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「未来の食のワクワク感を醸成していく、そんなおもしろい会社にしたい」 | LACユーザー・hakken 竹井淳平さんインタビュー

LivingAnywhere Commons法人メンバーの株式会社hakken「代表取締役ホームレス」こと竹井淳平さんにインタビューさせていただきました。

竹井さんは食に関する問題を解決すべく、さまざまなプロダクトを開発しています。
キーワードは「ワクワク」。自分が「面白い」「楽しい」と感じたものを素直に受け止め、事業のヒントにしているようです。

お話の中で普段の暮らしの中からプロダクトを思いつくエピソードがあったのですが、まさに社名の「発見(hakken)」そのものだと感じました。

型にとらわれない竹井さんが、なぜLivingAnywhere Commonsを選んだのか。
事業内容からプロダクトづくりのプロセスまで、幅広くお話をうかがいました。ぜひご一読ください!

「hakken」は「ワクワクする食の未来を作る会社」

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ーーまずhakkenが行っている事業について教えてください。

会社名にもなっている「hakken」は、混雑する京都の問題を解決するためのプロダクトです。店頭にあるQRコードをスマホで読むと整理券が発行され、待ち時間を有効に使えます。

ただ、現在コロナの影響でそもそも行列ができなくなったのを機会に、食に関する新たなプロダクトを立ち上げました。

コロナ禍で大変なレストランのシェフと消費者を、オンラインライブクッキングでつなぐプロダクトが「#いえつなキッチン」です。
料理人とオンラインライブクッキングでつながり、同じ食材を使って家でレストランの味が楽しめるサービスを1年くらいやっています。

そして、フードロス問題を野菜を乾燥して再利用し解決していこうというプロダクトが「ほしな」です。

▲広島県商工労働局「D-EGG PROJECT」の「ほしなプロジェクト」紹介ページ

農林水産省・環境省による平成29年度の調査で、食べられるのに廃棄されている食品は年間612万トン。このうち野菜は220万トンです。

一般的なフードロスの対策として、廃棄に近い野菜を輸送コストなども考えてダンボール1箱にいっぱい詰めて送る場合が多いんですね。ただ受け取る側からすると多いので腐らせてしまう。結局、解決になっていないんですよね。
それに、乾燥したものも基本的には水で戻すことが多いんですけど、それって結構めんどくさいんです。

なので「ほしな」では、水で戻さなくても美味しく食べられるようにできないかを味の素さんとともに取り組んでいます。

自治体30ヶ所くらい回ったところ、熊本県高森町と広島県安芸高田市で前向きに検討いただけたので、まずはこの2自治体のフードロスから解決していくことが決まっています。

今後は「#いえつなキッチン」と組み合わせて、乾燥野菜を使ったレシピ提案もやっていけたらと思っていますね。

▲熊本県高森町での乾燥廃棄野菜事業に関するプレスリリース

プロダクト「bites!」は、LAC拠点滞在中の体験がプロダクトづくりのきっかけに

もう一つ、料理人独立支援のプロダクトが「bites!」です。

料理人は料理に対して情熱をかけている人が多いので、どうしてもITは苦手でダメという人が多いんです。
そこで出張シェフやお弁当、お菓子、スパイスなど、料理人のプロダクトを購入できるマーケットプレイスを用意しようと最初のうちは考えていました。

ーー「考えていました」ってことは変わったってことですか?

はい。LAC三豊にいた時に体験したことがきっかけで変えようと。

ーーどんな体験ですか?

三豊で一緒にいたアメリカ人と夜ごはんを食べに町へ出たんですけど、夜ごはんを食べられるお店がなかったんですよ。

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▲竹井さんが滞在した三豊の町

ーーあるあるですね…。

行政が商業施設・飲食店を作る・誘致するなどしたところで、そもそも人が少ないから事業として成り立たない。だからお店が無いんですよね。

今各地でお金をかけていろんな誘致合戦が行われていますけど、せっかくお金かけて誘致しても結局こうなってしまうのなら、そこにお金かける必要ある?と常々思っていました。

そんなことを考えながら三豊の町を歩いていると、各家々から美味しいごはんの匂いがする。

2人で「食べさせてくんないかなぁ…」って(笑)

ーーめっちゃわかります!(笑)

「あ、これだ!」と。
「bites!」を料理人の個人活動だけではなく、料理好きなすべての人が提供できるようにしよう。食べたい人や、家事や仕事の代行として幅広いニーズとマッチングさせるプロダクトにしよう。そう思ったんです。

外食でも中食でもない「食のAirbnb」のような、もっと自由な食事の形があるんじゃないかと思って。

ーーそれいいですね!

