見出し画像

第22回 「マキシマム ザ ホルモン - ロッキンポ殺し」の思ひ出

 組体操の大技に「五段タワー」というものがあるが、あれは要するに勃起したペニスである。我が母校では、体育祭が近づくと男子生徒たちは強制的に上半身裸にされ、汗と泥と恥辱にまみれた危険な組体操を強要された。すべては教師たちの自己満足のためであり、技の危険度に比例して教師たちのペニスは怒張していった。それは「五段タワー」の完成によって、つまり勃起したペニスの顕現によってクライマックスに達し、万雷の拍手とともに教師たちは一斉に射精をした。
 グラウンドに撒き散らされた精子を掃除し終え、ようやく教室に戻ってくると、「さあ、感想を書け」と、今度は作文を強要される。だが、こちとら教師たちの感動ポルノのために無償労働を強いられただけである。感想などあるわけがない。あるわけがないが、作文を完成させなければ家に帰してもらえないので、「クラスの絆が深まりました」とかなんとか、教師たちが喜びそうな戯言を書き連ねて原稿用紙を埋める。そうして出来上がった生徒たちの感想文を読んで、クラスの絆の深まりに感動した教師たちは、「運動会は大成功だッ!」と、今度は職員室で一斉に射精をするのであった。

 そんなわけで、おれはとにかく「文章」というものが嫌いだった。文章が嫌いなわけだから、当然ながら「文学」なども心の底から蔑んでいた。学校の国語の授業で読まされるのは、ガキ向けのくだらない教訓話ばかりであり、そんなものよりは、「コロコロコミック」のウンコやチンポのほうがずっと面白かったし、「週刊少年ジャンプ」のエロ・グロ・ヴァイオレンスのほうがずっとスリリングだった。中学になると、国語の教科書も幾分か「文学」チックな内容になるのだが、これも上流階級のお坊ちゃま向けの「高尚な趣味」という感じがして鼻についた。「昔と比べて日本人の読書量は減っている」「各国と比べても日本人の読書量は少ない」といったニュースを見るたびに、読書というくだらない営みを切り捨てる方向へと邁進している我が国を誇らしく思ったものである。

 同様に「音楽」もくだらない趣味だと思っていた。おれは昔から芸能人というものにまったく興味がなく、同級生が「オレンジレンジ」や「コブクロ」の話をしていても、最初はなんのことやらさっぱり分からなかった。「コブクロ」というのは、なにかエロいことに使ういやらしい袋であるに違いなかった。いずれにせよ、おれが興味があったのは『バンジョーとカズーイの大冒険2』『爆ボンバーマン2』の世界へと転生することだけであり、「誰々がMステに出た!」だの、チャラチャラとした俗事にかかずらわっている暇などなかったのである。

 そんなおれも、中学2年で音楽好きへと転向することになるわけだが、それはひとえに「イヤホン」という文明の利器のおかげであった。好きなアーティストができたわけではなく、単純にサウンドが脳内で直接鳴り響くというイヤホン体験そのものに感動したのだ。我が家では、最新の音楽をレンタルしてくるのはオカンの役割だったが、音楽に目覚めてからは、オカンの代わりにおれがTSUTAYAに通うようになった。ただ、それもチャート・インしたシングル曲をランダムに聴くだけで、特定のバンドにハマり込むというようなことはなかった。それでも「比較的お気に入り」のアーティストがいなかったわけではない。本ブログでこれまで取り上げてきたアーティストなどがそうであり、マキシマム ザ ホルモンもそのひとつだった。

 そんなこんなで、おれは中学3年になった。所属していたソフトテニス部の活動も、総体の一回戦であっさり敗退してしまったので早々に終了し、完全に暇な夏休みが訪れた。引退するとき、同級生たちは青春の涙を流していたが、おれはやっと面倒な部活動を辞められると思い、ひとり清々とした気分を味わっていた。貴重な夏休みが球の打ち合いに奪われてしまっては困るので、間違って勝ち進んだりしなくて本当に良かった。もちろん高校受験が控えていたが、13人しか落第しないヌルゲー高校を受験する予定だったので、特に勉強もせずにダラダラと夏休みを過ごした。
 そんな夏休みの或る日、あまりに暇なので、なんとはなしにマキシマム ザ ホルモンのウェブページを眺めていたところ、右上の隅になにやら小さなコーナーがあることに気づく。

