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あの鳥の行方

中学・高校、私はバス通学だった。最寄りのバス停までは徒歩15分弱。人通りのない田舎道を歩かなければならなかった為、冬の朝などはまだ外が暗く、怖くて歩くのが嫌だった。

バス停へ抜ける直前には、人ひとりがギリギリ通れるくらいの細い道を必ず通らなければならなかった。

ある暗い朝だった。例の細い道に差し掛かる手前、遠くから、何かが横たわっているのが見えた。小さな子供のようだったが良くわからない。

細い道に入り、徐々にその何かに近づく。よく見ると、それは仰向けに羽を畳んで横たわる大きな鳥だった。例えるなら鶴ぐらい。

何の鳥だかわからなかったが、多分頭は緑色で、巨大な鴨のように見えた。先ほども書いた通り、この細い道は、人間一人がギリギリ通れるぐらいの細さ。

この鳥はただ眠っているのか、既に息絶えているのか、暗くて全くわからなかった。バス停は鳥の向こう。長さがあるので、ヒョイっとまたいで超えることもできない。だが越えなければ、バスには乗れない。

ジャンプするしかない。しかし私はあまり背が高い方ではないので歩幅が小さい。それに加え、当時の私の運動能力は極めて低かった。

助走をつけてジャンプしたところで、この鳥の頭を踏む可能性が高い。もしこの鳥が寝ているのなら、突然起こしてしまうことになり、きっと暴れ出す。攻撃される可能性もある。怖すぎる。

逆にもう動かない状態であったとしても、頭を踏み潰せば、現場はホラー映画のワンシーンと化してしまう。さあ、どうしよう。正直家に引き返したい。

けれど、大きな鳥が寝ていて怖かったので今日は学校へ行きませんなんて言い訳、もう中学生では通用しない。親に一日中罵られるか、ホラーの海に飛び込むか、数分考える。

家に引き返せば100%怒られる。だけど「鳥超え」に挑戦すれば、ワンチャン鳥に触れることなく向こう側に着地できるかもしれない。よし、決めた。

私は後退りし、深く深呼吸して、生きるか死ぬかぐらいの気持ちで思いっきり走ってジャンプした。間一髪。私の足は、ちょうど鳥の頭のてっぺんスレスレの所に着地した。

心臓をバクバクさせながら、バス停へ走る。ギリギリ、いつものバスにも間に合った。その日は一日中、授業に全く身が入らず、鳥のことばかり考えていた。

もし踏んでいたらどうなっていたんだろう?帰りがけもあの鳥はまだいるのか?私以外であの鳥に遭遇した人々はどう対処しているのだろうか?

帰りのバス、私の頭の中はまだまだ鳥のことで一杯だった。まだあそこにいるのだろうか?朝は暗闇で全貌が見えなかったが、今度こそはどんなやつなのか、この目で確認したい。

バスを降りて、ややウキウキしながら、例の細い道へ向かう。しかし、あの鳥はもういなかった。起きて飛んで行ったのだろうか?それとも誰かが移動させた?

もし移動させたのなら、多分子供を抱えるようにあの鳥を抱えたと思う。だって、小さな子供ぐらいの背丈があったから。町役場の職員が来たのだろうか?それとも近所のおじさんなのか?

それともあの鳥は幻だったのか…?

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