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「物理的な横のつながり」から「時間を越えた深さのつながり」へ | LAC金沢コミュニティマネージャー・松下秋裕さんインタビュー

2021年12月にLivingAnywhere Commons(以下、LAC)に新たな拠点が2つ加わりました。そのうちの1つが金沢。

2018年度に日経BP総合研究所がまとめた「幸福度ランキング」では全国4位という街です。金沢市としては世界の「拠点都市金沢」を目指しています。

LivingAnywhere Commons金沢(以下、LAC金沢)のコミュニティマネージャーとして、宿泊施設「LINNAS Kanazawa(以下、リンナスカナザワ)」を運営されている松下秋裕(まつした あきひろ)さんにお話を伺いました。

松下さんは、学生時代に海外64ヶ国を訪れたことのある、とても旅好きな方です。

大学卒業後に外資系の不動産会社に就職。その会社で、現在のエンブレムホテル株式会社の代表取締役の入江洋介(いりえ・ようすけ)さんと出会います。入江さんが独立するとともに、松下さんは入江さんと一緒にホテル運営のお仕事を開始。紆余曲折ありながら、松下さんは株式会社Linnas Design(以下、株式会社リンナスデザイン)を設立され、「リンナスカナザワ」のホテル運営をされています。

今回は、松下さんの人となりやコミュニティ形成の考え方、そして”旅”についてお話を伺いました。

旅を通して「価値観の破壊と再構築」の面白さを実感

画像1▲北欧文化に根ざした本格的なサウナ。贅沢…!

ーー本日はお忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます。松下さんはこれまでに海外64ヶ国を渡り歩いたとのことですが、もともと旅は好きだったのですか?

幼少時代の頃から家族旅行などは好きでしたが、1番大きかったのは高校生のとき、親に「行ってこい」とオーストラリアに1ヶ月放り出されたことです。

当時はひどいなぁと思っていたのですが、それがよかったんですよ。

いろんな経験を通して価値観を作り上げていく高校生の時期に、日本では考えられない出会いをたくさんしました。その結果、今まで常識と思っていた価値観が壊されたんです。

この「価値観を壊されて、再構成していく」ことに、とても面白さを感じましたね。それから、どんどん海外に一人旅をしようと思うようになりました。

大学では海外に行きまくりましたし、社会人になってからも3日間休みがあれば海外に行っていました。仕事が終わって、バックパックだけ背負ってすぐに出発です。

「旅をするために働いていた」と言っても過言ではないですね(笑)

ーーLAC金沢として拠点に加わった「リンナスカナザワ」を運営している株式会社リンナスデザインのロゴは、エストニアの国花ですよね。松下さんは1年半エストニアに滞在されていたとのことですが、エストニアの魅力をどこに感じていますか。

今でこそエストニアは電子国家として呼ばれていますが、私が滞在していたのは2010年。まだ電子国家構想を掲げたばかりでしたが、国として「これからやってやるぞ」という雰囲気に魅力を感じていました。

あと、国民性に驚いたことも魅力に感じている1つです。

僕が海外の旅をし始めていた頃、欧米諸国の国民の多くはオープンマインドだと思っていました。そのため、エストニアの方もオープンマインドなんだろうと思って話かけると、ほとんどしゃべってくれないんですよね。でも、心の距離が近くなって打ちとければ、どんどんと会話が弾みます。

日本人の奥ゆかしさみたいなものに近いかもしれません。

当初の欧米諸国の国民性に対する考えと現実とのギャップが大きくて、エストニアにより一層興味が湧きました。

ーーエストニアを始め、北欧文化のHYGGE(ヒュッゲ)(※)を松下さんがリンナスカナザワで提供するのはなぜですか?

多様な価値観に触れて価値観の再構築の場を提供するには、HYGGEが良いと思ったからですね。

今振り返ってみると、たくさんの海外渡航を経験することで「どんな旅先に宿泊すれば、自然と面白い出会いがあるか」という考えが自然と培われていたように思います。

(※)HYGGE(ヒュッゲ):北欧の文化で、何気ない日常の中で自分自身を豊かにするポイントを作ること

ーーちなみに、エストニアと金沢の共通点はあったりするのでしょうか?