※当時のサイトはすでに閉鎖しているので、おれが作成したイメージ画像

 「今日の亮君」

 どうやら、作詞・作曲・ヴォーカル・ギターを担当するバンドの中心人物、マキシマムザ亮君のミニ・コラムのようだった。読んでみると、マキシマムザ亮君が起こした不祥事が週刊誌で騒がれているらしく、ファンや関係者に多大な心配をかけたことへのお詫びとともに、トラブルを起こしている相手との徹底抗戦が宣言されていた。いったいなにがあったのだろう……と訝しがりながら読み進めてみると……

ん?
なんだこれ?w
なんの話だよw
知らねーよww
出たっ
りょっくんの暇つぶしw
ヽ(゜▽゜)ノ ぽへぽへ

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20070716

 純然たる作り話であった。

 ヽ(・ω・)/ズコー

 ……っとズッコケながら、思わず笑ってしまった。このようなまったく必然性のない、ただ読み手を興じさせることだけを目的とした「子どものいたずら」のような文章は、今まで読んだことがなかった。ミュージシャンといえば、「フッ……」とカッコをつけているか、愛や平和について真面目に語っているか、家族や仲間にマジ感謝しているイメージしかなかったので、こうした「いたずら小僧」的なミュージシャン像というのは新鮮だった。
 ……面白い。このマキシマムザ亮君という人物に興味を掻き立てられたおれは、前回、前々回の「今日の亮君」も読んでみることにした。

 前々回は、マキシマム ザ ホルモンが「宮古島ロックフェスティバル」に出演したときの話であった。亮君が那覇空港の待合室にいると、若い女性たちがこちらを指さして「え?りょう??」「りょうさん?」と囁き合っている。「まさか俺?」と思っていると、なんと女性たちがサインや写真を求めて近寄ってきた。「あ、うす…(*u_u)」と、照れながらも握手をしてあげようと手を差し伸べると……「りょうさん!」と叫ぶ女性たちに亮君は突き飛ばされてしまった。

そう
マキシマムザ亮君のすぐ後ろにいたのは
ケツメイシの「RYOさん」であった!
やぴー三 (/ ^^)/

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20070625

 こんな文章が「アリ」なのか……目から鱗が落ちた。今までのおれにとって、文章なんてものは、国語の教科書に載っているような品行方正でつまらないものか、教師にむりやり書かされる嫌なものでしかなかった。しかし、亮君が書く文章はユーモアや猥褻さに満ち溢れていて、どこまでも「自由」なものであった。そうか、文章というものはこんなにも「自由」なものなのか……
 おれは夢中になった。初回まで遡り、過去3年分の「今日の亮君」を順々に読んでいく。

マキシマムザホルモンのFANはいらねえ。
マキシマムザホルモンのロックのFANになってくれ

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20050817

空耳アワーなどで
馬鹿げた歌詞をつけられたり、
また小学生に替え歌されるような曲というのは
「インパクトのある発音」や「キャッチーな発音」の要素を含んでいるフレーズが多いという発見もしたのです
そこを
僕は逆に「利用してやろう」と中学生の時から考えてました
そんな「キャッチーな発音」をボーカルに取り入れたい。
さらにその「キャッチーな発音」に
真剣に意味やメッセージをもたせよう
と思ったんです

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20060714

そういう部分を見てくれないで「ホルモンってなんか面白くて好き」といわれてもあまりうれしくないのが本音です。
ロック(音楽)は表面でなく、その中身(魂)まで理解してほしいのです。
それをできない人は「ロックインポ」です=ロックを感じられないインポ人間。
つまり「ロッキンポ」です。
その「ロッキンポ」を殺してやる!(そういう価値観を壊してやる)というのが、あのアルバム、そして僕の人生のテーマです。

