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“Why J-League?” 外国人Jリーグファンに聞いてみた/イングランド出身・スチュアートさん(マリノス)

※ これは2016/10/21にDEAR MAGAZINEに掲載された記事を
メディア移行に伴い、編集長の許可を得て転載したものです。
今とは表現や考え方も変わった部分がありますがそのまま掲載します。

横浜F・マリノスの本拠地、日産スタジアムの「N15」ゲート付近には、ある熱狂的なマリノスサポーターがいます。Stuart Woodward(スチュアート・ウッドワード)。

世界中から集まったサポーターと共にマリノスを応援する彼の姿は、マリノスサポならよく知るところ。ブログやSNSでマリノスの情報を英語で発信もする、イギリス出身のマリノスサポーターです。

ピリピリした試合で一触即発のサポーターも、優しい雰囲気でなだめるイギリス紳士。
スタジアム初心者を助けている姿もよく見かけます。でも、サッカーの母国出身の彼がJリーグにハマってしまったのはなぜ一体どうしてなんでしょう?

スチュアート、Why J-League?

――まず初めに、出身はイングランドのどちらですか?

S「LEAMINGTON SPA、っていう地図で指すとイギリスのちょうど真ん中にある小さな町です」

――日本に来たのは何がきっかけだったんですか?

「大学を卒業後に仕事で横浜に来たのがきっかけです。最初は横浜の名前も、どこにあるかも知らなかったけど、来てすぐに『いい街だなぁ』と思いました。

一時期東京で仕事をしてたときも、毎週末横浜まで遊びに行ってました」

――初めは名前も場所も知らなかったのに!(笑)

「景色とか、横浜の歴史が大好きなんです。本で読んだ歴史を歩きながら見て、探して、ストーリーを学べる街だったのがすごく面白かった。元町にある外国人墓地で生麦事件のリチャードソンの墓を見たり」

フランシス・ホールの『Japan Through American Eyes: The Journal of Francis Hall, 1859-1866』幕末期に横浜に住んだアメリカ人商人の日本滞在日記がスチュアートのおすすめ。

<サッカー興味なしイギリス紳士、日本でハマる>

――マリノスを応援するようになったきっかけは何ですか?

「実は結構最近からで、2012年頃、僕の長期出張中に、息子が急にサッカーを好きになって。そこからホームタウンのマリノスに興味が出て、熱心なマリノスファンに友人と一緒にスタジアムに行ったのがきっかけでした。

最初の一年はマリノスの調子が良かったのもあって、2013年のホームの試合は全試合観に行きました。それからアウェイにも行ってみたい気持ちが出てきたんです。初めてのアウェイは1人で行った湘南(ベルマーレ)戦でした」

ー1人で行ったんですか!?

友達にも驚かれた(笑)。一番クレイジーなサポーターは遠いところに集まるから、その人たちに会ってみたいと思ったんです。会社を休んで平日火曜に広島に行ったこともありました。さすがにその日はサポーター少なかったですけど(笑)」

――クレイジーサポーターには会えましたか?

S「そうですね、行って分かりました。僕自身がクレイジーサポーターだって(笑)」

――Jリーグを応援していて何が一番楽しいですか?

サッカーを口実にして、色んな場所に遊びにいくところですね。特に、アウェイ遠征のついでに日本のいろんな街へ旅行にいくのが一番の醍醐味です。

息子と旅行したり、迷ったときに一緒に地図広げたり。なんでもっと早くから好きにならなかったんだろう、って思います。なんでここ?と思いながらも、来週は高知に行きます(笑)
(*2016年9/22天皇杯 東京ヴェルディとの試合が中立地の高知開催でした。)

あとは、誘ったひとがマリノスサポーターになって、年チケ買ったりするのは嬉しいですね。その後アウェーにも行くようになって、次第にみんな勝手に自分でいくようになりました(笑)。

<日本のサッカーにハマった理由>

――スチュアートは、昔からサッカーが好きだったんですか?

