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個人の意志と語りから始まる クリエイティブリーダーシップ ━ 日立Co-Creative Dojo対談インタビュー前編

Laere(レア)は2021年より、株式会社日立製作所にて社内向けリーダーシップ育成プログラム「日立Co-Creative Dojo」を共同開発してきました。株式会社日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタより丸山幸伸さん、小西正太さん、そして株式会社Laere 共同代表 大本綾がここまでの3年間を共に振り返りながら、VUCA時代にイノベーションを起こすために必要なリーダーシップについて語り合います。

対談記事の前半では、Co-Creative Dojoの構想に至った経緯や、社内で共感者をつないでプログラムが拡張する仕組みについてお話をうかがいました。

新しいものごとを生み出す行動様式「クリエイティブリーダーシップ」

━ お二人が所属する「研究開発グループ デザインセンタ」について教えてください。

丸山 幸伸さん: デザインが横断的に全社へ貢献するために、デザインセンタは研究開発部門に属しています。2023年4月に現在の名称になっていますが、その前までは「社会イノベーション協創センタ」でした。私たちに期待されている役割は、研究技術を発展させながら、パートナー企業と共に社会にイノベーション事業を推進していくことです。

デザインセンタにはデザイナーのほかに、研究者も所属しています。デジタル、ハードウェア、サービスなどにかかわる工学のバックグラウンドを持つ研究者や、様々なタイプのデザイナーが集まる学際的な組織です。イノベーションへの直接的な貢献が求められる組織なので、研究者もデザイナーも多岐にわたる素養が求められます。

株式会社日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ 主管デザイン長 丸山幸伸氏

━ デザインセンタでお二人はどのような役割を担われているのでしょうか?

丸山さん: 私は主管デザイン長という立場になります。日立の研究所には柱となる技術があり、それぞれにリーダーがいるんですね。組織運営のマネジメントを担うセンタ長と共に、デザイン技術のリーダーとして技術の育成や戦略立てを行っています。また社内のイノベーション人財とデザイン人財の教育プログラム策定を統括しています。

小西 正太さん: 私はデザイナーとして、生活者の価値変化を起点に未来で起こりうる”きざし”を掴み、未来に求められるソリューションやサービスを事業部メンバーと一緒に構想しています。そういったアイデアを生み出すためのワークショップの設計やファシリテーション、ユーザー体験やプロダクトのプロトタイピングまで行います。

株式会社日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ 小西正太氏

━ 丸山さんはデザインセンタ向けにリーダーシップ育成プログラム「日立Co-Creative Dojo」を立ち上げ、小西さんは本プログラムに継続して参加されています。まずは、このプログラムを立ち上げた背景を教えていただけますか。

丸山さん:Co-Creative Dojoとは、新しい価値創造に取り組まなければならないデザイナーや研究者たちが、一人では解けない複雑な社会課題や事業に取り組む際にチームでパフォーマンスを出すための動的なリーダーシップの発揮と、それが当たり前になっているようなタフな組織文化を作るための社内教育プログラムです。

もともと、この社内教育プログラムの設計にあたっては二つの背景がありました。一つはデザインセンタにはいろんなタイプのデザイナー、研究者が所属しているため専門性が多岐にわたり、共通した技能教育を効果的に実施するのが困難であることです。

もう一つは、デザインセンタが新規事業やイノベーションを専門とする組織となったのはここ7年ほどであり、研究やデザイン以外の事業創生の進め方に関して「先輩の背中をみて学ぶ」機会が限られていたことです。熟練の先輩もいますが、接点がなければその形式化されていない実践のノウハウを学ぶことは難しい。一方で、個人的にはこのようなイノベーターたちには、共通した行動様式があり、それを効果的に学ぶ方法がきっとあるはずだと考えていました。

━ 共通の行動様式、ですか?

丸山さん: 成果を出すための能力は、スキルとコンピテンシーの二つに分かれると考えています。私たちの場合、標準的なスキル教育を施すことが難しいので、コンピテンシーの教育に力を入れようと考えました。先輩の背中の代わりになるような教育をしようと。

そこでデザイナーも研究者も共通して持ってほしいデザインセンタの行動様式の要として、「クリエイティブリーダーシップ」を掲げました。これは不確実な時代でもプロジェクトを前進させ、イノベーションを牽引できるリーダーシップのあり方です。想定外に耐えるマインドセットや状況に合わせて創造的な解決策を導く力、戦略をもって他者を巻き込む力などが含まれます。

個人的な語りが連鎖し、プログラムを協創する

━ クリエイティブリーダーシップを発揮できる人財の育成に焦点を当てられたのですね。そこからレアとの協働が始まったわけですが、どのような背景があったのでしょうか。

丸山さん: レア共同代表の大本さんのエピソードを聞いて、この行動様式を体系化して教えられるんじゃないかという期待がありました。大本さんは日本社会で抱いた課題感をもって、デンマークのビジネスデザインスクール「KAOSPILOT(カオスパイロット)」に飛び込み、起業家精神やリーダーシップを学んでいました。そこでは未知の領域に向き合い、”崖から落とされる”ような経験をしている。大本さん自身が変化を遂げた物語を聞いて、つよく共感しました。そして私たちには今、等身大の物語が必要だと思ったんです。

