古道具店で「BAR」を開いてみた。
今年の4月半ば頃だったか、
BARの一席で決まった。
「古道具店で『BAR』をやろう」
僕はほろ酔い状態だった。
遡ること数ヶ月前、「今度、表町の方でBARを開こうと思ってまして…」と、
30代タッパのある男性が広瀬店に来店した。開業に伴う店内什器や雑貨、食器まで色々と探している様子だった。この店舗はヴィンテージ家具が中心なので、アンティーク感とか大正ロマンとか”オーセンティック”とか、独特なエッセンスで他ジャンルの家具を組み合わせ、インテリアを提案することができる。
シンプル且つモダンな家具デザインであふれかえった世の中では、全然物足りないと感じる人たちが一定数存在する。ふらっと来店してくれた彼もまたその一人だとなんとなく理解した。よくよく話を聞いてみると、過去に店舗什器を購入してくれたことのあるもう一件のBARの店主と繋がっていたらしく、ここを紹介してくれたとのこと。その店主の店内もまた、こだわりだらけの素敵なBARなのだが話が完全に逸れてしまいそうなので、その話はまた今度。
なんとなく理解したのはその方からの紹介だったので、探しているデザインはおそらく独特なエッセンスなのだろうと悟ったからだった。「ちなみに抽象的でも構いません、ざっくりコンセプトは決めれてたりしますか??」と尋ねると、「店内は船内のようなオーセンティック、且つ船内にいるのでどこか無骨な印象を持ったインテリアで固めたいですね」と彼は言った。
「店内が…船内…」なんだそれ、かっこいいじゃないか。僕の胸はすぐに踊り出した。BARの屋号は「BAR Ship」、ちなみに彼の名前にも船という文字が入っており由来でもあるとか。運命のようなものを感じた。
それから幾度も彼の思想と僕からの提案を織り重ね、一つの形になった。
店内へのこだわりはもちろんであるが、なんといっても「BAR Ship」の強みは焼酎である。焼酎は、年齢層は高め(30代後半~)で特に男性が好んで飲むお酒の印象が強く、ここ最近も変わらないイメージに引っ張られている。しかし、「BAR Ship」で飲むそれは焼酎そのもののイメージ、クセを全く感じさせない「焼酎カクテル」という提案で楽しませてくれる。焼酎をベースにブレンドされた彼オリジナルのドリンクは、やめられない、とまらない、かっぱえびせんのように一杯飲むといつの間にか「おかわり」と”言はされている”にことに気づく。
彼は、岡山市内表町界隈で有名な金星(きんぼし)というお店で働いていた経験があり、そこは元々焼酎を楽しむ場所としてかなり有名お店だ。彼がそこで得た知識と奥深い焼酎の味わい、それらを知り尽くした彼にしかできないお店。それが「BAR Ship」なのだと思う。
「古道具店で『BAR』をやろう」。
僕たちには”古道具のある箱”があり、彼には”焼酎とカクテルのBAR”がある。古道具と焼酎…どこに接点があろうか、イベントとは言ったもののどんな掛け合わせができるのか全く想像ができなかったが、あのお店が夜営業していたら、さぞ美しい景色になっていることだろうなと店内と外から見た広瀬店の想像はできていた。
路面側の入り口前にバーカウンターを置いて、そこに彼が立っている。お客様がカウンターへ向かいドリンクをオーダー。「BAR Ship」に通うお客様と僕たちスタッフが店内で販売しているソファに座りお酒を片手に会話をする。目の前に広がる古道具の光景が気になって会話が二転三転したり、留まって深く掘り下げてみたり。きっと、その光景はここでしか体験できない特別な一夜なるはずだ。
BARの隅っこのなんてことのない一席から始まる想像で僕はワクワクが止められないでいた。とにかく期日だ、立て続けにイベントが入っていたこともあり、お互いの日程を調整して7月中旬が良さそうとなった。せっかくなら2週にわたってやりたいねという話になり、後日細かい内容などを洗い出し、あれやこれやと意見を出し合った。
