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湖畔の時間 の わたしの時間|イベント企画・コミュニケーション 柴田菜々の視点

白樺湖で2020年11月に行ったイベント「湖畔の時間 2020」から早くも半年。「湖畔の時間 の わたしの時間」シリーズとして、各クリエイター視点で見たイベントの裏側を、5回に渡りお届けしてきました。

「湖畔の時間 2020」は初めてのイベントながら、たくさんのクリエイターや地元の皆さまの力を借りて、1400人の方にご来場いただき大成功となりました。

今回は、その土台となる企画やコミュニケーション全般を担っている柴田菜々が、自身の言葉でイベント運営の裏側をお伝えします。

▼「湖畔の時間 の わたしの時間」アーカイブ
#01 湖畔の時間 の わたしの時間|ロゴデザイン・アートディレクション木本梨絵の視点
#02 湖畔の時間 の わたしの時間|装飾美術 佐藤千穂の視点
#03 湖畔の時間 の わたしの時間| サウナ監修(TTNE) / DJ 伍堂英太の視点
#04 湖畔の時間 の わたしの時間| アーティストブッキング・制作運営統括 井出辰之助の視点
#05 湖畔の時間 の わたしの時間| シーシャ提供(Shishar's)チル兄の視点

柴田菜々
都内PR会社で4年勤め、独立。地方でエリア開発や企業の事業企画、PRなど行うquod,LLCに所属する傍ら、フリーランスのPR広報として活動。「愛を持って向き合うこと」を軸に、コミュニケーション全般の企画・実行を行う。北海道に移住し、旅や大自然から得たインプットを仕事でアウトプットする毎日を送る。趣味はサウナ、フライフィッシング、SUP、音楽、映画。
白樺湖にはquodのメンバーとして参画し、イベントを始めとしたコミュニケーション分野の企画を担当。

はじめに / 「湖畔の時間 2020」を振り返って

ありがたいことに、イベント開催から半年以上が経った今でも、私のまわりでは「湖畔の時間 2020」の反響が続いています。

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地域を盛り上げたい人、自治体関係者、クリエイター、デザイナー、音楽・イベント関係者、PR関係者など、多方面から「いいイベントだったね」という声を頂けるのは企画者として嬉しい限りです。各業界から「珍しさ」「新しさ」を感じてくださっている方も多いようで、企画から開催までのプロセスに関する質問をたくさん受けています。

よく頂く質問に合わせて、「湖畔の時間 2020」の全体像をご共有していきたいと思います。少しでも何かの参考になれば幸いです。

00 / 背景:100年の村づくりを見据えた「湖」の価値

私たちがイベントを実施した「目的」こそが、ユニークネスを感じていただけている最大の理由かなと思っています。今回のイベントは、池の平ホテル社長・矢島さんとquodの共同代表の飯塚さんが8年ほど前にスイスのツェルマットで、「日本にもツェルマットみたいな本物のリゾートをつくりたいね!」と話したこときっかけに、地域のメンバーと温めてきた流れの上で、新しいリゾートづくりの一貫として実現したものです。

私たちが目指す、この先100年を見据えた「訪れて良し、住んで良し」の村づくりは、池の平ホテル社長・矢島さんの想いであり、白樺湖レイクリゾートプロジェクトが発足した背景でもあります。

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スイス・ツェルマットの風景

白樺湖の価値を深堀りしていくなかで、私たちは「湖」が持つ可能性に着目し、実際に2019年にフィンランドの湖を視察するなどしてリサーチを繰り返しました。そうして見えてきたのが、こんなこと。

・海や川とは違う体験価値が得られる→潮がない / 波がない / 流れがない / 音がない
・サイズ、ロケーションによって遊べる内容が変わる
・海外には「レイクリゾート」「湖水浴」などの文化がある

併せて、当時から私が激ハマりしていた「サウナ」をはじめとした北欧文化と「湖」との接点もヒントになり、日本国内でも「湖」を文化として定着させていくことを地域開発の起点としました。

01 / 日時・概要:世の中の状況に合わせて柔軟に

イベント開催の話は早くから上がっていたものの、実施が決まったのは開催3ヶ月前のことでした。11月という肌寒い時期になったのも、初めから狙っていたわけではありません。

当日の内容も、企画当初からイメージしていたわけではなく、徐々に決まっていきました。最終的には広く呼びかけるイベントになりましたが、初回だったこともあり、当初想定していたのは地域の人たちを集めた200名規模のものでした。

02 / イベント名称:「湖畔の時間」が生まれるまで

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どんなイベントにしよう?と「湖」の価値を掘って出てきたのが、「時間」というキーワード。

私が白樺湖を訪れるようになった頃、そこで働く人から長年通いつめる人まで、いろんな人にこの地域の良さを聞きました。すると、みんな「なんか居心地が良い」と言うものの、過ごし方は人それぞれ違っていました。