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20050813

 書かれていたのは「子どものいたずら」だけではなかった。亮君がロックに賭ける数々の熱い思いに触れ、おれはロックのなんたるかを学んでいった。

僕はよく「どもる」んです。
バイト募集の電話なんかしようものなら100%駄目です。
亮「あ、あ、あの…バイト募集を見てででででんわしたんでちゃられっちゃりゃれっっ」

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20050820

男子に女子にキャピキャピですよ!青春ですよ!
闇サイドに生きてきたりょっくんにはまったく無縁の世界ですw
俺はそんな青春時代を楽しそうに送ってるやつらをぶっ倒す為に
エレキギターを手にしたのだ!!
俺の青春はそこにある。

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20051105

そうだ。セックス&ドラッグ&ロックンロールの息の根を止めてやろう!

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20060314

 「今日の亮君」には、亮君の「社会不適合」っぷりを示す数多のエピソードが書かれているが、おれも他者とのコミュニケーションには不如意を抱えていたので、これには心の底から共感した。例えば、兵庫県の中学には「トライやる・ウィーク」という職場体験プログラムがある。消防署に応募したおれは、綱渡りなど様々な救助訓練を体験できることが楽しみでワクワクしていた。だが、一週間前になって「先方には事前に挨拶の電話をするように」と教師に言われ、おれは絶望した。はあ? 知らん人に電話かけるとか、そんなんできるわけないやろ。なめとんのか。死ねコラ。殺すぞ。いや、死にたい。おれが死にたい。知らん人に電話をかけるくらいなら死んだほうがマシや。いや、死ぬんも嫌や。交通事故とかがええ。交通事故に遭って全治数か月のケガを負えば、知らん人に電話かけんでもよくなる。でも痛いのんも嫌や。やっぱ死にたい……と、電話で自殺を真剣に考えるくらいには、おれも「社会不適合」だった。

 また、おれは「セックス&ドラッグ&ロックンロール」という標語には一ミリも共感したことがない。60年代には革命的で実験的な意味があったのかもしれないが、性革命を経た現代にあっては、カジュアルなセックスなどすでに平常化してしまっている。そんな時代に同級生たちが語るセックスや恋愛の話は、どうもなにかが違うのだ。彼らが興味があるのは性そのものではなく、童貞を脱することによって同級生を出し抜くことであり、性はそのためのツールに過ぎないようであった。彼らは性の自由を求める解放の志士ではなく、早く童貞を捨てて大人ぶりたいだけの、不自由な自動人形でしかなかった。だからこそ、おれは逆に童貞を大切にすることで、そういう連中を全員ぶっ倒したいと思っていた。といっても、つつましい禁欲生活をするわけではない。誰よりも性欲に満ち溢れながらも、誰よりもセックスに憑りつかれながらも、「運命の瞬間」が到来するまでは童貞を守り抜くのだ。亮君の文章は、そのような己の考えに確信を与えてくれた。

そんな俺と似たような価値観を持った人間が、まだまだ日本のどっかに隠れてるハズなんだ。
顔も見たことないけど、そいつらを「ニヤリ・・」とさせる事が
俺が音楽やってる理由のひとつかもしれないなー。

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20050929

 おれッ!!!!!!!!

 それ、おれッ!!!!!

 ここに居てまんがなッ!!!!!!!!!

 むしろ「おれと同じような思考をする人間が他にもいるのか!」と、こちらのほうが驚いてしまった。会ったことも話したこともない人間が、どうしておれの心の中を知っているのだろう……

この「今日の亮君」でもそうですが
僕の言いたい事、笑わせたい事 伝えたいことが
まったく伝わってくれないんです。
もう悲しくなっちゃいますね。

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20060622

 「クソリプ」問題は今に始まったことではない。ネタとベタの区別もつかない「ファン」や、音楽の表面的な部分しか受け取ろうとしない「ファン」たちの、あまりに無理解な反応に、亮君は悩んでいるようであった。ああ、なんて可哀想なんだ。こんなに面白いものを、世間の俗人どもは理解してくれないなんて。きっと、このミュージシャンを真に理解できる人間は、この地球上におれしかいないのだ……いわゆる「カルト的」な人気を誇る作家というのは、得てしてこのような特別な感情をファンに抱かせるものである。世間の無理解に苦しむ亮君を、おれが理解することで救済してあげなければならなかった。