気候的に見れば、雪が降ったり曇りが多かったりします。

そういう気候条件から、北欧家具と金沢の工芸品のベクトルがともに内向きなように感じますね。

あと、新しいものへの融合と力強さがあると思います。

金沢の人たちは、みんな金沢のことが好きなんですよ。金沢のことが大好きだからこそ、この街に新しいものを取り入れつつ、良くしていこうという気概に近いものを感じますね。

「人」がすべて。その人のストーリーを発信して、深さのあるつながりを意識

画像2▲一人旅やワーケーションにぴったりな部屋もある

ーーホテル経営に携わるきっかけとなった入江さんとの出会いについて教えてください。

今でこそ、カジュアルなホステルやドミトリーを大きな資本で動かして人と人の出会いをつなぐ会社が増えましたが、当時の日本にはそういった会社が少なかったです。

僕はそこに大きなビジネスチャンスがあること、そしてコミュニティそのものにも価値があることを感じていました。

入江さんは僕と同じ考えを持っていただけでなく、具体的な経営のアイデアを持っていました。そこですぐに入江さんに声をかけて、一緒に仕事を始めることになったんです。

ーー 一緒に仕事をしてみていかがでしたか?

コミュニティ重視のホテル運営では、「人」がすべてだと痛感しました。

たとえば、コミュニティ重視のホステルだと、予定を決めずに旅行する人が多いんですね。そういう人たちは、宿泊先の人のことを気に入って連泊してくれることがあります。

これは実際に数字にも現れていて、事業的にも「人」がすべてだという印象を強く持ちました。

あとは「地域の協力なしには何もできない」ということですね。

僕たちのお客さんは「人に会いたい」という方々が多いです。ホテルのスタッフとの出会いもありますが「地域の面白い人に会いたい」という気持ちを強く持っていますね。

たとえば、ホテルのお客さんが地域のお店に行ったとき、店主の方との会話で「あそこに泊まっているんですよ」という話になったとします。その際、ホテルが店主と良い関係性を築いていないと話が広がりませんし、折角の旅の雰囲気が台無しになってしまうんですよ。

地域の方と良い関係性を築くことができていれば、「あそこに泊まっているんですよ」の一言で会話が弾み、かけがえのないひと時を過ごすことができます。

ーーその気づきは「リンナスカナザワ」の経営にも反映されているのでしょうか。

そうですね。当初は、大きな箱に大勢の人を集めて、物理的に人と人とのつながりをつくって、ということにフォーカスしていました。しかし、今の時代ではそれも難しくなってきていると感じています。

そこで僕が意識していることが「ストーリーを発信すること」です。

「リンナスカナザワ」のYoutubeチャンネル「リンナスチャンネル」もその考えから生まれた取り組みの1つです。

人のストーリーを発信すると時系列を後から追うことができるので、物理的な横のつながりというよりは「時間を越えた深さのつながり」になります。このつながりの連鎖を生み出すことで、時間を越えて「人」にたどり着けるのではないかと思っています。

謙虚さを大事にしながら、「類は友を呼ぶ」流れを作り出していく。

画像3▲ゆったりとくつろぐことのできるゲストラウンジ

ーー松下さんのお話を伺っていると、何でも楽しみながらやられている印象を受けます。物事に取り組むうえで、何か意識しているようなことはあるのでしょうか。

根っから、何でも楽しみながらやることが好きなんですよね。なので、特に意識しているようなことはありません。強いて言うのであれば好奇心でしょうか。

「類は友を呼ぶ」という言葉がありますが、今のリンナスカナザワの運営メンバーも何でも楽しめる人たちが多いですね。

僕は「類は友を呼ぶ」を可視化した状態がコミュニティだと考えています。自然とそういった連鎖が起きて、その総和がリンナスカナザワのコミュニティになっているんです。

ーーコミュニティの考え方について、もう少し詳しく教えていただけますか。

株式会社リンナスデザインは行動指針として「Be HUB!」を掲げているんですね。

・Be Humble(人に対して、自分に対して、常に謙虚な気持ちで)
・Be Unigue(その地域らしさ、リンナスらしさを大切に)
・Be Brave(勇敢にチャレンジする起業家精神)

という3つです。

僕は常々「面白いことをやっているという気持ちが強いときほど、謙虚さを絶対に忘れないでほしい」と運営スタッフに言っているんですね。

地域の外から新たにコミュニティを作ろうとする人は、おそらく勇敢さとオリジナリティを持っていると思います。でもそれだけで進めていくと、地域の方々に「今まで築いてきたものが壊されるのではないか」という漠然とした危機感・不安感を募らせてしまうことがあります。

