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食料システムの持続可能性を支える適切な対価・共通の負担

スリランカの紅茶農園” Horana Plantations”が、EUDR(欧州森林破壊防止規則)に完全準拠したとのこと。EUDRの対象品目に”茶”は入っていないので、天然ゴム、木材辺りでの取得かと思われます。
Horanaには、記録では2017年に訪問しています。

EUDRで厄介なのは、調達先の農園の場所情報が”ポイント”ではなく、地理的空間情報であるGISデータで示す必要があること。また、その国の国内法に適合していることの証明も必要です。この2つをクリアすることは相当に難しく、EUでビジネスを行っている企業には大きな負担になっていると想定されます。
日本がTNFDのアーリーアダプター宣言企業数がいちばん多くなった理由が、「EU企業は、CSRDとEURD対応で、TNFDどころではなかったから」とよく言われていますが、確かにハードルは非常に高いと言えます。その意味で、自主的に対応を進めてくれる農園が出始めていることは、企業にとっては大変ありがたいと言えます。

スリランカでは、各種の認証規定に非常に熱心に取り組んでいるプランテーションが多くみられます。
この” Horana Plantations”でも、HPを見ると ISO 22000: 2018/ HACCP 認証、ISO 9001認証、ISO 14001認証、FSC認証、レインフォレスト・アライアンス認証、フェアトレード認証など、たくさんの認証を取得しています。これは特別なことではなく、スリランカの紅茶農園は、この程度の認証は普通に持っています。
その背景にあるのは、長期にわたる紅茶市場の低迷です。国際市場で少しでも良い機会を見つけるためには、これらの認証取得は有利だとの判断が働いていることは確かです

問題は、こういった先進的な努力に対する適切な対価が払われていないことです。
買う方の企業にとってもCSRD/EURD対応は大変ですが、(規模の小さい)調達先農園にとってはもっと大きな負担です。そのことを、買う方の企業も、この手の規制を策定して実施する国や規制当局も、良く理解する必要があります。ダイベストメントにつながり、切り捨てることは生産国のサスティナビリティには寄与しません。サステイナブルな原材料を調達するには、調達先農園への支援も、負担の分かち合いも必要です。
スリランカは今、経済発展に伴って工場や商業など農園労働よりも収入の良い職場が増えています。そのため、農園労働者の確保が難しくなり、給与支払いや茶園労働者への適切な職場環境整備対応への出費は無視できないレベルになってきています。

「規制だけで社会を変える」手法は、限界に近付いている気がします。
規制による生産国/途上国への副作用は、無視できないレベルにまで来ています。配慮を欠けば、食料システムそのものを大きく棄損し、破壊するリスクすらあります。
「金を払えば買える」時代は終わっていると言われており、私もその点は賛成なのですが、「金」もまたサスティナビリティには必要です。
既に、FSCやレインフォレスト・アライアンスが、 認証農園の地理的空間情報を整備するなどの対応を行っていますが、農園がそれに対応する体制づくりもタダではできません。
こういったシステム整備のための支援を同時並行的に行うなど、共通の受益者として持続可能な食料システムを整備する(私たちが消費者が適切な原料を使った製品には適切な対価を払うことも含めて)相応の負担を受け入れる社会の理解も促進する必要があります。