 さっそく、おれはマキシマム ザ ホルモンの音楽をすべて聴き直した。アルバム曲はすべて「おまけ曲」だと思って聴きもしなかったが、そんなことはない、すべて名曲ではないか。聴いていなかった他のアルバムもTSUTAYAでレンタルしてきて聴いてみる。うむ、すべて名曲だ。すでにレンタルしているアルバムも、改めて曲解説が読みたいと思い、TSUTAYAで歌詞カードを立ち読みする。ああ、この曲にはこんなに深いメッセージが隠されていたのか!(あまりに社会に疎かったため、このときのおれにはまだ「CDを買う」という発想がなかった……もちろん現在はすべてのCDを再購入している)

 そうだ、おれは「こっち側」の人間だ。

 つまり、おれは「ロック側」の人間だ。

 おれはロックに生きるッ!!!!!

 こうしておれはロックに目覚めたのであった。ロック音楽を聴くことによってではなく、ロックな文章を読むことによって。そう、ロックへの目覚めは、同時に文学への目覚めでもあった。

 一度、文章が自由なものであると知ると、むしろおれには書きたいことが山のようにあることに気づく。運動会の感想文は「教師のオナニーに付き合わされて感想もクソもあるか! チンポへし折るぞ!」と書けばよかったのであり、夏休みの読書感想文には「こんな子ども騙しでナメくさりやがって! おチンポ出しやがれ!」と書けばよかったのである。作文が嫌いだったのは、書くことがなかったからではなく、それを書いてはいけないと思っていたからに過ぎなかった。
 ああ、おれもなんか書きてえ……という衝動が、ぐつぐつと煮えたぎってくる。そうだ、おれには文章を定期的に発表する場があるではないか。

 これは教師に毎朝提出していた「生活の記録」である。基本的には、明日の時間割や連絡事項などを記すためのものなのだが、この中に「一日をふりかえって」という欄があるので、おれはそこで日々感じていることをすべてぶちまけることにした。

 うむ。

 改めて読み返してみると、おれの文章がどうこうよりも、おれのくだらない文章に丁寧にコメントしてくれている教師の優しさに泣けてくる😭😭😭

 ってか、ちょっと「マザコン」っぽいなと思った。担任は若い女性教師だったのだが、もしもこれがイライラした感じの中年の男性教師だったら、同じようにふざけた文章を書いていたかどうかは疑わしい。どれだけ「男の子」的なくだらない文章を書いても、それを優しく受け止めてくれる女性教師に、象徴的な意味での「母」を重ねていたのかもしれない。幼い子どもが「ママ~見て見て~👶」と甘えるのに対して、母が「あら、良く書けてるわねえ👩」と頭を優しく撫でてくれるようなイメージだ。現実の母との間に癒着した関係がなかったとしても、抽象的にはすべての男性はマザコンなのである。

 なんにせよ、おれがこうして文章を書くことができているのは、最初の読者になってくれた恩師のおかげだ。ファンの声が励みになると公言する作家は多いが、あれはリップ・サービスではなく、偽りなき真実であろう。「承認欲求」が強いことは恥ずかしいこととされるが、承認されたいという欲求がなければ誰が創作などするものか。

 というわけなので、このブログも毎回2兆いいねくらいしてほしい。

 おわり

追記

マキシマムザホルモンという音楽のジャンルが「麺類」だとするならば
ボクは大好きないろんな麺類の麺を食べて吸収して
オレという体を通してウンコにする
それが俺の曲だ!俺の曲は「糞」だ!!

https://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20061118

 このブログは、様々な映画・音楽・文学・哲学などの体験が、おれという身体に吸収されて生成されたウンコである。ゆえに、糞ブログ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?