《 聴診器 》 を持とう - 再発見する取材術 -
人の話って面白い!
トークが得意な芸能人はもちろん、市井の方々も聞けば聞くほど面白い話を持っています。
オチが完璧で抱腹絶倒な笑い話のことではありません。
「人に歴史あり!」と感じるストーリーに触れる度に、人間一人が持っている背景は宇宙のように広いと思わされます。
例えば、僕が聞いたのはこんな話…
とあるクリーニング店に行ったときに、女性の店員さんが言った言葉。
ある全寮制の大学の卒業式では、卒業生のお母さんがこんなことを言ってました。
どちらもささやかな日常のワンシーンですが、あの時お話できてよかったなー、とふとした時に未だに思い出します。
僕の仕事は、テレビのカメラマンやディレクターです。
ニュースの現場にいることが多いので、きのうまで会うはずもなかった初対面の一般人に、いきなり行ってマイクを向けることが多くあります。
ご存知の通り、時には辛い境遇にある人にも話を聞かないといけないので、こうした日常のささやかな幸せに触れると救われるような気持ちになるものです。
そして、趣味でもマイクを使っています。
ポッドキャストで「ほぼ教育最前線 あなたに代わって、私が聞きます。」という教育に関するラジオ番組を制作中。
変化を続ける教育界隈で、未来の子どもたちのために動いている人たちにゲストに来ていただいているんですが、そういう方々って大体みなさん人生を楽しんでいるので、収録の度にパーソナリティー役のこちらが幸せになります。
テレビの仕事と趣味のポッドキャスト、どちらにも共通しているのは、「人のストーリーを聞く」ということです。
人が固有に持っているストーリーに触れることが楽しくて、それだけで日々を生きていける気がします。
そして、「楽しいのは自分だけじゃない」というのがポイント。
なんと、お話をじっくり聞いていると、たまに感謝されることもあるんです。
こっちが聞きたくて聞いているのに、「ありがとう」って言ってもらえるなんて、お得でしかないですよね。
そういう時はシチュエーションが決まっていて、「相手と一緒にストーリーを“再発見”できた時」です。
「誰にも話したことなかった!」
「話してみて初めて気付いた!」
自分の質問で、そんな姿を見られたらガッツポーズ!
自分も相手も発見があるのなら、こんなに嬉しいことはありません。
独り占めしていたらもったいない!と心から思っています。
でもこれって、ちょっとしたコツが分かれば誰でもできると思うんです。
特に、若い子に知ってもらいたい。聞いたら、友達や家族との関係がちょっとだけハッピーになるような授業をやってみたい。
そんな思いを、多大なるご好意で叶えてもらいました。
ここからは、とある中高一貫校で、実際に中学1年生140人を前に行った授業を再現する形式でお伝えします。
中学生になった気持ちで読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、どうぞ〜!
わからないこと=ワクワク??
こんにちは〜。つぼけんと申します。
テレビのカメラマン・ディレクターとして、日本中・世界中でいろんな撮影をしてきました。
アフリカの子どもたちを救うチームの取材や、
世界的なスポーツ大会
山頂を目指すドキュメンタリーも。
スポーツ選手や研究者など、世界中で「まだ見ぬ未来」に挑戦する人たちを取材してきました。
そんな、挑戦している人たちってみなさんこう言うんです。
世界にはわからないことがたくさんある。
だから挑戦するんだ、と。
いやー、かっこいいですよね。
だからこう言い換えてみましょう。
世界には《ワクワク》がたくさんある。だから挑戦する。
やっぱりかっこいい。
《 ワクワク 》な好奇心を元に挑戦を続けて、その挑戦の先にはもっと好奇心を満たすものがある。だから行くんだ!、と僕は受け止めました。
でも…
ここでふと、本当にそうかな?と疑問に思ったんです。
「世界にはわからないことがたくさんある」
これはいいよね?
だから
「世界にはワクワクがたくさんある」
うん、そうだ。
じゃあ、
「わからないこと」は「ワクワクする」これはどうかな?
これってみんなワクワクする?
この数学の問題がどうしても分からない!
…ワクワクできるかな?
国語の文章問題が難しすぎて、何書いているか意味不明!
…どう? ワクワクするって言える??
わからないことがワクワクに変わるのは何となく分かるけど、どうやらイコールではないっぽいよね??
じゃあ、どうしたら「わからないこと」が「ワクワク」に変わるんだろう??
今回のテーマはこちら!
《 聴診器 》を持とう -再発見する取材術-
聴診器といえば、風邪を引いた時にお医者さんが胸に当ててくれる医療器具。
僕の言いたい聴診器とは?
再発見って何を再発見するの?
そしてわからないことはワクワクすることなの??
この授業を通してぜひ一緒に考えたいと思っています。
ポッドキャスト
改めて僕の仕事はテレビカメラマン・ディレクターですが、大好きな趣味があります。それがポッドキャストです。
「ほぼ教育最前線 あなたにかわって、私が聞きます。」
学校教育というジャンルだけど、ありがたいことにリスナーになってくれる人もいて、先月は公開収録もしました。
マイクさえあれば、そこがイベント開場になる。
話をしてみたい人を呼ぶことだってできる。会いたい人に会える魔法のようなもので、それが楽しくて続けられています。
なぜ続けているのか?