「子供の頃はちょくちょく兄と地元のチームの試合を観に行くことはあったけど、サッカーはテレビで見るものだと思ってました。ロンドンから列車で5時間くらいの遠い場所に行くことがあったんですが、電車の中でたまにアウェイ遠征してるサポーターを見て、『長時間電車に揺られてサッカー見に来るなんてマニアックだなぁ』と思ってました。今はその気持ちがすごく分かる(笑)。

日本でJリーグが始まったときも、自分で試合に行くとは思わなかったです。スタジアムはどこだとか、チケットの手に入れ方も分からなかったし」

ーーサッカーの母国にいるときはあまり興味がなかったのに、どうしてJリーグでサッカーにハマったんですか?

「サポーターの応援の文化がすごく良いなと思ったんです。
まず応援の仕方がイギリスと日本では全然違う。イギリスにはコールリーダーがいないから、誰かが適当に考えながら、色んなところで各々が大声で歌い続けている。悪口やスラング、ゴシップネタとかダーティーな応援も多い。うまく作ってるし面白いんだけどね。それと、イギリスの70~80年代はフーリガンや問題が多かったから、あまり行きたくなかったんです。

対して、日本の応援はすごく統率が取れてて、しかもすごく盛り上がっていて、真面目に応援しているから面白かった。Jリーグはみんな同じユニフォームを着てるのも新鮮でした。

それと、やっぱりスタジアムのAtmosphere(雰囲気)。子供たちや年配のかた、みんなが楽しめる場所だと思いました。チケットも高くないし手に入りやすいので、試合が気軽に見れるのが大きいです。

イギリスのマンチェスターとか、リバプールのチケットは値段がすごく高いし、年間チケットがないと観れないことが多い。みんな延長したり息子に渡したりして、長年持ってるひとが多いから新しい人は買えない。年間チケットは数年待ちとかもザラにあります」

ーーリバプールは30年待ちと聞いたことがあります(笑)

「あとは、スタジアムでお酒が飲めるのが最高です。イギリスではフーリガンが原因で客席にお酒を持ち込めなくなったから、最初は信じられなかった。日本のスタジアムはパラダイスかと思いました

<Jリーグの魅力は、地域と、ストーリー>

ーーJリーグ、スタジアム観戦を楽しむコツってありますか?

「一番大事なのは、最初は友達と一緒にいくことだと思います。なぜなら、Jリーグは『ストーリー』がすごく大事だと思うから。

海外サッカーの方がFIFAランキングも上でレベルも高いし、お金があってメッシやネイマール、ロナウドみたいなスターがいる。Jリーグはそうじゃない。でも、Jリーグのおもしろいところは『ストーリー』だと思っています。

有名選手しか知らないと、ボールはひとつしかないから彼らのプレーと得点しか見るところがない」

ーー90分の試合の中で有名選手がボールを触るのは数分ですしね。

「そう。それってすごく退屈だよ、初めて来た人にとって。試合が負けてしまったらもうつまらない。でもサッカーは本当はもっと面白い」

「選手の名前とかの情報はインターネットですぐわかるけど、この選手はケガから復帰したとか、こんな歴史があるとか。サッカーのこと、クラブやプレーヤーのこと、地域のこと、色々なストーリーを教えてくれる友達が隣にいたら、サッカーはもっと楽しめる。

僕がマリノスを応援していて楽しいのは、クラブ・地域の歴史やバックグラウンドが豊富だからです」

ーー「ローカルストーリー」が好きなんですね。

「うん、僕はもともとサッカーよりも「横浜」という街が好きだというところから始まっているし、自分のローカルクラブを応援することはとても大事だと思う。

ローカルのクリーニング屋や焼き鳥屋にファビオ(横浜F・マリノス在籍)のポスターが貼ってあるのとか、そういうのって素敵だなと思う」

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「あと、僕は最初、お手洗いがどこだとか、ビールやごはんはどこで売ってるとかを教えてもらえることでラクになった」

ーー友達がいれば後は簡単ですよね。

「今僕は、スタジアムでは応援に行く、というよりも友達に会いに遊びに行く感覚の方が強い。その方が楽しいですしね」

ーー一番のアドバイスはスチュアートに連絡することじゃないですか?