レストランで食べるごはんはもちろん美味しいんですけれど、家のごはんも食べてみたいってニーズもあると思うんですよ。

最近はあまり無いかもしれませんが、小さい頃友達の家に遊びに行って「今日夜ごはん食べてく?」って言われたことありませんでした?

ーーありました!「この家のシチュー、具にこれ入ってるんだ」とか思ってました。

でも大人になってからよその家のごはん食べる機会ってほとんどないですよね。

「bites!」は”自分の家のごはんを提供したい”という一般家庭の方に登録してもらい、予約した人が“隣の晩ごはん”のように食べに行く感じのプロダクトなんです。

料理のクオリティは美味しいだけじゃなくて、「具が違う」「味が濃い」なども含めてその人やその地方の味だと思っていて、それらを楽しめるようにできればと思っています。

ーーそれは面白いですね。リリースされたらぜひ使ってみたいです。

「bites!」がいろんな問題を正しい姿にしてくれるかもしれない

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「bites!」は食のマッチングだけでなく、副次的にいろんな効果をもたらすと思っています。

たとえば、老夫婦だけで住んでる世帯が自分でつくっている食事を提供できたら、それを食べに来る人がいることで外とのつながりができる。

会話もできて認知症などの対策になるかもしれませんし、自分の家でつくるごはんって食べられる量しかつくらないので、フードロス対策にもなると思うんですよ。

もちろん衛生面は保健所や味の素さんのアドバイスも受けながら細心の注意を払って進めていきます。コロナのこともありデリケートな問題なので、検証しなければいけない部分はたくさんありますからね。

一方で、世の中が潔癖に偏りすぎているとも感じています。

ーーと言いますと?

普通は家でごはんをつくる時に、マスクやフェイスガード、ビニール手袋なんてしないじゃないですか。

昔はそれほど気にしてなかったことに対して、今は潔癖になり過ぎるあまり身体の抵抗力などが失われてきてるんじゃないかなと思うことがあります。そういったことを正しい姿に戻したいという気持ちもありますね。

LACは拠点での体験やつながりが仕事になる

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ーーLACを利用しようと思ったのはなぜですか?

まずは僕自身が使いやすいってところですね。

ーーどんな感じで利用されていますか?

遠野・石巻・珠洲・うるまなど、最近新しくできたところ以外はほとんど行っています。
拠点では主にパソコン作業をしていて、空いた時間にふらっと周辺を散策する感じですね。

拠点の空き状況にもよりますが、基本的には2週間くらい滞在したいと思っています。

ーー割と長めに滞在されるんですね。

長めに滞在していると地元の人に認知してもらいやすくなるんですよ。
そうすると意外なツテで市長や町長につながったりする。

東京の六本木に住んで仕事をしていた時は、おそらく1日に10万人くらいとすれ違ってるはずなのに、誰とも話さない日があったんですよね。

かたや周辺人口数百人から数千人くらいのLACの拠点にいるときは、確実に誰かと話す。

ーーたしかに。そうかもしれませんね。

パソコンでやる仕事の量は変わらないのですが、ただ生活しているだけで地元の人に認知してもらい仕事にまでつながる。

ーーさらには「bites!」のように新たなアイデアも生まれる。

そうですね。生活環境が変わることで刺激をもらえますし、精神安定剤にもなっています。

会社のメンバーにも「こういう生活も面白いぞ」という場を提供したい

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▲今回お話をお伺いした「LAC田川」こと「いいかねPallet」のエントランスに置かれた楽器の数々。奥のDJブースにはDJスカルが…。

ーーLACには法人で加入されていますが、社員の方で利用されている方はいらっしゃいますか?

