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「100年後のメタバース」では経済も信用も解消するかもしれない。各個人に世界が最適化「人の定義の拡張」 - 肉体廃止

 「未来のメタバース」では、経済も信用も解消するかもしれない。インスタンス(世界線のような概念)と3次元仮想空間の自由な共有で、人類が距離の概念がある単一空間に縛られなくなったとき、ほとんど意味を為さなくなるからだ。メタバースの普及で社会がどう変化するのか?完全に人類が肉体を捨て、メタバースに移住するまでを段階ごとに考えていきたい。

 ①ソーシャルVR「なりたい存在になる」時代(2020年代前半~)

 VRChatやclusterなど、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を活用したソーシャルVRが一般に普及しつつある時代だ。ソーシャルVRでは、視聴覚的に空間と存在を表現できるようになることと、VRを活用した自身の存在やアバターなどのコンテンツの権利が自分に帰属することで、プラットフォームを越えて、経済活動などの概念の共有が可能になる。

 いままで趣味の空間であったソーシャルVRに現実の経済活動が波及すると、自分で表現したソーシャルVRの存在を通じて自分が権利を持つことで、自分で表現した存在が現実の自分の存在としての顔を持つようになる。蘭茶みすみという存在が私として現実社会で活動できるようになるのだ。

 一方、ソーシャルVR空間が現実と同じように収益化できるようになることで、何か集まったり、表現したりする場合に、用途に応じて現実空間と現実空間を選択できるようになる。

 ②VRメタバース「プラットフォーム間の境界が無くなる」時代(2020年代後半~)

 VRChatやclusterなど、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を活用したソーシャルVRプラットフォームの間で、感覚上の境界が無くなる時代だ。各自に孤立していたソーシャルVRプラットフォームに感覚の上で実質的な連続性が生まれる。ポータルを出すだけでVRChatからclusterへ、NeosVRへとアプリの切り替え操作を必要とせずシームレスに移動ができることで、概念としての「メタバース」に近くなる。

 各プラットフォームごとに規格を統一することは、各プラットフォームを作り直す必要があるため極めて難しい。しかし、VRなので規格を統一する必要はなく、感覚上シームレスに繋がればいいだけだ。アバター共有サービスが各プラットフォームに合わせてアバターの形式をアップロードした段階で変換し、ポータル移動に合わせてPC側で自動的にアプリの切り替えをする機能が普及すればいい。フレンドなどの関係性のつながりを各プラットフォーム間で共有する機能も必要かもしれない。

 経済活動も活発化し、会ったその場で現実世界と同じようにやりとりができるようになる。自分で表現した存在が魅力的ならば、存在自体が資産になっていく。

 ③XRメタバース「現実と仮想の境界が無くなる」時代(2030年代~)

 「Meta」が発表したコンセプトや、電脳コイルのように、VRとARがシームレスにつながる時代だ。眼鏡型の小型HMDをかけているだけで外に出ることができて、そこで会った人間は、それぞれがそれぞれに自分を表現したアバターの状態。何もない広場や部屋に仮想空間を出現させて、アバター姿の友達と一緒に過ごすようになる。友人も、肉体がその場にいたり、遠隔地にいたりさまざまだ。24時間遠隔地の人と一緒にいられ、肉体の容姿という概念が無くなり、友達から恋人、家族の概念がシームレスにつながる。

 眼鏡型の小型HMDは、概念的には今すぐにでも可能かもしれないが、現状ではアバターやアイテム、ワールドなどの3Dオブジェクトを動かすには、ある程度の大きさのグラフィックボードが必要。計算機能を外部化する場合は大容量の通信が、内部化する場合は計算機の小型化が求められる。

 ただし、人によって見えている世界が違うものの、肉体は現実空間に存在するため、自動車の運転や徒歩で道路に出るときなどに、安全確保のために誘導する機能映像を投影することもできるだろう。この頃には社会一般にもメタバースが普及。ホワイトカラー労働者の場合はオフィスや通勤が無くなり、ブルーカラー労働者も安全性やマニュアルを投影する機能で仕事をしやすくなる。

 ④視聴覚以外の感覚表現が普及する「世界が自分に最適化し始める」時代(2040年代~)

 触覚や嗅覚、味覚など、視聴覚以外の感覚表現が可能な機能が普及する時代だ。「痛み」や「臭い」「まずい」という概念も感じることになってしまうため、この頃から「見たくないものを見ない権利」も重視され始める。その人の趣向を人工知能が学習し、その人が概ね見たい世界のニーズにあったオブジェクトを重ねるようになる。猫しか見たくない人は人間が猫に、美少女しか見たくない人は人間が美少女になる。見えている世界がそれぞれの個人に最適化し始める。