大本 綾: 「日立Co-Creative Dojo」のプログラムが生まれる起点となったのは、丸山さんとの対談でしたよね。

丸山さんの社内における人財育成も、私のKAOSPILOTやレアでの活動も、行動様式の形成自体をデザインする、学び方を学ぶという点で共通していました。この対談は社内のラジオでも配信いただき、いろんな議論が生まれたと聞いています。そのような過程を経て、丸山さんとプログラムを共同開発していきました。プログラムが始まる前から強い想いとエネルギーがあったことは、新しい活動が立ち上がるうえで重要なポイントだったと思います。

株式会社Laere 共同代表 エグゼクティブ プロセス ディレクター 大本綾

丸山さん: 私が大本さんの物語に共感して、その物語を社内ラジオで配信したんです。「レアさんとこういう研修やってみたいんだけど、どう?」と。 1回目はテストもかねていたので、手挙げ式で参加者を募りました。最初は物語に共感した人から始めるのが重要です。

━ 小西さんもラジオを聞いて参加を決めたのですか?

小西さん: 私は2021年12月に転職で日立に入社したので、プログラムに参加したのは2回目からです。入社して3ヶ月くらい経った頃、チームリーダーが「参加しない?」と声をかけてくれて。ちょうどコロナ禍でリモートワークが続くなか、お互いをよく知らないままに仕事はどんどん進んでいて、少しもやもやしていたタイミングだったんです。だから、救いの手を差し伸べてもらえた感覚でしたね。

丸山さん:2回目からはカタリストのシステムを導入したんですよ。小西さんに声をかけたチームリーダーもその一人。1回目で物語やプログラム自体に共感してくれた人たちが伝導者になって、各部の仲間に「このプログラムの何がいいか」を伝えてもらいました。私だけが引っ張るのではなく、共感してくれた人と一緒にプログラムを作る仕組みをつくりたかったんです。

小西さん: カタリストのシステム、すごくいいなと思いました。3回目の募集時も印象的だったことがあります。カタリストの方が社内のチャットツールでプログラムの案内を出したとき、カタリスト以外の方が「前回受けて、ここがよかったですよ!」とコメントしていたんです。共感する人が自ら声をあげていて、想いが伝播していくようすが良かったです。

心と体を使って行動様式をインストールする 「道場」のような場

━ 先ほど小西さんが「救いの手を差し伸べてもらえた感覚」と話していましたが、プログラムのどのような点でそう感じたのでしょうか。

小西さん: リモートの環境では、メンバーがどのような行動様式を大事にしているかが見えにくかったんです。コミュニケーションや指示の背景にあるものが分からなくて。自分はなんで転職したんだっけ? と考えることもありました。

このプログラムでは「My will(社会や組織に対する個人の想い)」を共有するワークがあるじゃないですか。お互いの大事にしていること、想いを共有する時間はすごく安心感があって、もやもやが晴れていく感覚がありました。相手の知らない一面をみれてほっこりすることもありました(笑)。

丸山さん: 新人からするとあまり話す機会がない職位の人が同じグループになって話すこともあったようですが、不思議と打ち解けていましたね。もともとフラットな職場ですが、特にリモートの環境下ではそういったつながりを求めていた人も多かったと思います。

大本:お互いの職位を明かさずに話しはじめるので、カジュアルに話せたのかもしれませんね。

小西さん: 3回目のプログラムのときに、デザインセンタ長と同じグループでした。その時にセンタ長がどんな組織が理想だと考えているか、そのためにどう組織運営をしているかを、個人的な経験と紐づけて語ってくれて。それが、自分が転職先に日立を選んだ理由と全く同じだったんですよ。転職して一年越しに「自分の選択は間違ってなかった」と感じられて嬉しかったですし、救われた気持ちでした。

大本: 私たちが想定した以上の出会い、つながりが生まれていて嬉しく思います。このプログラムは一貫してリーダーシップがテーマになりますが、まずはリーダーシップの起点となる個々人の想いや意志を立てたうえで、いろんな人との出会いを通して揺さぶりをかけることを重視しています。それがMy willを共有する対話であり、外部のリーダーを招致して対話するセッションでした。

日立Co-Creative Dojo 2023年版のフロー

小西さん:  このプログラムの魅力は「道場」という名の通り、身体性を伴って繰り返し繰り返し実践していくことだと思います。「参加者全員が学びを共有してからその日を終える」「各自のMy Willを大切にしながらも、独りよがりにならずにOur Willを作り上げていく」など、立場に関係なく同じ約束ごとを持って、繰り返し折に触れて道場に入っていく。2年間参加して、デザインセンタで求められる行動様式が少しずつ体に染み込んできたように思います。


後編では、プログラム3年目に迎えた挑戦を振り返り、そしてしなやかな組織に求められる「不確実性との向き合い方」について話します。


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