それは、<再発見がある> から。
話を聞く前に、ゲストに来ていただく方のことをしっかり調べます。
本を読んだり、インターネットで調べたり。きっとこう聞いたらこう答えるだろうとある程度予測できるようにしておく。
その上で、思いもしなかった本音が聞けることがあるんです。だから面白い!
そして、もっと面白いのはゲストの方もたまにこんなことを言うんです。
ご夫婦にゲストに出ていただいて、旦那さんが話している様子を見て、奥さんが「この話聞いたことない!」とおっしゃったこともあります。
<話を聞く>という行為を通じて、相手が自ら再発見していく喜びがあるんです。
僕たちテレビ番組制作者は、ドキュメンタリー取材をするときによくこんなことを言います。
人は自分のことが一番分からない。
みんなは自分のことってよく分かっているかな?
となりにいる友達と比べて、自分のことってどれくらい分かるだろう?
例えば自分が好きな人のタイプはなんとなく分かるけど、じゃあ説明してみてと言われても難しいよね。でも、実は聞き手=インタビュアーが取材することによって再発見することもあるんです。
使うのはこの、マイク。
普通にしゃべっていても再発見をすることもあるけど、 このマイク1本あるかないかで人の話し方が確実に変わる。 医者が患者の体の中を診る聴診器のように、インタビュアーが相手の内側を覗いていくような、そんな気持ちになる。
いやいや、本当にそんなことある??
って思いません?
それなら、実際にやってみましょうか!
ポッドキャストの公開収録をスタートします!
公開収録(1) 先生と収録
それでは、拍手でお迎えください!
今回のゲストは、理科のM先生と、数学のK先生〜!!!
今から僕が先生2人に公開インタビューをします。
テーマは、「学校の先生ってどんな仕事?」
「悪いインタビュアーの例」を先にやったあと、「つぼけんならこう聞く」を実際にやってみます。その後、ポイントを解説する、という流れです。
では、行きますね。悪い例〜!
はい、ありがとうございました。
悪い例でした。みんなどうだった?
学校の先生がどんな仕事なのか、全然伝わらなかったよね?
(編注:生徒からは、「見るに耐えない」という意見が出ました笑)
では、つづいて「つぼけんならこうする」行ってみましょう!
はい、公開収録以上ですー。
先生方、ありがとうございました。
では、「悪い例」と「つぼけんならこうする」何が違ったでしょうか?
ポイントは3つあります!
①ビジョンの共有
悪い例ではいきなり始まって、いきなり質問をしました。
先生方、困ってましたよね?
一方、「つぼけんならこうする」なら番組のタイトル、視聴者は誰なのか?、何の目的なのか?、どんな雰囲気なのかなどを伝えてから質問を始めました。
何の目的で誰が聞くのか分からなかったら答えづらい。だから一番最初にこの話をしました。お互いの目的に向かって安心してトークしてもらうために、最初にステージを作る感じです。
②階段を登ってもらう
僕たちはテレビの仕事で、よく街録(がいろく)=街頭インタビューをやります。街で見たことあるかな?
マイクを持っている人がいきなり目の前に現れて、「すいません、お話聞かせてください。岸田首相の内閣改造について一言お願いします!」みたいなことを聞いてくる。みなさんなら答えてくれますか?
天気の話題くらいだったら答えてくれるけど、難しい政治の話題はなかなか答えてくれない。でも、テレビのニュース番組ではいろんな人が答えているよね?
それは、僕たちがテクニックを使うことで、答えてもいいかな?という気持ちになってもらえるから。そのテクニックこそが「階段を登ってもらう」です。
どういうことかというと、相手に一番初めに「No」と言われたらその後も答えてくれないんです。だから、最初に「Yes」と言ってもらう、というのが僕たちの常識です。
例えば、「No」と言われる悪い例はこんな感じ。
こんなことをだらだら話している間に「No=時間ありません!」、と言われてしまいます。
もう一つは、ストレートに聞きたいことを最初にそのまま聞くパターン。
話題によりますけど、こちらもなかなか難しいですね。
なので、僕たちは「Yes」を言ってもらうためにこういう話題から始めます。
どうですか? 「あ、はい」と答えたくなりませんか?
「東京都の新しい政策をどう思うか?」という質問が聞きたいならこれも有効です。
こういう質問をしたら、大体の場合は「Yes」と答えてくれます。
つまり、「質問をする人」と「答える人」の関係になれる。
大きな壁をぶつけると乗り越えられないけど、小さな階段を差し出すイメージです。そうすると、段々と登ってくれて、最後は聞きたい質問の壁も乗り越えてくれる、となるわけです。
実はこれ、布団の訪問販売が得意な詐欺師に聞いたテクニックなんです。
いきなり家に布団を売りにきて、「この10万円の羽毛布団買ってくれませんか?」って言われても、みんな絶対に買わないよね?