・カヌーやSUPで遊べて楽しい
・一人で読書したりするのが気持ちいい
・静けさが落ち着き、自分と向き合える
・季節の移り変わりが美しい
・子どもを連れてきても楽しめる
・包み込まれている感じで安心する

全員バラバラの答えを聞いて、2018年頃に出会ってからずっと惹かれていた「HYGGE(ヒュッゲ)」というデンマーク語を思い出していました。

「HYGGE」は日本語で「ゆったりとしたくつろげる時間(空間)」などと訳されますが、「他の言語にはぴったりな訳がない」とも言われています。そこで私は、デンマークを視察したとき、道行く人々に「あなたにとってHYGGEって何?」と聞いて回ってみました。

「湖のほとりでのんびりしている時間よ」「家族みんなで暖炉を囲んで暖まっているとき」「クリスマスの幸せな雰囲気を味わうこと」など、それぞれ違う答えが返ってきます。ただ共通していたのは、「自分にとって」「居心地の良い」「時間(空間)」という要素。そして何より、誰もがそのシチュエーションを語るときはとても幸せそうなことでした。

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湖のほとりで過ごす人。思い思いの時間を過ごせるのが湖畔の魅力

白樺湖でたくさんの人に話を聞いていくうちに、「このなんとも言えない心地よさがHYGGEなのかも……」と当時の感覚と繋がったんです。思い思いの「時間」を過ごせる余白こそが、静と動の絶妙なバランスをもつ湖ならではの価値なのだと思いました。

イベント名としては「白樺湖フェス」「LAKE TIME FES」などいろんな案が上がりましたが、HYGGE的なやわらかさを表現するのに「時間」というキーワードが欠かせないと思いました。誰もを受け入れてくれる寛容さのある「湖畔」で、自分なりの豊かな「時間」を見つけてほしい。そんな思いで「湖畔の時間」という名前に決まりました。

実は「湖畔時間」という案もあったのですが、私の中では「の」が重要で、入れるかどうかの議論もしました(笑)その理由は今でもうまく言語化できませんが、こういう感覚的なことを伝えても「わかる」と共感しあえる人たちが作り手になってくれたことが、後にイベントの価値になっていったような気がします。

03 / コンセプトの設定:「なんかいいよね」を定義しないメッセージ

コンセプトについては「明確な定義をしたくない」と強く思っていました。私を含む白樺湖を愛する人たちの「なんかいいんだよね、ここ」の「なんか」を言語化してはいけないような気がして……。

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企画書も最初はとても簡素で、具体的な企画案というよりは、世界観やイメージを感じてもらえるよう写真を多く使ったものでした。

「足を運んでもらう」ためには、シャープなメッセージのほうが伝わりやすいのかもしれませんが、きれいにまとめて価値を限定してしまいたくはないと思いました。「一人ひとりの感じた心地よさがすべて正解で、それ自体が”湖”の魅力である」というのが、一番伝えたいことだったからです。

コンセプトをはっきり定義することが是とされるケースもありますが、最近は「良いところは自分で見つけたい」というインサイトもあるように感じています。

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最終的に掲げたのは、こんなメッセージ。白樺湖の情景や、そこで佇んだり遊んだりしている自分の姿が思い浮かぶような言葉を、ゆるりとしたコンセプト“風”に並べました。「白樺湖はこういう場所です」「湖畔の時間はこれをするイベントです」という押し付けはせず、「こんな感じだよ」というイメージをふわっと伝えたかったんです。

あとは、第三者が語ってくれる言葉(メディアや出演者・出店者・関係者のSNS、イベントを楽しみにしてくれているお客さんの口コミなど)の力を信じて進めました。

04 / チームビルディング:各領域のプロを巻き込み、「余白」の価値を形に

「湖畔の時間」という名称にふわっとしたコンセプト風の言葉を添えて、じゃあどう作っていく?が始まりました。「いいイベント」になったのは、スタッフやクリエイターの皆さんが、この価値を拡張していってくれたおかげです。

すでに発足していた「白樺湖レイクリゾートプロジェクト」のチーム(白樺湖の観光事業者+quodのメンバー)に加え、このイベントのために「湖畔の時間 2020 実行委員会」というチームを別途設けて、イベント運営に必要な外部の方々も巻き込んでいきました。

コンセプトをはっきり言葉にしないぶん、クリエイティブやコンテンツなどの非言語の要素で価値を伝える必要がありました。しかし、開催決定から当日までの準備期間はたったの3ヶ月。限られた時間で表現するには、「なんか」「こんな感じ」を同じ感覚で進められる仲間であり、各領域のプロフェッショナルであることが重要でした。

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心強いプロフェッショナルたちが集まった「湖畔の時間」チーム

私の周りの魅力的なクリエイターたちに声をかけていき、信じられないほど心強いチームができました。リーダーとして私がやったことについてもよく聞かれるのですが、デザイナーの木本ちゃん(木本梨絵)から言われた言葉に答えが詰まっていると思うので紹介します。

