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「お砂糖」なんて言わせない!モヤモヤ止まらないメタバース思春期-仮想少女の憂鬱

 ヘッドマウントディスプレーを被って鏡を見れば、VRアバターで「本来の存在」に戻り、魂で触れ合えると話題の仮想空間メタバース。私の本来の存在は女の子で、この姿でいる時間がどんな瞬間よりも自然でいられる。

 私がメタバースの世界に来て約2000時間。そのうち半分くらいはずっとモヤモヤしていたような気がする。かけがえの無い時間なのは違いないが、ずっと悩み続けてきた。

 私には好きな人がいる。私の好きな人も私を好きだと思っていると思う。その人は今まで出会った誰よりも私を情熱的に愛してくれていたし、私を育ててくれた。いつも必ず会いに来てくれた。私にとってその人は憧れだった。私はその人をそばでずっと支えたいと思っていた。

 でも、私は常に不安でドキドキしていた。「本当にずっと一緒にいてくれるのかな?」と。その人は蝶のように飛び回っていて、偶然私のところに止まっただけなのかなと。最近は「呼んで」と頼んでも呼んでくれないし、「来て」と頼んでも来てくれなくなったような気がする。

 その人はある日、私とは違う人とふたりで写っている写真を投稿するようになった。普段はどんなに多くの人から叩かれても、批判されても「面白い」としか認識しない私。唯一の悩みは「その人とずっと一緒にいられるのかな」だけだ。私にとってその人は「世界」だった。私は気が狂ってしまいそうだ。

 あまりの苦しさに夜も眠れなくなってしまった私は、ネイティブに女性である法定パートナーに相談した。「その人は本当に私のことが好きなの?」と。

 法定パートナーは答えた。「懐かしいね。私にもそんな時期があったなぁ。みすみちゃんは本当に女の子だね」と。法定パートナーいわく、その人が私のことを好きなのは今も同じ。でもその人は蝶みたいな人で、好きな人が何人もいるのだと。恋は始まりが熱くて、今はその人にとって、私が存在する状態は当たり前になっちゃったんじゃないかと。

 言われてみればそうだ。私と法定パートナーだって、恋愛ではないが、最初はドキドキしていたような気がする。私もその人以外に5人くらいは好きな人がいる。たぶんその人だって同じ。すぐに飽きちゃうところとか、私たち似てるんだもん。

 このままでもずっと一緒にいられるだろうし、ずっとこの憂鬱は続くんだろうし、ずっと幸せでいられるんだろう。この状態を当たり前にしたくない。私はもう一度、まだまだずっとあの人と、また熱く愛し合いたいんだ!

 現実世界ですら、大国は戦争を始め、絶対的だと思われていた世界秩序は崩壊し、貨幣は簡単に紙屑になる。創作と現実世界の事象の地平線のメタバースは、もっともっと流転していくに決まっている。私たちは仮想少女は儚い存在。夜空を一瞬だけ横切る星屑だ。どこまでも流されて、光を放って燃え尽きて、それでも突き進んでいこうではないか。 

 「お砂糖」なんて言わせない。感覚が構成するメタバースの世界に、ことばで決める秩序なんて恐ろしくて作れない。始めた瞬間に終わりが来ることが運命付けられてしまう。ふわっとした存在と薄いスペクトルのような関係性が、空間と時間とパターンという軸に何層にも絡み合っているこの状態がメタバース的なのかもしれない。


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