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生活者目線の「メタバース憲章」草案を考えてみた!存在の自己決定権に立脚、個人情報を取り戻す - ソーシャルVR

 生活者目線のメタバース憲章を考えてみた。多くのメタバースユーザーがメタバースを使う目的を「なりたい自分になりたい」としている一方、Meta(Facebook)は実名と実肉体を基準にメタバースを普及させようとしているからだ。個人情報が企業や政府、悪意のあるユーザーなど、自分が意図しない使われ方をされる可能性もあり、「メタバース憲章」を宣言する必要性を強く感じた。インターネットのように新たな生活基盤となりつつあるメタバース。さっそく「メタバース憲章」草案を考えてみたい。

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メタバース憲章草案
【前文】メタバースは、人類が初めて本質的に手にした、存在と空間の自由を実現する技術的手法である。既存の物理社会的空間由来の原則により、個人の存在と空間の自由が抑圧され、メタバースが実現しうる個人の基本的な権利を制限することが無いよう、メタバース憲章を宣言する。
 【第一条】すべて個人は個人として尊重される。メタバースは個人の権利と自由を実現させることを主目的として拡充される。
 【第二条】すべて個人情報の権利はその人個人にあって、メタバースにおいて収集された個人情報は、私企業や政府その他他者によってみだりに侵害されない。また個人情報の用途は、要望があれば、常にその人個人の権利に基づき把握、差し止めをできるようにする。
 【第三条】すべて個人はメタバースにおける本質的な権利として、存在の自己決定権の実現、空間構築、創作、言論、集会、結社その他すべての表現の自由を有する。私企業や政府、その他あらゆる他者によって侵害されない。
 【第四条】すべて個人はメタバースにおいて経済活動の自由を有する。個人は私企業その他他者によってメタバースにおける個人の経済活動の権利をみだりに侵害されない。
 【第五条】すべて個人は本質的な権利として、メタバースにおける生活、労働、社会活動その他文化的営みを行う自由を有する。私企業や政府その他他者によって侵害されない。

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 以上のように、個人の権利を大まかに書いていくものになった。大まかな内容になったのは、細かく規定すると将来、技術の向上でさらに広がった権利や自由を侵害する可能性があるからだ。なぜ、それぞれの条項が必要になるのか、簡単に見ていきたい。

【前文】メタバースは、人類が初めて本質的に手にした、存在と空間の自由を実現する技術的手法である。既存の物理社会的空間由来の原則により、個人の存在と空間の自由が抑圧され、メタバースが実現しうる個人の基本的な権利を制限することが無いよう、メタバース憲章を宣言する。

 VRやARのように、感覚の操作を組み合わせて作ったメタバースで可能な行動は、物理現実に比べると自由度が高い。また、物理現実に対する不可逆的で実体的な影響を及ぼす力も相対的に強くない。より他者に対して物理的な影響を及ぼさないため、メタバースにおいては物理的にも社会的にも自由度が高い。物理現実では不可能なことが可能になるものの、それが「現実ではありえない」ことを理由に、制限されないようにすることを宣言している。表現と現実の狭間に生まれたメタバースはあくまでメタバースという手段であり、人間ができることの幅が少し広がるだけだ。

【第一条】すべて個人は個人として尊重される。メタバースは個人の権利と自由を実現させることを主目的として拡充される。

 現在、基本的には私企業がメタバースを提供する状態になっている。企業において利益の追求は継続的なサービスの提供のために必要なものの、単に必要に迫られた概念を実現させるために企業という実体を選んでいるに過ぎない。あくまで個人の選択肢を広げることが目的だ。特にメタバースは将来において生活インフラになりえるため、こうした社会的な責任が重要になってくる。

 【第二条】すべて個人情報の権利はその人個人にあって、メタバースにおいて収集された個人情報は、私企業や政府その他他者によってみだりに侵害されない。また個人情報の用途は、要望があれば、常にその人個人の権利に基づき把握、差し止めをできるようにする。