僕は集客の面が気になった。今回は試運転ということもあり、一日20組限定の完全予約制にして今後も視野に入れた取り組みとして開催を試みることにした。「そもそも古道具にお酒を飲みに来るのだろうか」キミドリで実際にSNS上の告知と店内でのお声がけをして集まる想像が1ミリもできなかったが、そんな心配は思い過ごしだった。「BAR Ship」での集客で思いのほか人が集まり、二週開催予定の二日目はあっという間に満席。一日目は(三連休で予定を立てている人が多かったせいか)集まりにくく苦戦したが、なんだかんだで開催一週間前には着々と予約が相次ぎ、当日ギリギリ満席に。
いつもと違う雰囲気とお酒、この”いつもと違う”という体験を楽しみにしてくれる人たちが居てくれたおかげだ。こんな手探りのイベントで不安だらけの僕にはこれ以上ないくらい嬉しい事だった。
7月14日(日)
夏祭りに出かけているような胸の高鳴りと、主催者側のピリッとした緊張感。「やっぱり初めてはこういう感覚でなくっちゃ」と、なんだかニヤニヤしてしまう僕が少し気持ち悪いと思った。
この日の一組目はカップルだった。「BAR Ship」の常連様で気さくな方が来店された。店内に入るや否やどこを見ればいいのかわからない、おそらく新しい光景に少し戸惑いを感じているようだった。ドリンクを手に取って店内を回り始めると「これ家にあるよ!」「このガラス可愛い…」「ソファいい感じだな、えっ!やすい…」聞きたい声が飛び交っていた。その後も僕の友達や、常連のお客様が足を運んでくれた。
中にはお客様同士が繋がって”案件”のような形で仕事につながる光景も垣間見えた。僕たちは普段あまり関わることができないであろう人たちと”お酒”を通じてつながることができた。店舗へふらっと入って普通通り接客という形で話す機会はあるが、そこにどうしてもスタッフとお客様という壁を感じてしまう。しかし、程よくその壁を薄くする”お酒”は居酒屋でたまたま隣の席で一緒になった人同士そのもので、気づいたらなんでも話しているような光景が目の前に広がっていた。
僕は普段どちらかというと、その席をつくる当人のことが多いが、客観的に場を見ると、温かい感覚と空間の中で一つの大きな輪となっている、人の一体感が視覚化されていた。この景色はずっと忘れないでいようと強く思った。
7月21日(日)
二回目の開催となったこの日。「今日もよろしくお願いします!」と元気のいい彼の声を確認すると僕もワクワクしてきた。初日気になったことをいくつか修正して挑むことにした。開催前からもっとあーすればとか色々な場面で後悔もあるが、今すぐどうこうできることでもない。全てを学びとして受け止めてしまえばポジティブに考えられるものだ。
一回目の開催よりは緊張もなく、ゆるりとスタートした。9割近くがBAR Shipの常連様だった。普段と違い、落ち着いたBARそのものの雰囲気を醸し出す店内の雰囲気にどこか酔いしれてしまいそうになった。この日は特に異業種が集まっていた。美容師、医者、飲食経営者…etc。そもそも古道具とは何か。そんなことをなんとなく考えながら店内を見られているような気がしたが、こうやってたくさんの人たちに古道具の空気感を言葉ではなく、モノを通して伝える手段を取れることができて僕は嬉しかった。店内の雰囲気に包まれ心地よくなっていく姿が妙に美しく感じた。
時間の限り会話をした。”接客”という枠を少しだけ超えた。お酒というフィルターはそれまで当たり前にあった社会距離を一箱に集め、そして個体距離を半歩近づけてくれた。僕らは純粋に「会話」を楽しみ、一体感を得たような気がした。
イベントを通して古道具に興味を持ってくれたり、あの場所で家具を揃えてみようと思ってくれたり、誰かの心に新しい価値を提供することができていればいいなと、思う。
BAR Ship
https://maps.app.goo.gl/wmqQ7qufRm6hVtac7?g_st=com.google.maps.preview.copy
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