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「全世界株式インデックス」について思うこと


全世界株式インデックスとは

・全世界株式インデックス

近年は、少額でも幅広い分散投資が可能な「インデックス投資」(「パッシブ投資」と呼ばれる事もある)が存在感を増しており、その有用性も広く認知されるようになってきた。

ただ、一言にインデックスと言ってもその数は年々増えている。
そんな数あるインデックスの中でも近年注目されている「MSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」への連動を目的とした低コストのインデックスファンドが次々に誕生している。

有名どころは下記の面々だろう。

  • eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)

  • 楽天・全世界株式インデックス・ファンド

  • バンガード・トータル・ワールドストックETF【VT】

これらのファンドは運用資産が大きく、メガファンドとして着々と成長している。2018年に販売が開始された比較的新しい「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」でも本稿執筆時点で1.3兆円を超える運用資産残高になっており、国内のインデックスファンドとしては指折りの規模になっている。

・投資の3大原則は「長期、分散、低コスト」

全世界株式のインデックスをターゲットとしたこれらのファンドは、上記の原則を十分に満たすファンド軍だ。投資理論から言えば投資信託は上記3本だけ知っていれば十分であり、株式投資は「上記の3本の中から投資しやすいファンドに投資すれば良い」で終了する。
加えてリバランスや普通口座〜NISA口座の資産クラスの割り振りを考えるといった手間も全くかからず、全世界株式は運用面でも相当に負けにくい。

全世界株式インデックスには致命的な欠点がなく、「万人に勧められる投資対象」としてはおそらく現状最適解になっている。
上記のファンドの運用資産が大きく伸びているのも納得だ。

・全世界株式インデックスにデメリット無し?

1つのファンドで全世界(先進国+新興国)に投資できる事がわかったが、少し前(2017年頃)までは国内にこのような便利なファンドは少なく(あっても手数料が高く)、基本的に複数のインデックスを組み合わせてアセットアロケーションを作成することが普通だった。

例えば、下記のようなポートフォリオを「自分で考えて」作成し、投資家各々が自分の最適だと思うバランスで資産比率を調整していた。(下記は一例)

  • 40%:先進国株式(除く日本)

  • 30%:日本株式

  • 10%:新興国株式

  • 20%:短期金融資産(預金等)

例で示したようなポートフォリオを作成する場合、短期金融資産以外のアセットクラスに対して、それぞれインデックスファンドが必要になるので最低でも3本のインデックスファンドに積み立てる必要があった。
その点、全世界株式インデックスのファンドは1本の投資対象に積み立てれば済むため、運用を最大限シンプルにでき、このメリットは小さくないだろう。

ほとんどデメリットが存在しないように見える全世界株式インデックスだが、特定の資産をポートフォリオから除外したり、ウエイトのバランスを変えたりと言った「調整」が全く効かない点は無視できないデメリットになるうる。

その点を少し深掘りして考えてみたい。

全世界株式インデックスのデメリット

ポートフォリオの調整ができないとは一体どういうことか?
詳細を説明する前にMSCIが定義している先進国、新興国にどの国が組み入れられているのか確認しておこう。


先進23ヶ国・地域

フィンランド アイルランド イスラエル ノルウェー ポルトガル ニュージーランド オーストリア アメリカ オランダ 日本 スウェーデン イギリス デンマーク フランス 香港 カナダ スペイン スイス イタリア ドイツ シンガポール オーストラリア ベルギー

新興24ヶ国・地域

ギリシャ ペルー ハンガリー チェコ コロンビア エジプト 中国 インドネシア 台湾 マレーシア インド アラブ首長国連邦 韓国 カタール ブラジル クウェート サウジアラビア フィリピン 南アフリカ ポーランド メキシコ トルコ タイ チリ


ちなみに、国数は先進国、新興国共にほぼ同じだが、時価総額ベースで見た比率は「先進国:後進国=9:1」程度の割合になる。※先進国(というかほとんどアメリカ)経済が強く、時価総額で見るとこれだけの開きがある。上記で挙げたインデックスファンドは全てこの時価総額ベースで各国の株式を組み入れている。

すなわち、全世界株式インデックスに100万円投資した場合、90万円は上記の「先進23ヶ国・地域」に分散して投資することになる。残りの10万円が「新興24ヶ国・地域」に分散投資される。

・問題点1:特定の地域のウエイトを除外ないし縮小する事ができない

新興国のメンバーを見てみよう。
筆者の外国に対する好き嫌いは一旦棚上げするとして、新興24ヶ国・地域には読者の目線でも「投資したくない」っと感じる国や地域が存在しているのではないか。

