水木洋子にめぐりあう(広報・はやさか)
こんにちは、広報のはやさかです🚲
今回は、本特集に携わる一個人として、水木洋子との出逢いを書かせてもらうことにしました。
〈らんたん・そさえて〉代表・あらきさんに声をかけてもらい、広報の仕事なら何かできるかも…と参加を表明したのが昨年3月のことでした。
実は、あらきさんの口から「水木洋子」と聞くまで彼女の仕事を意識したことがなく、観ていた作品は『山の音』と『浮雲』くらいというかなり出遅れてのスタート。
その後、上映作品が『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』と『夜間中学』に決まったと教えてもらったものの、依然として「ミズキヨウコとな?」状態の自分に対し、あらきさんは高円寺のデニーズで切々と「水木洋子」愛を伝えてくれました。
そのうえで『夜間中学』を観てみると…
昼と夜、それぞれ同じ学校に通う少年たちが、顔を突き合わせてのやり取りはなくとも、同じ机を使うことを通して心をかわしていく姿にうるっときたのですが、映画の終盤で、その場に居合わせた人びとがある物を次の人へと順々に手渡していくというシーンが2つあり、深く打たれました。
はじめはエピソードとしてじんときたのですが、そこに留まらず、たくさんの手から手へ物体が渡っていくその動きを見ていると、物語としての意味が次第に剥離されていくような感じを受けました。物質的ともいえるような接触の動作の反復は、映画全体で描かれている少年たちの非接触な交流と結びつき、写すことができないものまでも映し出しているような気がします。
この作品が素敵なことはわかったけれど、ここで脚本が果たしている仕事はなんなのだろう? もっと水木洋子さんの仕事が知りたい!——素朴すぎる疑問と好奇心から水木作品との本格的なお付き合いがはじまりました。
水木洋子の脚本作という枠で作品を観はじめ、記憶の彼方でぼんやり漂っていた『山の音』も脚本に着目して再見。
一段と際立って見えてきたのは、嫁の菊子の造形でした。
演じる原節子さんの瞳による表現も大きいのですが、決して多弁な女性ではないにもかかわらず、彼女の内に秘めた頑なさや内側から湧きおこる感情が随所に顕れています。
また、ラストは、川端康成の同名小説とは異なる映画オリジナルのもの(映画製作時に原作の連載が終了していなかったという経緯があったようです)。
原作では、食卓をみなで囲んだあとで瀬戸物を洗う菊子と舅・信吾のディスコミュニケーションが描かれ、家庭という気詰まりなフレームに閉じ込められたかのような残酷さが美しい終わりとなっているのですが、一方、映画では、新宿御苑の並木道という抜けのよいロケーションで、「ビスタ」=「見通し点」という言葉が菊子の口から飛び出します。続くのは、涙を拭いたあとの、別れというよりも門出を迎えたような菊子の晴れやかな表情と、広い空の下を歩く二人の姿。
こんな映画だったんだと驚きつつ、そうでなくっちゃ!とうれしくなってしまいました。
また、個人的な推しポイントは、水木脚本のセクシュアリティにまつわる表現の感覚です。
『山の音』を例にとると、寝室で夫が妻の名を呼び、それに対する妻の沈黙と眼差しの行方で、二人のあいだの言語外のニュアンスや映されない出来事が感じ取れるという、とても抑制的で色っぽい場面があるかと思えば、「相手を交換し合うのが流行るのかと思った」など、案外あけすけな言葉選びにもかかわらず、どこか洒落ていて気張らない科白の応酬もあったりして、なんだかいいなと思います。
成瀬巳喜男監督作とのうれしい出逢い直しもありましたが、今回の特集にあたって、水木脚本を一番多く演出している今井正監督作との出逢いは私にとって大きなものでした。
〈らんたん・そさえて〉のXとインスタグラムでも何本か紹介してきましたが、特に『また逢う日まで』(八住利雄と共同脚本)には、かなりびっくりしました。
「日本映画史に残るキスシーン」と評されることもある、硝子越しに口づけを交わすショットが有名です。
戦争という時代の大きな波に押し流されようとしている恋人たちが、その波に抗い、大きな時間の流れのなかのその一点において重なって、その瞬間が映画のなかに定着するなんて…!と、とても心奪われましたが(硝子越しなために平面的であるということもその効果を発揮しているように思います)、これは原作とされるロマン・ロランの小説『ピエールとリュース』にも登場するシーン。
フランスの反戦小説の翻案・脚色ということで、主演の岡田英次さんのモノローグや若者たちの会話に着目すると、その軽快さとモダンさに驚くことと思います…未見の方はぜひ!