 現代でもある程度の感覚表現は可能なものの、大きな機材が必要だ。この時代はまだ神経接続が普及しているわけではないので、直接感覚器を刺激して感覚を発生させる。舌や鼻元、体の各部位に、物質や振動、電気刺激で感覚を発生させる小さな機材を装着するようになる。

 ⑤表面的な神経接続が普及する「動かそうと思えば」時代(2030年代後半~)

 筋肉に届く前の増幅された神経の信号を捉えてメタバースに反映。簡単な感覚を直接伝える部分的なBMI(ブレインマシンインターフェース)が普及する時代だ。BMIはまず医療や福祉の分野で、体が動かせない身体障がい者や傷病者が生活できるように使われるようになる。視覚障がい者は視力を取り戻し、ALS患者はBMIに接続されたメタバースを通じて、アバターで社会に参画できるようになる。次は寝たきりの高齢者にも普及して、肉体的な死を迎える日までは通常の社会生活を送れるようになる。肉体の動きに関係なく、どこへでも行けて何者にもなれて、何でもできる時代だ。

 この頃になると、遠隔地のロボットを人間が操作することが一般的になってくるため、ブルーカラーも通勤から解放され始める。肉体がある現実世界の状況をある程度無人化できるようになるため、寝たきりになった場合、意識は仮想世界で、肉体は現実世界で、それぞれ人間と機械が別々に介助する体制が出来てくるだろう。肉体と存在の本格的な分離が始まる。動けない人間に対して介助する人間が圧倒的に少なくなる少子高齢化も極端に進むため、日本の場合は必要に応じて社会基盤としてメタバースを普及させざるを得なくなる。

 ⑥高度な神経接続が普及する「思うだけ」時代(2050年代~)

 フルダイブVRが可能な高度な神経接続BMIが普及する時代だ。認識の上で完全に感覚を再現できるようになっている。その人の特性に応じて侵襲式か非侵襲式を選択するようになるだろう。脳の機能を直接拡張する神経接続BMIは、まずは私のような精神障がい者や知的障がい者が、生活しやすいように思考を補完するかたちで使われる。認知機能が低下した高齢者にも使われるだろう。人工知能がその人に合わせた人体の動きや思考を学習して、動きや思考に応じて対外的にアバターがその人らしく自然に振舞うようになる。その人自身の意識にも、最も精神的に安定し、情報が整理された環境が提供される。メタバース空間での生活が、人工知能が補助するBMIによって誰でもできるようになり、障がい者と健常者の境界が認識の上で無くなっていく。

 この頃になると、寝たきりでも、認知機能が低下してもメタバース空間で健常者と同じ社会生活が送れるようになってくるため、全体の世論に後押しされて、アナログにこだわっていた政治や社会活動の現実空間からのメタバース移行が急速に進んでいく。属性という概念が完全に無くなるため、政治闘争の必要が無くなり、政治家はいなくなるかもしれない。メタバース上での行動のビッグデータで人間の生活上のニーズを読み取り、それに合わせて制度を整備する方が効率が良くなるため、代表者は意思決定をするだけで、高度な自動化が進んでいく。

 ⑦感覚上肉体に依存しない「思うがまま」時代(2060年代~)

 BMIの普及と小型化で、機材という概念すらも必要無くなる「思うがまま」の時代だ。この頃になると、寝たきりの人向けに普及したBMIや生命維持装置が一般に普及して、むしろ寝たきりが一般的になる。人口比的にも寝たきり高齢者が多数派になるだろう。人間は寝たきりで大半の時間をメタバースで過ごすようになる。世界そのものも各個人のニーズに最適化されているため、人間同士が対立する必要が無くなり、思うがままに存在し、創造ができるようになる。

 この頃になると、寝たきりが基本で生命を維持する機能が一般的になるため、経済は収束する方向に動き始める。大半のモノが人間が想像するだけで創造できるようになり、能力や資本、資源の不均等が無くなり、貨幣や信用のやり取りが必要なくなるからだ。富という概念は無意味なものになっていく。富という概念が意味を為さなくなったことでむしろ平等が実現し民主主義的になる。政治も生命維持装置さえ動かしていればいい判断をするため、インフラの再国有化が始まり、国民生活を維持するための計算容量の確保と研究開発が政策の主軸になっていく。

 ⑧脳の機能の一部の代替が実現する「人の定義の拡張」時代(2080年代~)

