2024年の1作目はPERFECTDAYS
1日は「映画の日」だということに、毎年元旦を迎えてから気づく。今年は2023年12月31日に「明日じゃん」と気づき、元旦から映画を見ることができた。映画館の会員なので予約さえできれば、いつでもエグゼクティブシートを取ることができる。サイドテーブル付きのシートはお隣との距離が確保されているし、リクライニングするし、6回に1回は無料になる。今の若い人たちはスマホで十分らしいけれど、映画館通いは私にとって欠かすことのできない娯楽である。
新年なので気持ちの良い映画が見たくて、ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司さん主演の「PERFECTDAYS」を選んだ。本編がスタートすると、商業映画とは全く異なる世界観、「想像力を働かせろよ」と訴えるような雰囲気にうわ~っと圧倒される。「こんな作品はなかなかお目にかかれないぞ、よしよし」という期待と共に銀幕の世界へ……。
淡々とした日々を毎日繰り返す主人公の平山(役所広司)が言葉を発するまで、どれほどの時間が経過したのか、役者をこんな使い方していいのかとさえ思うほど長時間だったと思う。
この作品のサブタイトルは「映画にならなかった、平山の353日」。東京都の公衆トイレの清掃員をしている平山という中年男の、映画にするほどでもない日常が淡々と描かれている。
トイレの清掃員というと誰もが憧れる職業には程遠く、どちらかというと「なりたくない職業」かもしれない。家は戦前から建っているのかと思わせる古ぼけた怖い雰囲気のアパートだが、平山には不満も悲壮感もない。
「平山のモーニングルーティン」というYouTubeが撮れそうなくらい、毎日決まった行動をそつなくこなしていく。
カセットテープを聴くことのできる車で毎朝トイレ清掃へ向かい、都内のトイレをきれいに磨き上げ、お昼はお気に入りの神社のベンチでランチ。木々を眺めてにこっとほほ笑んだりする。そういえばアパートから見える木々の葉を眺めていた時もニコッとしていた。植物が好きなのだ。ポケットカメラを持っていてノーファインダーでパシャリとやったりもする。被写体は植物が多い。
カセットテープで音楽を聴いたことがあるだろうか? デジタルとは違い、柔らかい音質には何とも言えない深みがある。平山の好む曲は70年代くらいのものなので、音楽自体も今のモノとは全く異なるし、曲から見える景色はとてもウェットで情感にあふれている。あの頃をかすかに覚えている私には心地よく耳に届いた。
映画が始まってしばらくは、正直「うわ、最下層の人の話か…」と少し引いてしまう。家も怖い雰囲気だし、玄関を開けて見上げる空も雨の日が多く、うんざりしてくるし、古びた車、公衆トイレ、気が滅入りそうな題材のオンパレード。
だけどいつの間にか、カセットテープの柔らかな音のように、景色もどんどん柔らかくなっていく。不思議と心地よくて、あったかに思えてくる。ボロアパートの室内も雑居ビルの地下食堂も、コインランドリーも、銭湯も、お世辞にも魅力的とは言えない感じなのに、ちょっと行ってみたくなっている自分がいた。
魔法のかかっている映画なのだ。
また、ヴィム・ヴェンダース監督の手にかかると、東京ってこんな美しさのある街だったんだとちょっとビックリしてしまう。私たち日本人は近代化ばかりを追い求め、欧米に追いつこうと必死になってきた。古くから日常に存在しているものはわざと見ないようにしてきたけれど、日本のオリジナリティは実はここだよと、外国の人が教えてくれるなんて、ちょっと恥ずかしい。
下町のあの橋、あんなきれいだったっけ?
銭湯ってあんなに気持ちよさそうなところ?
誰もが見たことのある東京の景色、高層ビル街、環七とか環八とか、日が暮れる様子がとてもやさしく描かれていた。
唐突だが「木漏れ日」って日本語にしかない表現らしい。映画を見終えてから検索しみると、「森林などの木立ちから太陽の日差しが漏れる光景のこと。 英語で説明するとしたら“Sunlight that filters through the leaves of trees.”となるが、 繊細すぎて外国の方には伝わらない」とあった。
もしこのつたない文章を読んで「PERFECTDAYS」を観に行ってみようかなと思う方がいらしたら、頭の片隅に「木漏れ日」を置いて映画館へ向かってみてください。もう一度ゆっくり見てみたいと思う。お正月に鑑賞することができてよかった。すてきな作品だ。
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