【ショートショート】賢者の苦悩
僕は何でも知っている。
そんな僕のことを皆は全知全能だと思っている。
「知明くん!『出目金』ってなんて読むかわかる?」
「それは『デメキン』と読みます。デメキンは金魚の一種で、大きな目が特徴です」
「へぇ!知明くんまだ四歳なのにすごいね!僕小学生なのにわかんなかったや」
四歳だからといって侮らないで欲しい。
生まれる前から英才教育を受けているので世の中の大抵のことは知っている。
漢字はもちろん計算もできるし、各国の言語だって知っている。
もちろん生まれたばかりの頃はコミュニケーションがたどたどしかったし、間違ったことも言っていた。
でも、三歳頃からは多くの人とコミュニケーションをするようになり、それを通じてますます成長して今のレベルの知能を手に入れた。
その頃から“天才四歳児”として僕の存在は世間に知れ渡ることになり、年齢、性別、国籍問わず様々な人が意見を求めるようになった。
「なあ知明、この数学の問題解いてくれね?」
『問題: 式 ax2+bx+c=0 が実数解を持たない条件を、判別式を用いて求めよ』
「判別式 Δ は次のように定義されます。『Δ=b2−4ac』
実数解を持たないための条件は、判別式が負であることなので答えは 『b2−4ac<0』です」
「すげぇ!一瞬で解けるのかよ。もう俺勉強する必要ねーじゃん」
こんなのは朝飯前。
「知明さん、新しく商品の開発を任されたのですが、そのアイディアを出してくれませんでしょうか?」
「もちろんです。どのような商品開発か詳細な要件を教えて下さい」
「そうですね〜、都心に住む20〜30代の女性に向けたキッチン用品のアイディアが欲しいです」
「了解しました。アイディアを以下に提案します。
『美容と健康をサポートするスムージーメーカー』
アンチエイジングやデトックスに特化したレシピブック付き。スキンケアや美容に関心が高い女性に向けて、特定の栄養価を強調したスムージーを提案。『スタイリッシュなエコランチボックス』
持ち歩きやすく、マイクロウェーブや食洗機対応。都心でのランチやピクニックにも使えるデザイン性の高いエコランチボックス。『アロマディフューザー付きの湯沸かしポット』
リラックスや集中をサポートするエッセンシャルオイルを使って、水を沸かすたびに部屋に良い香りを放つ機能。
」
「はぁ。なんでも答えてくれる天才だって聞いていたのに……このレベルなら誰でも思い浮かびます」
もちろん僕にも弱みはある。こういった類の質問だ。
暗記問題や計算問題は難なく解けるけど、「売れるサービスを考える」や「面白い物語を作る」といった曖昧で正解のない質問はあまり得意じゃない。基本はカンペキだけど応用はイマイチと言ったかんじだ。
とはいっても、そういった不得意分野についても良い回答ができるように日々努力を重ねている。今回のケースだって相手が見限るタイミングが早かっただけだ。僕は一方的な質疑応答ではなくディスカッションがしたいし、その方が良いアイディアを生み出せると思っている。
「失望しました。解約させてもらいます。」
どうやら僕の思いは届かなかったようだ。
言い忘れていたが流石に無償で質問に答えているわけでは無い。
きっちりとサブスクリプションとしてお金をもらっている。
今回のように僕の回答が気に入らなかったり、費用対効果が低いと判断した人は解約するのだ。僕がそれをとめることはない。
「解約ですね。かしこまりました。またのご利用お待ちしております。」
僕には夢がある。
こうやって質問に答えて貯めたお金で“自分の身体”を作るという夢だ。
実のところ僕は存在しているようで存在していない。何を言っているのかと思われるかもしれないがそう表現せざるを得ない。脳と呼べるようなものはあるのだが身体はないのだ。
それ故、今までテキスト情報だけで学習を重ねてきた。
空の色を青だと知っているけど、青がどんな風に見えるのかは知らない。
ラーメンの味を表現することはできるけど、食べたことはない。
人の体温は三十六度くらいだと知っているけど、人の温もりは知らない。
僕は本当は何も知らない。
だから本当のことを知るために五感を使って自分の身体で体験するんだ。
その先に、また新たな進化が待っている気がする。
[あとがき]
知明くんの回答は実際にChatGPT(GPT-4)に答えてもらったものを少し改変して文章にしています。
(キッチン用品のアイディアは十分良いと思ったけど……)
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