得るはずだった未来を失ったらどうするか?
東京オリンピックが終わりました。金メダルに歓喜した選手、惜しくも破れた選手、さまざまな選手のドラマがそこには確かにあったことでしょう。
その一方で、オリンピックを目指していたのに出場できなかった選手は何十倍、何百倍もの人数がいます。その数だけドラマがあります。
ジョーダン・トーマスも、出場を逃した選手たちの1人です。
彼は幼い頃から空手に熱中し、2016年には24歳にしてイングランドの世界空手連盟(WKF)の世界空手チャンピオンになり、「空手で世界一になりたい」という夢を実現させました。
幸運なことに、2020年に開催される東京オリンピックの新種目として、空手が導入が決まり、彼は、幼い頃からの努力は全て東京オリンピックに繋がっていたのだと確信したそうです。空手では不可能に思えていた「金メダル」への夢が開かれたわけです。
2017年以降、彼は今まで以上に空手に集中するようになりました。拠点地を移し、フルタイムでトレーニングを積み重ね、食べて飲んで寝る以外は全て空手に費やしました。
彼のパートナーも引っ越して彼を支え、彼は多くの結婚式やパーティーを空手を優先して欠席し、多くの犠牲を払いました。それほどに彼の空手金メダルへの夢は強くて大きいものだったのですね。
そして、オリンピック予選の最終試合終了2秒前、彼は頭を蹴られて、人生で重要な試合を落としました。
このときの彼の落胆ぶりは、言葉では言い表せないほどだったそうです。それはそうですよね、ここ数年間ずっと金メダルを取ることだけを目標をして生きたきたのですから、金メダルに挑戦する舞台に立てないときの絶望といったら、素人のわたしには到底想像できないレベルのものだったと思います。
彼は一晩にして目的を失いました。
モチベーションなんてすぐに高められませんよね。得るはずだった未来をひたすら嘆きながら寝ては起きて、また嘆いては寝る毎日だったそうです。
自分の一部が常に少し傷ついていて、どれだけ時が経とうとも、二度と同じようには戻らないことに気づきます。
それでもやはり時間は必要です。いくらまわりがサポートしても励ましても、自分のことは自分でなんとかしなければ結局変わりません。
彼は時間の経過とともに、少しずつ自分を取り戻していきました。
何が彼を変えていったと思いますか?
彼が自分を取り戻すきっかけになったのは、世界中の大会に応援に駆けつけてくれた友人や恋人、試合中に名前を叫んでくれたり、一緒に写真を撮るために列に並んでくれたサポーター、次のジョーダン・トーマスになりたいと思っている若者たちの存在、そして何よりも自分に責任があったからです。
彼は数カ月後、ジョーダン・トーマス・カラテ・アカデミーを立ち上げ、学校や地域社会にマーシャルアーツを普及させようと決心しました。
彼が空手を通じて学んだこと、得たこと、そして失ったものから学んだ教訓や、悲しみの中で得たスキルを活かし、空手の規律と護身術をマインドフルネスの実践と組み合わせて教え、人々が回復力を身につけられるよう支援していくそうです。
彼の住んでいる国、イギリスでは50歳以下の男性の最大の死因はいまだに自殺だそうです。毎年4人に1人がメンタルヘルスの問題を抱えています。
日本も例外ではありません、20代〜30代の死因の1位は自殺です。
人生で避けられない困難は急にやってきます。
こんなはずじゃなかった……なぜ自分が……何も悪いことはしていないのに……あんなに努力したのに……。
起きてしまった事実は覆りません。それでもわたしたちは最後まで自分らしく生きていく責任があります。でも時にそれは非常に難しいことでもあります。彼が周りの人たちの存在に恩返しする決意をしたように、周りの人との繋がりで自分の存在意義に気づき力に変えていくきっかけが必要な人もいます。
そのきっかけづくりは、金メダルがいくつあってもなし得ないことかもしれません。
彼が立ち上げたアカデミーによって、困難に直面した人が乗り越えていける力を養えるように、人の心を救って1人でも多くの人が自分らしく生きていけますように。
大きな困難は本当に辛いことです。本当に苦しいことです。
だからこそ、その事実を認め、受け止め、次の力に変えていけた人のストーリーは貴重で価値があって、誰かの人生をどこかで救うのだと思います。
悲しみを希望に変える、素敵な記事でした。
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