 フルボディトラッキングがメタバースに存在するアバターに反映されるということは、メタバースの提供者は人間の行動そのままを収集できる能力を持っている。文字ベースの現在のインターネットでも我々は既に行動から情報を利用されている。メタバース「cluster」には社内限のCS用機能として「過去を再現する機能」が存在していて、荒らし報告があったときはその現場を再生して見てるということをCEO加藤直人氏がTwitterで明言している。メタバース企業が集めたこうした記録が将来的に正当に利用されるかは不透明なため、個人情報が個人のものあるという明文化は重要になる。データの個人主権だ。

 【第三条】すべて個人はメタバースにおける本質的な権利として、自己自己決定権の実現、空間構築、創作、言論、集会、結社その他すべての表現の自由を有する。私企業や政府、その他あらゆる他者によって侵害されない。

 全世界のVRメタバースの利用者約1200人を対象にVTuberバーチャル美少女ねむ氏が行ったアンケート調査「ソーシャルVR国勢調査」では、メタバースにおいて日本人の仮名(キャラクター名)での利用率が98%に達する。既に物理男性の76%、物理女性の5%がアバターによる性転換を日常的に行っている。理由として「より自分を表現しやすい、コミュニケーションしやすい」と「物理現実で心身の性の不一致を感じている」の合計が、物理女性で47%、物理男性で34%を占めている。また、ボイスチェンジャーや発声技術により見かけの性を変更しているユーザーも日本で15%、北米で18%おり、物理女性も39%が「女声に変換するため」と答えている。自己実現を目的にメタバースを利用するユーザーが少なからず存在していることがわかる。

 また、VRにおいてワールドやアイテム、動き、集会、団体など、様々な表現が日常的に行われている。物理的に他者に影響を及ぼさないものは表現の範疇であり、これも現実世界以上に自由として尊重されるものである。

 【第四条】すべて個人はメタバースにおいて経済活動の自由を有する。個人は私企業その他他者によってメタバースにおける個人の経済活動の権利をみだりに侵害されない。

 メタバースが日常になれば、経済活動も当たり前になるだろう。ここでは個人の経済活動に関する自由が謡われている。セカンドライフでは古くから個人の経済活動が活発で、NeosVRでは仮想通貨決済が可能だ。clusterも経済活動ができて、VRChatではVirtualMarketなどでアバターや音楽などの販売も行われている。

 しかし、経済活動の自由はメタバースの提供者が機能を変えるだけで簡単に失われてしまう。ここには民主的な手続きは一切ない。クリエイターにとって作品の対価は生活に関わる場合があり、メタバースにおける個人の経済活動はの自由は今後極めて重要になるだろう。

 【第五条】すべて個人は本質的な権利として、メタバースにおける生活、労働、社会活動その他文化的営みを行う自由を有する。私企業や政府その他他者によって侵害されない。

 メタバースは既に生活の一部になっている。ソーシャルVR国勢調査では日本人ユーザーの54%が500時間以上プレイしており、頻度もほぼ毎日が51%、47%が1回あたりに3時間以上プレイしている。40%が恋を経験し、31%がパートナー関係を経験したことがある。64%が相手の性格を重視しており、75%が生物学的な性別を重視していない。メタバースにおける新しい生活様式や価値観は既に日常になっており、香川県のゲーム規制条例のようにプレイ時間などで制限されることは、人間の文化的な生活を侵害することになりうるかもしれない。

 以上がメタバース憲章が必要だと考えられる理由だ。メタバースにおける個人の自由の明文化は、メタバース、ひいては人類文明全体の発展を促し、必要以上にモノを消費しないことで環境を保護し、私のように性別違和や障がいを抱える人間の救いになりうる。人類が初めて手に入れた空間と存在を手にする能力、人類の幸福のために最大限活用していきましょう。もしメタバースユーザーの関連団体が何らかの宣言を出す際、こちらの草案も参考にしていただければ幸いだ。

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