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出張の夜の手作り餃子(2022.10.24)

わたしはその日、長野県大町市にいた。
普段であれば上司が担当している出張先であるそこに、チームのみんなで行くことになった10月のこと。その日仕事は特になくて、次の日朝早くから動き出すために前入りしたのだった。

定宿にしているという駅前のルートインに泊まったのだが(というか、他にビジネスで泊まれる感じのところがないらしい)、そういえば至近距離に先月知り合った人が住んでいることを思い出し連絡をとってみた。
先月贄川(塩尻)のシェアハウス、坂勘に1泊させてもらった時に知り合った同年代のご夫婦が、来月は大町に移ると言っていたのだった。

坂勘に行った時の話↓

大町の家も同じく元々旅館だったシェアハウスで、実際に大町に着いてみるとホテルから本当に目と鼻の先で驚いた。
夜の予定はなにもないからぜひ会おう、ということになり、19時半頃に日本酒と、ガーベラがメインのちょっとしたミニブーケを携えて(実は前日自分の結婚式で、家に飾ってくれたら嬉しいなと何本か選んで包み、どうにかこうにかここまで持ってきた。結婚式の翌日に出張というのは可能ならいろんな手を尽くして避けた方がいい。余韻が皆無で悲しかった)ホテルを出る。「ご飯食べた?」「まだです〜」「こっちもまだだから一緒に食べよう」言われて行ってみると、食材を買いに行くところから始まった。

1ヶ月間レンタルしているという古い軽自動車に3人で乗り込み、寒いから、と徒歩圏内のスーパーに車で出かける。
慣れている風に発進した旦那さんのMさんだが、運転はたまにしかしないのでかなり不安らしい。来月には中古車を譲り受ける予定で、それに向けて「ちょっと駐車を練習させて」と、だだっ広いスーパーの駐車場でわざわざ両隣に駐車してあるスペースを選ぶ。

無事に駐車を終えて車から出るが、奥さんのYさんが何かあったのかというくらいなかなか降りてこない。
「Yは車から降りるのがいつもゆっくりなんだよ」とMさんが説明してくれる。「いつも朝が弱いんだよ」とかならわかるけど「いつも車を降りるのがゆっくり」と他人に他人を説明されたのは初めてで、そういうこともあるんだ…と思った。確かに本当にゆっくりと車から降りてくるYさんを、Mさんが待ってるふうもなく待っているのがすごく良かった。

それからスーパーに入って食材を選ぶ。車に乗ったくらいから思っていたがこのふたり、基本的に全部ゆっくりだ。わたしが感じるスーパーでの通常のテンポ感(用事を済ませるようにサクサクと進む、もしくはあれ欲しいこれ欲しいとすこしテンション高めに進む)のどちらでもなく、淡々とかつゆっくりと品物をカゴに入れていく感じが独特だった。
メニューはなんとなく餃子に決まり、ついでに洗濯洗剤など彼らの日用品の買い物も済ませて帰路に着く。

餃子を作るのは5年ぶりくらいだが、案外体が覚えている

Yさんは中国出身で、友達に教えてもらったというレシピで餡を作ってくれた。それをわたしが包み、Mさんはスープ餃子にする分のスープを作っている。
初めて来たシェアハウスで5年ぶりくらいの餃子作りをしながら、「出張の夜に餃子作ることなんて人生最初で最後だろうな…」と感動する。
この街のどこかにいる上司や先輩はまさか今わたしが餃子を包んでいるなんて夢にも思わないだろう。こうして3人でゆっくりと餃子を作り、焼いたりスープに入れて煮たりして、できたそばからそのまま台所で立ち食いした。「なんか屋台みたいでいい」と言いながら、寒くてマフラーも外せないままに。本当に屋台。
そのうちスープがなくなって、でも味付けにしていた鶏がらスープの素も切れてしまって、「これでいいか」とMさんは昆布茶を代わりに投入した。「どう?おいしい?」Yさんが聞く。「うん、おいしい。ていうか、昆布茶」そりゃそうだ!

わたしたちは餃子の昆布茶煮を食べ、わたしの持ってきた山梨の日本酒を飲み、ゆったりと時を過ごした。ふたりに流れる時間があまりにゆっくりだったので時間は相対的に速くすぎていき、明日の仕事に向けて帰らなければいけない時間。というか、準備に1時間以上かかってるし。
またどこかで会えたらいいねと言葉を交わして、わたしはシェアハウスを後にした。

ホテルの部屋の窓から。一番よく見えているのは餓鬼岳
…と、AR山ナビが教えてくれた

翌朝、気持ちのいい晴れに早めに目が覚めたので少しホテルの周辺を散歩してみた。昨日は見えなかった北アルプスが眼前にどーん!と広がっていて、お膝元に来た〜!という感じだ。

昨日のシェアハウスの前をわざと通ってみる。入口の大きなガラスに自分の姿が映る。知っている人の暮らしがここで営まれていることが、なんだかたまらなくいとおしい。爆速で駆け抜けていていた2022年、自宅で食事をとった日は週に1日あったかどうか。昨夜のようなゆるい夜がありがたかった。

おわり。

★追記
ちょうど、昨日(2023.2.8)大町にこの時振りに立ち寄ったので、懐かしくなってこの話にしました。


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