まず家に入れてもらうところが難しいから、最初は布団の話はしないで、日常会話から始めるそうです。
そして詐欺師は、最後にこう言います。
赤を選んでも青を選んでも、買ってもらうことには変わりない。
これを「Yes or Yes の法則」と言います。
どちらを選んでも答えが「Yes」になる聞き方です。
まずは簡単な質問で「Yes」と答えてもらうこと。そして、最後まで「Yes or Yes」でどちらを選んでも協力してくれるようにする。
人間の心理って不思議ですよね。言葉の使い方ひとつで、自ら進んで協力してもらうようにできるんです。
詐欺は犯罪だから絶対に真似をしてはいけないけど、人と人との会話を楽しくするためだったらみんな使ったほうがいいよね?
振り返ると、悪い例では「学校とは?」という答えづらい質問から始めて答えづらそうでした。じゃあ、「つぼけんならこうする」では、僕は何の質問から始めた??
こう言われて、答えづらいなーという先生はいないですよね?
なのでこの質問からだんだんと始めて、テーマに近づいていくというテクニックを使いました。
③対話をしよう
悪い例では、質問をしてせっかく答えてくれたのに何も返せませんでした。
「つぼけんならこうする」は、「電化製品に例えると食洗機」と聞いたら「どういうことですか!?」と返したり、「嘘をつかない子たち」と聞いたら「素直」と言い換えてみたり、みんなが家族や友達とお話をするように、会話のキャッチボールをしていました。これこそが、相手の言葉を引き出していく秘訣です。
テーマは「学校の先生ってどんな仕事?」だけど、実際にそう質問をしなくてもいいんです。最終的に辿り着けばいい。ゴールだけ決めておいて、あとは会話を楽しむ。短い時間ですが、そうなれるように気をつけていました。
こちらが質問する側だから、と緊張していたら、相手も本音が話しにくいですからね。一緒に楽しんじゃいましょう!
公開収録(2) 生徒と収録
それでは、次はみなさんの番です。
この3つのポイントに気をつけながら、ぜひ公開収録をやってみてもらいましょう!
さっきは僕が先生にインタビューをしたんだけど、次はみなさんが僕にインタビ ューをしてもらいたいと思います。
こちらが台本の元となるワークシートです。
(生徒とのトーク内容は省略します。楽しい公開収録でした!)
まとめ「聴診器を持とう!」
それでは、まとめです。
まずは僕の仕事のことを知ってもらいました。
世界には分からないことがたくさんある
つまり、
世界には《ワクワク》がたくさんある。
でも、ここである問いが浮かんできました。
分からないこと=ワクワクすること??
そこで、僕の好きなポッドキャストの話をしました。
「人は自分のことが一番分からない」ということ、だからこそ、マイク1本だけで聴診器のように相手の再発見ができること。
実際に先生と一緒に収録して、3つのポイントが見えてきました。
①ビジョンの共有
→何に向かって話すのかお互いに共有
②階段を登ってもらう
→答えやすい質問から徐々に始める
③対話をする
→決まった質問に縛られない。とにかく楽しむ!
そして、みなさんとも公開収録をしました。
緊張したと思うけど、一緒にお話しできてとても嬉しかったです!
まさに僕に対しても“再発見”してもらいました。どうもありがとう!!
最後です。今までのことは全部忘れても良いから、今日、たった一つだけ覚えてもらいたい言葉があります。
古代ギリシャの哲学者、エピクテトスさんの言葉です。
「自然は人間に、舌ひとつと耳ふたつを与えた。自分が話すその倍は、人の話を聞くようにと」
舌とか口が10個ある子とか、耳が100個ある子っていないじゃない?
人は誰でもおしゃべりする舌・口はひとつ。じっくり聞く耳は倍のふたつ。だから倍聞こう!と2000年以上前の哲学者も言っています。
僕は世界中で取材をしてきたけど、一方で人間の持っている内面はもっと広いと感じることがあります。まさに宇宙のように広いんです。
いま隣にいる友達も、そしてみなさん自身も、それぞれ心の中に宇宙を持っている。そんな、人の心の宇宙に連れて行ってくれるのはロケットではない。
この、たった1本のマイクです。
わからなかったら、聞いてみよう。
心のマイクを、まるで聴診器のように使って、相手の中にあるステキなものを再発見してみよう!
きっとそこには、ワクワクが待っているはずです。
以上、「《 聴診器 》を持とう - 再発見する取材術 - 」でした。
ありがとうございました!
生徒の感想
以上、授業の様子をお届けしました。
いかがでしたでしょうか?
途中に出てくるワークシートはどんどん使ってください!
放送部の練習でも使いやすいと思います。
後にいただいた生徒の感想はこちらです。
自分が準備してきた伝えたいことが誰かに伝わるって嬉しいですよね。
中学生たちと一緒に作って、素直に受け止めてくれて、やってよかったです。
この授業をやったのはまだ1度だけ。
来月、大学生向けにやる予定もあり、自分なりに課題点を洗い出したくて一度文章にしてみました。ここからもっと面白く、もっと伝わるように進化させていきます!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?