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ゲストハウスは地域の総合案内所|LAC那智勝浦コミュニティマネジャー・後呂孝哉さんインタビュー

和歌山県那智勝浦町にあるゲストハウス「WhyKumano」が、新たにLivingAnywhere Commons (以下LAC)の拠点に加わりました。

那智勝浦町は生鮮マグロ水揚げ量日本一を誇り、市場には新鮮なマグロが並び活気あふれるセリの風景が見られる「マグロのまち」として知られています。また、和歌山県有数の源泉数を誇る「温泉のまち」としても名高く、世界遺産「熊野那智大社」「那智大滝」などへの拠点でもあります。

LAC那智勝浦のコミュニティマネージャーを務めるのは後呂孝哉(うしろたかや)さんです。
後呂さんは、高校生の頃から抱き続けた「地元を何とかしたい」という想いと、「熊野の魅力を誰も知らない」という現実から、熊野の魅力を世界に広めたいとの想いをもってWhyKumanoを開業されました。

WhyKumanoのコンセプトの1つに「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」構想があります。紀伊勝浦駅前の拠点をレセプションと位置づけ、街にある空き家を宿泊室として再生させることで、街全体をホテルと見立てる取り組みが現在進められています。街にある温泉がWhyKumanoの入浴施設、飲食店がWhyKumanoの食事処と見立て、熊野に訪れた人々が町を回遊するしかけづくりが行われています。

今回は、後呂さんにWhyKumanoの特徴やコンセプト、現在進められているアルベルゴ・ディフーゾの取り組みについてお伺いしました。

画像1▲紀伊勝浦駅前に位置するWhyKumano(LAC那智勝浦)

施設の隅々までちりばめられたコンセプト

―LAC那智勝浦の施設の特徴について教えてください。

ゲストハウスの主なターゲットは海外の方でしたので、熊野らしさや日本らしさを取り入れたいと思い「木(熊野の木材)」をふんだんに使っています。
海外にはあまりない、日本の建築にみられる「連続性」のデザインや、光の当て方、静けさという日本らしい建築の美学を取り入れました。

画像2▲2階ラウンジフロアへ上がる階段上部には熊野の木が「連続」的に配置。カウンターの天板は熊野古道の石畳をイメージ、ライトは熊野古道の苔と漁港らしいビン玉をイメージした球体で作られている。

カウンターの天板は熊野古道の石畳をイメージして作りました。石が積み重ねられている感じで、石畳の苔をイメージにしたドット柄も入っています。要所要所から熊野古道らしさが伝わるように心がけていますね。他にも、熊野古道の苔をイメージしたライトも設置しています。

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▲那智勝浦町の漁港近くの「脇仲通り」で展開されているビン玉行灯。かつて「はえ縄漁法」でブイとして使われていたビン玉が現在の街を彩る。

―カウンターに設置されているライトですね。ビン玉のオブジェは街でも見かけましたが、それもイメージしてるんですか?

そうですね。ビン玉は「はえ縄漁法(数十キロに及ぶ縄に、2000本以上の釣り針を付けてマグロを獲る漁法。マグロの傷みが少なく質の良いマグロが獲れる。)」のブイなんですよ。昔はプラスチックがなかったので、ガラス製のブイが使われていました。そういった「漁港らしい球体ガラス」と「熊野古道の苔」をかけ合わせたライトになっています。

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▲熊野古道の道をイメージした3階のドミトリールーム

―隅々までとてもコンセプチュアルですね。

3階の部屋は熊野古道の道をイメージして作っています。道沿いに木が生えているようなイメージで作りました。那智勝浦は、熊野古道を4日ほどかけて歩いた最後にたどり着く場所なんですよ。熊野詣の最後に那智勝浦に来て、熊野古道をイメージしたこの部屋で眠ってもらう。そして、あなたにとって「熊野とは?(Why Kumano?)」と熊野古道を歩いたことを改めて振り返ってもらえたらと思います。

「WhyKumano」から「This is Kumano」へ

―「WhyKumano」の名前に込めた想いについて聞かせてください。

宿の名前は「Whykumano」、コンセプトは「This is Kumano」です。
LAC那智勝浦に滞在して、人と交流したり熊野を巡ったりするなかでそれぞれの熊野「This is Kumano」をみつけてほしいと思っています。