また、今回の特集では、今井正監督作の『喜劇にっぽんのお婆あちゃん』をフィルム上映しますのでどうぞお楽しみに。
そして、『夜間中学』については、上映会当日に会場で販売するzine『りんどう』第1号「まるごと水木洋子」に掲載のあらきさんによるテキストもおすすめです。
製作の経緯だけでなく、映画史にもあたっている網羅的な論考なのですが、シンプルで軽やかな語り口で書かれているのでさまざまな前提知識がない私もすこぶる楽しく読みました…!
また、瀬田貞二の原作『郵便机』をどのように脚色し、さらに、どのように改稿されて映画に至ったのか、その推察もとてもエキサイティングなのでぜひ読んでいただけたらと思っています。
zineの表紙もとっても素敵で、ゲスト執筆陣に坂口理子さん、大久保清朗さん、鷲谷花さんと、かなりスペシャルな一冊となっておりますので、会場でお手にとってみてください。
いよいよ上映会が今週土曜に迫りました🌈
来場予定の方は、感染症と熱中症には十分お気をつけて、当日お越しいただけることを心待ちにしております。
また、今回は参加できないという方にとっても、次の企画につながるような場になりますよう。
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*上映企画*『今ひとたびの水木洋子 情念と交差する、社会への眼差し』
2024年8月10日(土) 13:00開場/13:30上映開始
場所:アテネフランセ文化センター(東京都・千代田区)
【上映作品】
『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』1962(昭和37)年
東京は浅草、1964年の東京五輪前夜。
レコード屋の軒先で意気投合した72歳のくみ(北林谷栄)と65歳のサト(ミヤコ蝶々)は街を彷徨いながらウィンドウショッピングや若者たちとの交流を楽しむが、実はふたりとも生きることに疲れ果てていて…。
笑いのなかに老後の幸せを問う鋭い水木洋子の視点が光る、傑作社会派喜劇。老け役の名手・北林谷栄と浪花随一のコメディエンヌことミヤコ蝶々をはじめ、豪華キャストによる競演も見どころ。
『夜間中学』1956(昭和31)年
夜間中学に通う少年・鮮太(吉岡興成)は昼間同じ机を使う少年・良平(安藤武志)から置き手紙を受け取る。手紙のやりとりを重ねるうちに鮮太と良平の間に友情がうまれ、周囲の大人たちはふたりの心の通い合いを温かく見守る。異なる境遇に育つ少年たちが互いに対するわだかまりや偏見を乗り越え成長する姿を、爽やかに描き出した名作。原作は『ナルニア国ものがたり』などの翻訳でも知られ、自身も優れた児童文学者である瀬田貞二。
日本大学芸術学部の実習作品として企画・製作された作品で、木暮実千代、小林桂樹、宇野重吉を筆頭に、日本大学芸術学部出身の出演者が勢揃いした。
【タイムテーブル】
13:00 開場
13:25 ご挨拶
13:30 『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』(94分)
〈休憩〉
15:15 『夜間中学』(44分)
+トーク:鷲谷花さん(映画研究者)
★zine販売時間:開場時~上映終了30分後
【会場】
アテネ・フランセ文化センター
(東京都千代田区神田駿河台2-11 アテネ・フランセ4階)
【料金】
一律1800円(当日券のみ)
●二本立て、入れ替えなし ●途中入場不可 ●上映30分前(開場時)よりチケット販売開始 ●映像、音声が良好でない可能性がございます。何卒ご了承ください。
🕊️映画系zine「りんどう」🕊️
第1号「まるごと水木洋子」
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