「マリノスサポーターだったらいつでもいいですよ(笑)」

<外国人サポーターが大変なこと>

――外国人ファンとして、困ったこと、大変なことってありますか?

「やっぱり、僕たち外国人はスタジアムで目立つから、人一倍気を遣うところはあります。例えば、友達の外国人がハメを外しすぎて迷惑かけたりとか。

外国と日本では、スポーツ観戦の楽しみ方そのものが違うんです。日本のスタジアムのルール・マナーは独特だし、海外に比べると厳格だから、それがわからないと外国人はかなり難しい。

例えば、外国のスタジアムのゴミとかは、スタッフが後から掃除するので、みんな席に置いて帰ります。でも日本のファンは綺麗にしていくから問題になりやすい。

それに、海外では酔っ払って、野次ったり暴走することもよくあるけど、それは日本では浮いちゃう。応援も、外国人はスタジアムに来たら、気分で好きに歌いたいから、そういうときは『やめとけやめとけ...』とヒヤヒヤします」

ーーみんな一緒に同じことをやらないと、変な空気になるところはあるかもしれないですね。

「前に偶然知り合ったアメリカの軍人さん30人くらいと試合を一緒に観ることがあったんですけど、もう行く前からすっごい怖かった(苦笑)

そしたら案の定すごくエキサイトして暴れ出しちゃって、向こうには変なことをしてるつもりは全然なくても、白い目で見られてしまって、周りにも迷惑かけてしまった。もう気が休まらなくて、全然試合に集中できなかったよ」

ーーアメリカの観戦スタイルはかなりラフですからね...。もっとユルかったらなと思うことはありますか?

「でもこれは日本の文化。だからこそ応援は熱いし、そこが僕の一番好きなところ。
嬉しがったり、怒ったり。日本のスタジアムの中はSociety(社会)より熱い。僕らはそれをリスペクトしなきゃいけない。

ただ、そういうルールやマナーを外国人に説明するのはすごく難しい。価値観も違うから。本来はみんな自由に観戦していいはず、というのもわかるから悩むときもあるけど、僕が友達を誘ったときはしっかり教える責任があると思ってます」

「そういう部分で、多分、Jリーグは友達がいないと新しいひとは入りにくいと思う。さっきのストーリーの話もそうだけど、マナーとか、暗黙のルールは一人でいってもさっぱりわからない。だから外国人は、突撃するよりは日本人の友達と仲良くなって一緒に行くのがいいかもしれないですね。

チケットひとつ取るのも外国人にとっては難しいですしね。みんな試合に行きたいけれど取り方がわからないから、僕がみんなに教えてる。

あとは、プレミアの話を振られたときに答えられないと恥ずかしいから、プレミアリーグのニュースも追ってるんだけど、それが大変かな(笑)」

 この日のインタビューした場所は、横浜の600件近い店が並ぶ飲み屋街、野毛。すれ違う地元の方々や、ベイスターズファンにもスチュアートの顔が知られているのには驚きました。
横浜には「3日住めばハマっ子」という言葉がありますが、スチュアートは身も心も立派なハマっ子。彼からJリーグやマリノスを愛する気持ちを聞いていたら、なんだかスタジアムの空気が恋しくなってきました!

スチュアートのSNS / X:@stuartcw Instagram:@scw28

写真:
DEAR Magazine編集長 和田拓也:@theurbanair

取材協力:
SHEVA (シェヴァ) / http://www.sheva.co.jp/
横浜の野毛に所在するサポーター憩いのバー。
マリノスの選手名カクテルや店内のトリコロールグッズが輝く場所。

取材協力:
SHEVA (シェヴァ) / http://www.sheva.co.jp/
横浜の野毛に所在するサポーター憩いのバー。
マリノスの選手名カクテルや店内のトリコロールグッズが輝く場所。

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