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美味しすぎない「タンメン」

先日、美味しすぎない店を求めて自分史上最高に不味いハンバーグに出会った。古い肉の味しかせず、胃が食することを拒んだ。ここでもう一度はっきりさせたい。この話の舞台になる店はどこも美味い。ただその美味しさが過度でないだけなのだ。何より不味い店は美しくない。今回登場するのは美しいタンメンだ。

そんな傷心気味の胃袋を満たすのは、数年ぶりに訪れた石巻市の大王。「ダイオウ」ではなく「ターワン」と読む。同年代のおじさんなら耳に馴染みがあるかもしれない。王大人(ワンターレン)の応用問題だ。

タンメンという料理は関東中心に食べられるローカルフードだという。大王は50年ほど前からタンメンを提供する古い店だ。今ではみそタンメンのオーダーが8割ほどらしいが、個人的には断然「塩」を推す。

これである。三田に「二郎」という食べ物が生まれたのと同時代に、遠く離れた東北の地で大王のタンメンが産声を上げたのだ。これを奇跡と呼ばずに何が奇跡だ。

カウンターに一列に座り、老も若きもただひたすらに麺を啜る。上着も脱がず、マフラーも取らずにヤサイをむさぼる。熱気と湯気で窓が曇る。

厨房では名物の兄弟喧嘩がはじまった。と同時にラー油をひと回しかけて味の変化を楽しむ。ラー油の辛さのせいか、それとも厨房の喧騒が心地よいのか。大盛りのタンメンがスルスルと胃の中に消えていった。


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