うちの社員は7名いますが、積極的に使っているのは3名ですね。

ちなみに社員が住んでいるところは熊本、鹿児島、大阪、東京、広島、カリフォルニアとバラバラで、全員フルリモートです。

ーーなぜ会社としてLACに入ろうと思われたのですか?

スタートアップって規模が小さいので、福利厚生などをしっかりしてあげられないんですよ。LACを生活の一部に取り入れて新しい感覚を身につけるチャンスを提供したかったんです。

都会に住んでいればそれなりの刺激は多くありますが、そこで得られる情報や体験の鮮度が30年前と今とでは全然違います。

今、情報のアクセスは場所を問わないし、むしろ受動的に入る刺激に関しては取捨選択しないと必要な情報が埋もれてしまう時代です。

体験に関しても、たとえば美しい桜は東京の目黒川以外にも、自分が生きているうちに見切れないほど日本各地に無数にあるんですよ。

ーー本当そうですよね。

よく考えてみれば当然なのですが、ずっと同じ場所で同じ生活をしているとこの「よく考えてみると」ができなくなってきてしまう。

そんな時にワーケーションやプチ移住などを通じて時代に合った変化を感じてもらいたい。

それを会社のメンバーに押し付けようと思ってるんです(笑)。

ーーいいですね(笑)ちゃんと考える人が育っていきそうです。

移動生活で得た「足るを知る」という感覚。

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ーー普通に話を進めてしまって今さらの質問なんですけど、竹井さんは“家なし”での移動生活なんですよね?

そうですね。家がない状況での生活は半年くらいになります。
メンバーのアドバイスで、Twitterのアカウントも「代表取締役ホームレス」にしました(笑)。

LACは拠点が主に地方なので3分の1くらいの割合で使っていて、残りはホテルに宿泊しています。

▲竹井さんのTwitterアカウント名は「代表取締役ホームレス」

ーー移動生活になって感じたことはありますか?

東京に住んでいると、何かを変えようとした時に生活に関わるインフラを考慮した上でルーティンを見直さないといけない。

でも雪深い会津磐梯とかだったら「雪かきしてればジム要らない。しかも感謝されるし(笑)」という生活の中での発想の転換でなんとかできたりするんですよね。

ブラウンのデザイナーとして有名なティーダー・ラムスの「Less, but better(より少なく、しかしより良く)」が今の感覚と近くて、都会よりもモノが足りない生活なのにむしろ五感への刺激は多い気がする。そして何よりも大切な仕事の質は全く落ちていないんです。

時代と共にモノが増えていったこれまでの当たり前の生活で気づけなかった「足るを知る」という感覚を得たことで、物理的な新しさにあまり魅力を感じなくなりました。

ーー今はモノが溢れ過ぎですもんね。

あと、移動生活になって感覚が変わりましたね。
これまで居住地以外の地方に居る瞬間はあくまで「旅行」だったものが、「生活」になった。

多くの人がこういう感覚を持ち始めたら「旅行、引っ越し=新鮮さ」、「自宅=落ち着く場所」みたいな共通認識が無くなるんじゃないでしょうか。

そもそも同じ環境じゃないと落ち着けないって当然のように受け入れられていますけど、実は不必要な習癖のような気もしています。

コロナ禍によって移動生活のメリットが、定住を手放すことによるデメリットをわずかに上回り始めた感じがするんです。

でも未だに働く構造は変わっていませんし、日常生活も物質的に満たされすぎている。常識に対しても、疑って考える人は少ない気がします。

「学校に行って就職するのが普通」
「満員電車のストレスは我慢する」
「いつでもどこでも食べ物が手に入る」

本当にそうなのかな?と思いますね。

ーーわかります。コロナになって私もその部分はとても考えました。

明治維新や戦後復興期、高度経済成長期は環境が劇的に変わったので、人は放っておいても習慣や常識が変化に適応していったのですが、現代では全体が大きく変わる劇的な環境の変化がない。
人のほうが変わらないと、適応能力や刺激を得る感覚が鈍ってしまうはずなんです。