「リーダーにも引っ張っていく人、背中を見せる人、いろんなタイプがある。中には、一見頼りないけれど誰もが助けたくなるような人がリーダーになって、その結果メンバーが同じほうを向いてパフォーマンスを発揮できることもある。心配な部分もあるけど、ななちゃんのためにみんな頑張ろうって思ってくれてるから、それでいいんだよ」

拙い進行で常に申し訳ないなと思いながらだったので、この言葉にはとても救われました。ありがとう。

皆さんの表現を信じていたので、イベントが近づくにつれて、私は自信しかありませんでした。振り返ると、皆さんがそれぞれの専門領域でクリエイティビティを存分に発揮してくださったのも、コンセプトに「余白」があったからこそなのかなと思います。本当に感謝しています。

05 / コンテンツ選び:自分たちが心地よく感じた「湖畔 ✕ ◯◯」をコンテンツ化

会場で提供したコンテンツも、「湖畔の時間」らしいものになったと思います。

湖の価値を探るために、私たち自身が何度も白樺湖に足を運び、いろんな「湖畔 ✕ ◯◯」を試してみました。その中で心地よかった「なんかいいよね」という体験を、そのまま詰め込んだのが今回のイベントです。

音楽、焚き火、カヌー、サウナ、シーシャ、コーヒー、ワークショップ。すべてのお客さんが自分なりの豊かな「時間」を見つけられるように、アウトドアコンテンツを中心に盛り込みました。

ただの「音楽フェス」にはならないように、あえてアーティストライブの間隔を長めに取るなども工夫した点です。コンテンツの魅力を引き立てる空間づくりにも力を入れました。

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06 / 当日オペレーション:反省点をいかして来年に繋げていく

当日は予想以上のお客さんが来てくれましたが、そのぶん反省点も多くありました。

感染対策の方針が直前まで決まらなかったり、予想外のトラブルが起きたり。ドリンクやフードの売り切れがあったり、サウナやシーシャを希望する方皆さんに提供しきれなかったり。寒さ対策も足りない部分がありました。

貴重な時間を使って遠方まで足を運んでくださったお客様には頭が上がりませんが、窓口やSNSにメッセージをくださった方も多くいらっしゃいました。

ご意見は必ず生かしてお客さんと一緒にイベントを育てていきたいと思いますので、懲りずにまた遊びに来てもらえればと思います。

07 / 全体の振り返り:持続的な「地域PR」への入り口として

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イベント当日はテレビの取材も入った

今回のイベントを見て、「地域PRの新しい形だね」などと言っていただくことがたびたびあります。

「地域PR」の目的や目指す未来は地域ごとにそれぞれですが、私は「内の眼」と「外の眼」のどちらも大切だと考えています。主役はあくまでその地域に住み、そこで生きていて、根を張って事業をしている人たち。彼らの「内の眼」こそが価値そのもので、その価値を見つけて翻訳し、世の中と繋げていくのが私たち「外の眼」の役割です。

その大きな入り口となったのが、「湖畔の時間」というイベントだと思っています。私は現場ファーストな人間なので、テーブルの上で議論してきれいにブランドを作り上げていくよりも、現地に何度でも足を運んで本音で話し、時代や風景に合わせて変わり続けていきたいです。

「湖畔の時間」は単発のイベントではなく、もっと地域全体に関わる大きな流れの中にあります。今はまた未来に向けて、この流れを持続させられる「地域PR」の形を探っているところです。

さいごに / 「湖畔の時間 2021」に向けて

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白樺湖は、観光事業者・観光従事者で成り立っている地域です。私は池の平ホテル社長・矢島さんの「100年の村づくり」構想と、それにquodの飯塚さんが共感して形にしていくプロセス自体に、とても夢と希望を感じています。

今は白樺湖エリア全体の仕組み整備として、矢島さんと飯塚さんが設計図を書き、地元の皆さんと魅力的な家やお庭を作っているところ。そこに世の中と通じる「道」を作っていくのが私をはじめコミュニケーション全体の役目だと考えています。

その「道」に続く大きな「入り口」のひとつがイベント「湖畔の時間」だと思っているので、「湖畔の時間 2021」も実施予定で進めています。世の中の状況的にどうなるか不安もありますが、観光事業で成り立つ白樺湖としては、やはり人が来てくれてこそ生まれる価値が大きいです。

春夏は花や緑が生い茂り、秋は紅葉が美しく、冬は雪景色となりウィンタースポーツも盛り上がる白樺湖。四季折々の楽しみ方があるなかで、「湖畔の時間」を実施した11月は、白樺湖にとっては最大の閑散期でもあります。極端に人の入りが少なくなってしまうぶん、工夫次第で伸びしろのある11月に、今年もイベントができればと思っています。寒さが厳しくなる季節ですが、楽しみにお待ちいただければと思います。

「レイクタイム - 湖畔時間 - 」として新しいリゾートのスタイルや湖畔での過ごし方などの情報を発信しています。
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▼第1〜5回:湖畔の時間 の わたしの時間