「投資する」ということは自分個人の資産形成だけでなく、その国に出資し、発展を支援する意味合いもある。
国としては巨大になっていても、国内の企業に民主的な自由経済活動を認めておらず(経済活動含めて全て政府が主導)、民営資本は育っていないような国も見受けられる。

そこで仮に「新興国には投資したくない」っと考えても、全世界株式のファンド1本だとウエイトの調整ができない。全世界株式ファンドに投資する限り投資額の約10%は先に列挙した新興国に投資されてしまう理屈だ。

補足:ちなみに、新興国にはつい最近までロシアも含まれていたが、ウクライナへの軍事侵攻を契機にMSCIが作成する全てのインデックスから除外されてしまった。結果論ではあるが、このような独裁主義国家に投資してしまう事も全世界株式インデックス投資では気になる人もいるだろう。(運用結果さえ良ければ良いっと割り切るのも考え方の一つだ。そこは投資家個人の自由で良い。)

・問題点2:日本に対する投資が小さい

我々日本人がカネを消費する際、今時点ではいかなる資産に投資していたとしても最終的には「円建て」で行うはずだ。(物を買ったりサービスを受けたりする際、「円」で支払いを行うはずだ。)

外貨預金などは論外だが、株式であっても外貨建てで保有する以上、為替リスクがあるのでは?

では早速、全世界株式インデックスの資産割合を見てみよう。

出典:eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) 交付目論見書

eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の交付目論見書を読むと、中段くらいに「主要な資産の状況」の記載がある。日本円は全体の5.8%のウエイトになっている。
つまり、保有している資産は確かに「株式」であるが、その大半を「外貨建て」で保有している状態だという事になる。

繰り返すが、各国の組入比率は時価総額ベースなので、米ドルが圧倒的なウエイトになっているものの、他国の外貨も保有している上、投資対象は株式なので為替リスクと言っても外国為替証拠金取引(通称:FX)のようなゼロサムリスクを保有する事とは根本的に意味合いが違う。

一方、外貨建ての投資である以上「為替リスクを負っている」という事実は理解する必要がある。
日本国内から全世界株に投資する場合、円安になれば株価上昇以上にファンドは大きな含み益を出すが、円高局面では逆に必要以上に資産が痛む事になる。

では、我々日本人が国内から外国に投資する際、為替リスクを抑えるにはどうすれば良いか?
これは案外簡単で、日本株の保有ウエイトを上げれば良い。日本株100%のポートフォリオには為替リスクがない。
どの程度日本株の比率を高めれば良いかについておそらく正解はないのだが、日本最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2020年から5ヵ年計画で採用しているバランスが「外国株:日本株=5:5」だ。

全世界株式インデックスでは、円建て資産は全体の5.8%であったため「外国株:日本株=9.4:0.6」程度のバランスになる。最終的に「円」が必要な我々日本人にとって、これでは日本株に対する投資が心許ない。

GPIFのポートフォリオは一つの参考になるだろう。

結論

結論を述べる。
全世界株式インデックスは細かく見れば完璧ではないが、必要十分な投資対象であり、「長期、分散、低コスト」全てを備えたインデックスファンドがあり、魅力的だ。

全世界株式インデックス投資は、下記のような要件を満たす。

  • 投資にかける手間を最小化したい

  • 90点の運用ができれば十分だ

  • 細かい事がどうでも良い(気にしない)ので、シンプルな運用が良い

一方、下記のような事実は気になる。

  • 新興国(あるいは先進国)の一部の国に投資したくない

  • 多少手間と時間をかけても94点〜95点くらいの運用を考えたい

  • 為替リスクのバランスを調整したい

上記が気になる場合は「先進国株インデックス(除く日本)」「新興国株インデックス」「日本株インデックス」「短期金融資産」等を組み合わせてポートフォリオを「自分で」作る事になる。
この場合はポートフォリオのインデックスのバランスを自分で調整する準マニュアル操作が可能になる。

追記:「準」としたのは、最大のマニュアル操作は「個別株投資」だからだ。正直に申し上げると、オートマチックを通り越して「自動運転」と化した全世界株式インデックス投資に個別株投資で勝つのは至難の業だ。個別株は手間のかかり方もインデックスの比ではない。おまけに「全世界株式インデックス並み」に幅広く分散されたポートフォリオを個人が個別株で作る事は不可能だ。

本稿では多少気になるネガティブな点を挙げたものの、今後の投資対象として「全世界株式インデックス」は資産運用の主流になっていくはずだ。




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