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外国語学習の動機づけ②

The bridge between reality and a dream is work. -Jared Leto-

 GardnerとLambertの研究の後、Dörnyei(2005)は、可能自己の理論に基づいてL2 Motivational Self System(L2MSS)の理論的フレームワークを開発しました(p. 105)。 可能自己というのは、Markus and Nurius(1986)が提唱したもので、可能自己とは、人がなろうとしている可能性のある姿であると説明しました。さらに、可能自己は、将来の行動に非常に強く関連しているとしています(p. 954)。人々は、将来の自分に何が起こるか想像できるので、何かに取り組めるとしています。例えば、スポーツ選手は、一生懸命やればもっと上手になることを知っているので、一生懸命練習します。この達成可能であろう将来像を、可能自己と呼んでいます。 Dörnyei(2005)は、この可能自己を基にL2MSSを理論化したのです。

 この理論では、3つの要素があります。

① Ideal L2 Self (理想自己):人が目標となる言語を話せるようになりたいと思い、そのことを理想像としてどれだけ強くイメージできるかということ。
実際の自分と理想的な自分の間のギャップを減らしたい、または、理想の自分に近づこうという欲求があるため、理想像を持つことが目標となる言語を学ぶ動機となります。
② Ought-to L2 Self (義務自己):L2学習者は、試験や昇進などの義務のために勉強することです。
③ L2 Learning Experience (学習体験):学習者に影響を与えている学習の環境や経験のことです。周りの友達や親の影響や、学習者自身の成功体験などです。

 Dörnyei, Csizer, and Nemeth(2006)の研究では、1,3000の学生を対象に理想自己を持っている学生は、より学習に励んでいるか調査しました。理想自己を描く学生が、モチベーションが高いと結論付けたのです。そして、同じ研究が多くの国で行われ、現在のモチベーションの研究はL2MSSが強い立場にあります。
 しかしながら、これだけの研究を行っておきながら、Dörnyei (2019)は、ほとんどの研究は理想自己と義務自己の研究に留まり、3つ目の学習体験を無視していると述べています。この学習体験が学習者にとって強く影響を与えているはずなのに、全く触れられていないことから、この3つ目の要素を「L2MSSのシンデレラ」と呼びました。
 確かに、プロのスポーツ選手は、幼少期に具体的な理想像を持っていたということがよく話題になります。このことからも、理想像を持つことは、その人の原動力になりそうです。しかし、多くの子供たちは、行動の原因が友達や親の影響を強く受けています。そのことを無視して、モチベーションの研究は足りないということですね。
 私の考えとしては、日本の学習者には、Near Peer Role Modelsが強いと思っています。

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