トラウマとアゲハ蝶
蝶々が苦手である。
大人になると虫が苦手になると聞くが、それだけが理由ではない。
あれはまだ学生の頃だったか。
自転車で出かけたある日、立派なアゲハ蝶が視界を横切り、走る私の周囲を旋回した。
驚いたが「今ブレーキかけたら蝶々と接触して傷付けるのではないか」という考えがよぎり、注意しつつも並走を試みた。
やがてアゲハは自転車のカゴの中に入り留まった。
私は自転車でアゲハを運んでいるのである。
蝶々が人間の運転する自転車に乗るなんて、教科書で読んだあまんきみこの『白いぼうし』のようじゃないかと
映画のワンシーンでも演じている気持ちで小気味良く思いつつ、下り坂も手伝ってしばらくノンストップで走り続けた。
目的地に着きストッパーや鍵をかけるなどの一連の動作が済んでも尚、そこにアゲハは居た。
飛び去ったものと思っていたのに。
嫌な予感が背筋を冷やしていく。
よせば良いのに、私はカゴからアゲハを拾い上げた。
アゲハは動かなかった。
零れ落ちた大量の鱗粉が、
手に、カゴに、衣服に着き、払っても取れなかった。
鱗粉特有の、細かな粒子のしつこさは油のようだった。
怨念のようにも感じられた。
程よいところで自転車を止め逃がしてやっていればこうならずに済んでいたのでは?と罪悪感すら覚えた。
死の恐怖と罪悪感と色々汚された嫌悪感が綯い交ぜになり
蝶々に対する気持ちは一気に "苦手" へと傾いたのだ。
カゴに亡骸を入れたまま持ち帰り、土に埋めたように記憶しているが、果たしてそれは本当の記憶だろうか?
本当はショックでなにも出来なかったのでは無いか?
すると亡骸はどこへ行ったのか?
やはり弔ったのか?
今更見つけようの無い答えを探してしまうから
やっぱり蝶々は苦手である。
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