中毒が多発しています。 集計方法の違いによるところもあると推測しますが,医療制度や生活環境の違いも影響しているように思います。 
驚かされるのは,ASPCAも特記しているように,レクリエーションドラッグ,すなわち快楽や気晴らし目的で摂取する麻薬など,いわゆる「ドラッグ」による中毒が増え続け,今回Top 10入りしたという点です。 ご承知の通り,近年,米国では「オピオイド問題」が政権を揺るがすほどの重大な社会問題となっており,当局もあれこれと対策を打ち出していますが,オピオイドの中毒患者および過剰摂取による死亡者数は増加の一途を辿っています。 日本でも放送されたのでご存知の方も少なくないと思いますが,FOXの人気TVドラマ「Dr. HOUSE」の主人公が脚の怪我の鎮痛目的で使用していたバイコディンの依存症になる姿が描かれ,現実社会でも,かつてタイガーウッズが逮捕されたという衝撃的なニュースが流れた際,バイコディンを含む複数の薬剤を使用していたことが伝えられました。 オピオイドはいわゆる「Gateway Drug」になるケースが多く,怪我や腰痛の鎮痛薬として適正に処方されたものが,次第に使用量が増えて,いつしか依存症になる若年のスポーツ選手も少なくないと聞きます。
さらに,このような薬剤以外にも,法規制の違いもあり,マリファナなどの使用者が非常に多く,「スペースケーキ」とか「ハッピーケーキ」と呼ばれる大麻入りのブラウニーなどは,オランダほどではないとしても,映画やドラマでも多く見かけます。 ご承知のように「大麻合法化」の流れが世界にあり,米国でも既に複数の州で合法化されているため,家庭に存在する大麻は増えているものと想像されます。
医薬品にしても,レクリエーションドラッグにしても,家庭に置かれる頻度と量が増えると,ワンちゃんが誤食する事故は間違いなく増加します。 

日本では?

国民皆保険の日本では,医療機関で診察を受けるハードルが低く,処方薬も安価で入手できるため,常備する家庭用医薬品の種類や量は,米国よりも少ないかもしれませんが,それでもイヌの中毒事故の原因物質のうち,医薬品は約30%とされています(日本中毒情報センター資料)。
一方,レクリエーションドラッグが家庭にある率は,米国に比べると圧倒的に少ないと思うのですが,日本でも「大麻を合法化」という声は増えているように思います。 下の図は日本における薬物事犯検挙人員の推移を示したもので,全体の人員は大きく変化しておらず,覚醒剤は減少しているのと反対に,大麻は増加し続けています。 これは,メディアでも言われているように,薬物が「特殊な世界」から一般家庭に,大人から若年者に,浸透してきていることを示唆しているように思います。 さらに,最近の若年者に流行しているのが,「カジュアルドラッグ」(普通に薬局で購入できる鎮痛薬など)の大量摂取だそうで,「トー横」などでは,そのような姿は珍しくないと聞きます。

厚生労働省webサイトよりDL

結論

繰り返しになりますが,医薬品やレクリエーションドラッグが家庭に置かれる頻度・量が増えると,ワンちゃんの誤食事故が確実に増えます。 ワンちゃんに「自己責任」はありません。 私たちが確実,厳格に毒物を管理し,ワンちゃんから遠ざけてあげる責任があります。 どうぞよろしくお願いします。

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