勢いよく進んでいる時ほど、何よりも「謙虚さ」が大切だと思うんです。

「Be HUB!」という行動指針をスタッフが理解してくれることで、よく「リンナスの人はなんかいい人だね!」と言われることも増えてきました。

このような形で、1回泊まったゲストが運営スタッフのファンになってくれて、2回、3回と次の宿泊につながるようになってきています。

ーー人と人との良いつながりが、リンナスにとって大きなプラスになっているということですね。

金沢という地域の規模感だと、人に自己紹介するときに「リンナス」が苗字になるんですね。

僕の場合だったら「リンナスのアキです」と自己紹介をします。
それが文化として自然と浸透しているので、お店を名乗る以上「どういう人か」ということがことさら大事なように思いますね。

少し戦略的に聞こえるかもしれませんが、リンナスは、UGC(=User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)マーケティングでじわじわと広がっていくことを考えています。

僕たちのことを面白いと思ってくれた人がSNSなどで発信して、その発信の連鎖が別の人を呼ぶという流れを作っていきたいですね。

ーーまさに「類は友を呼ぶ」ですね。

旅好きな人が集まるリンナスカナザワ。ほっとする日常の延長を感じてほしい。

画像4▲リンナスカナザワにはシェアキッチンがあるので地元食材を使っての料理などもおすすめ

ーーLAC金沢の、今後の展望を教えていただいてもよろしいでしょうか。

僕はリンナスカナザワ(LAC金沢)を「点」、街や地域の施設などが「面」だと思っています。

リンナスカナザワ(LAC金沢)という「点」を打ったのはあくまで通過点で、「点」を打ったことで「面」も面白くなっていく活動をしていきたいですね。
「面」が拡大して金沢そのものが面白くなり、その結果として「リンナスカナザワ(LAC金沢)」にも興味を持ってくれれば、それでいいと思っています。

今は、旅の仕方も働き方も自由になりつつあります。昔のように旅行のルートをつなぐ必要はありません。

僕たちにできることは、面白いと感じるところに「点」を打って、「面」を広げること。
面白いと感じた人がどんどん情報発信をして自然と「面」が広がり、最後にはその地域住民の方に「自分の街って面白いのかも!」と再発見してもらいたいですね。

ーーLACの会員の方やLACに興味を持たれている方に伝えたいメッセージはありますか?

LAC金沢には、自然と旅好きの方が多く集まっています。
おそらく旅好きの方の多くが「Be HUB!」の要素を持っているのだと思うのですが、親和性の高い僕たちのところに宿泊してくれれば、楽しい時間を過ごせると思います。

金沢の近江町市場で食材を買って、シェアキッチンで食事を作り、宿泊客に振る舞う。そこから自然と交流が生まれる。
ほっとする豊かな日常の延長をLAC金沢で体験してもらいたいですね。日常を別の角度で見ることで、新たな発見があると思います。

ほっとする豊かな日常のヒントは、ふとした瞬間に散らばっていて、それこそ僕たち運営スタッフからも提供できると考えています。

たとえば、金沢が大好きになって移住してきた運営スタッフのチチさんは、純粋に「金沢の良さを共有したい」という思いに溢れています。そのため、いろんな人たちが来てくれること自体がうれしくて、自分から積極的に金沢の魅力を伝えてくれます。

そんな出会いを楽しんでもらえる人なら、きっと気に入っていただけるはずです。

画像5▲金沢散策にぴったりなオシャレなレンタサイクルもある

ーー松下さんの根底には「旅」があると感じました。最後に、松下さんにとって「旅」とは何なのか教えていただいてもいいですか。

NHKの番組の「プロフェッショナル」みたいですね(笑)。

ーー無茶な質問をしてすみません。

旅は「僕自身」ですかね。

旅でいろんなことを知ることができましたし、僕の価値観の多くは旅で形成されています。
ちなみに今年の僕個人の目標は「1年の3分の1か4分の1を金沢とは違うところに拠点を置いて活動する」なんです。

だから、LACの価値観にも僕自身とても共感しています。
LACのメンバーとして、これから一緒にやっていけるのが楽しみですね。

ーー今日は色々と話してくださり、ありがとうございました。

《ライター:松崎邦彦

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