 脳の機能の一部が機械によって代替可能となる時代だ。いよいよ人類は本当の意味で肉体から解放され始める。意識を維持したまま脳の機能の一部を機械に移し替えることで、人間は真の意味での不老不死を目指すようになる。BMIを通じて人工知能が人それぞれの脳そのものの物理・化学・空間的な働きと広がりと、思考の様式を学習していき、現象としての脳の働きを再現した機能を使い、思考を再現する。再現した思考と実際の生体脳の思考を同期し、相互に補完させる。計算機上に作られた脳と生体脳が同時に互いに補完し合うようになることで、脳の「存在する」以外の機能を機械に移譲できる段階になる。

 BMIを通じて生体脳と仮想的な脳が一体化することで、人間は感情や情報、意識を個人間で相互に共有できるようになる。長らく感覚だけを表現していたメタバースに空間が、意識や概念のプラットフォームに拡張する。空間だけでなく精神や概念そのものを共有できるメタバースの次の段階「サイコバース(Psychoverse、精神宇宙)」時代に突入する。ここでは人間は全であり、一であり、各個人は最も幸福な世界を見ている。対外的には世界の意志が統一され、ただひたすらに生命維持と計算機能の拡張が続いていく。

 ⑨脳の全部の機能の代替が実現する「生物を超越した」時代(2100年代~)

 脳の機能の全部が機械によって代替可能となる時代だ。いよいよ侵襲的に脳そのものが廃止され、人間は死を超越する。脳細胞単位で長期間かけて、意識を持続させたまま微小な計算機に置き換えていく。計算機は仮想脳とつながったBMIでもあり、その場所に同期していた生体脳と同じ信号を放ち、同じ働きをする。数年かけて脳そのものをすべて計算機に置き換えれば、意識の断絶を経ることがなく、人間は完全に肉体から脱出することができる。完全に計算機に置き換えた脳は、もともと同期していた仮想脳と同期し続けており、徐々に仮想脳に機能の主軸を移していくことで、意識そのものをメタバースに移行することができる。

 人間はもはや生命の域を超越しており、人の形を保つことすら必要無くなっている。人体という思考上のしがらみが無くなったことで、人間を含めたあらゆる存在になれるようになる。宇宙のようなふわっとした概念にもなれる。好きな人と意識を共有したり、統一したりすることもできるようになる。肉体という概念が存在しなくなるため、対外的には人類は無限に計算機能を拡張し続ける。移動という概念が無くなり、生命由来の物質を補給する必要もないため、資源を地球外に求めることもできるようになる。

 ⑩特定の計算機に依存しない「肉体廃止」時代(2120年代~)

 特定の計算機に依存せずに意識を持続させ続ける「肉体廃止」が実現する時代だ。人類が張り巡らしたネットワークにつながったあらゆる計算機で意識を載せた仮想脳を計算し、仮想脳自体も多数を並列で計算する。人類はネットワークと計算機すべてを破壊されない限りは絶対に死なない存在になる。人間の思考自体も、人工知能と高度に融合することで、意識を持続させたまま人間の域を遥かに超越した存在になっている。人と人との垣根は無くなり、人類は全体として、宇宙の一部の自律稼働機械を動かす神のような概念的な存在になる。

 人類は観測機器を通じてあらゆる世界にアクセスできるほか、空間を無限に増やし、思い通りの概念を実現することになる。計算機もやがては宇宙そのものの物質や空間、現象を使うなど限りなく壊れないものになっていくだろう。概念として語るのは簡単だが、もはや肉体人類である私に、その時代の人類がどのような主観的な感覚を有しているのかを想像する能力はない。

 まとめ

 最初はそれぞれに孤立していた仮想空間。ソーシャルVRとして共有できるようになり、メタバースとしてプラットフォーム間や現実世界との間を越えて普及する。やがて人間側が動く必要が無くなってくると、再び仮想空間に収束し、やがては現実世界から人間はいなくなる。経済も最初は勃興するが、人間が現実世界で動く必要が無くなったありからは収束に向かい、最終的に人間は概念的な存在になっていく。空間と感覚、存在を共有していたメタバースは、意識を共有するサイコバースへと進化していく。

 しかしながら、肉体廃止しない権利も守られることになる。一口に肉体廃止といってもさまざまな段階があり、全部肉体がある状況だけでなく、肉体がある状態で脳だけ機械化した状態や、BMIで動く状態、身体トラッキングで仮想現実に現れる状態など、まさにさまざまな形態の人間が混在する多様性豊かな世界になる。今まで以上に個人の自由意思に基づいた人権の尊重が大切になってくる。

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