もしその感覚が必要ないというのであれば、江戸時代のように毎日文化活動をしているほうがみんな幸せになれると思います。

物質的に満たされ過ぎていると、近くにコンビニが無いだけで不便を感じてしまうし、企業はコストパフォーマンスの良い商品を作ることだけを追い求めてしまう。
都会だと人の顔をじっと見たら怪訝そうな目で避けられちゃいますが、地方だとすれ違う時は必ず挨拶するし、そこから生まれるものが多いんですよね。

これはLACの拠点での話ですが、八ヶ岳の近くにあるパブは閉店間際でも入れてくれて、結局1時間以上談笑していたんです。
会津磐梯では何となく喋ってたら結果的に獲れたての鴨をご馳走になり、三豊では知らないおばちゃんがスーパーから家まで車で送ってくれてスルメイカをもらい、田川では近所のおばあちゃんに話しかけたら採ったばかりのつくしをくれました(笑)。

▲LAC田川(いいかねPallet)滞在中につくしをもらう竹井さん

ーー恩恵がすごい…(笑)

東京は人も多いし新しい施設もあって刺激を受けられる場所ですけど、なかなかこんな経験はできない。東京を離れるようになって改めて振り返ってみると、東京で得られる感覚って似たようなことが多いんですよね。

ーーたしかに。いろんなモノはありますけど、提供されるものが画一化されてきている気はしますね。

物理的な変化が見たければむしろ住む場所を変えた方が良いし、今の時代はかつて都会にしかなかったほとんどの機能がオンライン上に存在しています。

人為的に仕掛けられた変化を追い続ける毎日からは、生活の中にある些細な発見は生まれません。

伊豆下田港の朝のキラキラした水面と干物の香りや、八ヶ岳の唸るような風の音と南アルプスの端然とした美しさ、そこで生活する人々の感情に触れることもあります。

あとうちの会社はメンバーが全国に散っているので、こうして会いに来れるのも嬉しいですね。(※今回のLAC田川では熊本在住のメンバーと会ってらっしゃいました)

LACを活動拠点にして、未来の食のワクワク感を醸成していく

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ーー今後はどのように事業を展開されていく予定ですか?

僕たちのサービスは、廃棄野菜を乾燥して地方の課題解決や魅力を再構築したり、食のAirbnbとして田舎の本当の味や機会を提供したりするプロダクトです。
地方に拠点が多いLACは、今後の事業展開の活動拠点になり得る。

だから何か一緒にできると思いますし、LIFULL LAC担当の柏田さんとも何かしたい。LIFULLの井上社長にも何かお願いしようと企んでいます(笑)。

hakkenは設立して1年半。頼れるメンバーも集まり、まさにこの1年が正念場です。ポストコロナの手綱を握ることを任されていると勝手に責任を持って、未来の食のワクワク感を醸成していく、そんなおもしろい会社になれればいいなと思っています。

常に常識を疑う姿勢。未来を切り拓いていくhakken・竹井さん

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今回はhakkenでさまざまな事業にチャレンジしている、竹井淳平さんにインタビューさせていただきました。

かつて東京の商社でさまざまなプロジェクトを経験された竹井さん。
その経歴を聞くと、つい「そのまま東京にいてもよかったのでは…」と思ってしまいます。

しかしインタビューの端々から感じたのは、「常に常識を疑う姿勢が今の竹井さんを形作っているのだ」ということです。

LAC田川での滞在中、竹井さんは遠方から移住して学校の先生になる若い人たちと交流したり、一緒に滞在していたhakkenのメンバーと話をしたりしていました。
その会話に注意深く耳を傾けていると、ここでも常に「常識を疑うこと」を念頭において話されていることに気がつきました。

たくさんお話をいただいて、今回書き切れないこともいっぱいありました。とても楽しい時間でしたし、私自身も話を交わしていく中で新たな発見もありました。「これこそLACの醍醐味だよなぁ」と、そんなことを実感しました。

常に常識を疑い、新たな事業にチャレンジしている竹井さん、そしてhakkenから今後も目が離せません。

【株式会社hakken】

【LivingAnywhere Commons 田川 公式ホームページ】

《ライター:山﨑 謙


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