―「あなたはなぜ熊野に来たのか、あなたにとっての熊野とは何か」に応える感じですね。

「蟻の熊野詣(蟻の行列ほど人が熊野詣に来ていたたとえ)」と呼ばれるほど熊野になぜたくさん人が来ていたかというと、熊野は「よみがえりの地」だからです。

よみがえりというのは黄泉の国に近いこともあるし、自分自身が蘇えることにも関わっています。熊野に参拝することで自分が蘇えりを果たし、新たな出発を行うことができる場所として多くの人を魅了してきたのだと思います。

―新しい自分になれる場所なんですね。

現代版の「よみがえり」とは何かを考えたときに、「地域の方」と「ユーザーさん」に対して思っていることがあります。

地域の方に関してですが、熊野・那智勝浦に住む人にとってマグロ市場やマグロ無人販売所は当たり前の景色だったりしますよね。ですので、自分の街は田舎で何もないところという「街への認識」が少なからずあると思います。

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▲地元の人にとっての日常「生鮮マグロが並ぶ勝浦漁協地方卸売市場」は見学が可能。(火・土休み)

―たしかに、自分たちの街の日常は「当たり前の景色」なので、特徴を感じにくいですよね。

地域の人が熊野を旅する人に出会ったとき「こんな何もない田舎になんで来たん?」と言うことがあります。日本人らしい自らを「さげすむ」ということかもしれませんが、旅行者としては「熊野によく来たね、ここ最高でしょ!楽しんでいってね!」と言ってもらえたほうがいいですよね。「この街の人たちは自分の町を誇りに思ってるんだな」と感じることができれば、「ここはいい街だな。」と思ってもらえることにつながると思います。

「Whykumano(なんで来たん?)」ではなくて、「This is Kumano(これが熊野だよ!熊野最高でしょ!)」って言えたらいいですよね。

画像6▲ゲストの方々がつづった「WhyKumano」体験ノート。

―なるほど。LACのユーザーさんには熊野でどのような体験をしてほしいとお考えですか?

ユーザーさんには熊野に来ていただいてそれぞれの「This is Kumano(これが私の熊野)」をみつけてもらえればうれしいですね。そして、ユーザーさんが拠点とする自分の街に対しても「This is〇〇」の視点をもって帰ってほしいと思っています。

自分の街にも「見えていなかった何かがあるかもしれない」という視点が生まれたら、大きなマインドチェンジだと思います。
そのマインドチェンジが現代版の「よみがえり」だと考えています。そんなきっかけづくりを熊野・LAC那智勝浦が担うことができればと思います。

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▲WhyKumano(LAC那智勝浦)から徒歩5分圏内にある勝浦港。

「街全体をホテル」と見立て街を回遊してもらう

―LAC那智勝浦の今後の展開について教えてください。

アルベルゴ・ディフーゾといって「街全体をホテルととらえる」という考え方があります。日本では「まちやど」と呼ばれることもあります。

普通のホテルの1泊2食プランであれば「ホテルで食事」をして、「ホテルの温泉に入る」という感じでホテル内で旅が完結することもあると思います。
その滞在体験も魅力的なものですが、「街が良かった。This is Kumano」となるのではなくて「ホテルが良かった」となりますよね。

そうなると「そのホテルに帰ってきたい」になるかもしれないけど「再びこの街に帰ってきたい」ということには必ずしもつながらない。

―街というよりも1つの施設を体験しただけになりますね。

ですので、街中に機能を分散させて、街にある飲食店は僕らのレストラン、ここはダイニング、街の温泉は僕らの風呂というふうに「街全体をホテル」と見立てて街を回遊してもらうことが良いと考えています。那智勝浦は、駅・港・温泉・食事処などがコンパクトに集まっている町なので、そういう見立てが可能だと思っていますね。

画像8▲LAC那智勝浦がある駅前ロータリーから港へ向かう通り

―LAC那智勝浦が、紀伊勝浦駅の目の前にあるのもよいですね。

LAC那智勝浦はこの街の玄関です。ここでチェックインして、街中の情報をチェックしてから町のほうに繰り出していくという流れができると思います。
今の施設は一人旅をされる方をメインに据え2段ベッドがあるドミトリーがメインですが、グループやファミリー向けの施設はまさに今作っているところです。チェックインは駅前のここで行い、各部屋が街に展開していくイメージです。

画像9▲Wine Kumano外観。1階は飲食店、2階は宿泊スペースとなっている。

―なるほど。展開中の施設について教えてもらってもいいですか?

紀伊勝浦駅前にある空き家の1階を飲食店「Wine Kumano」、2階を宿泊スペースとして展開しています。

飲食店「Wine Kumano」ですが、僕らがマグロの店を作ったら地域の他のマグロ店と競合してしまうことになります。ですので、僕らが飲食店をするとしたら街にない店を作ることをこころがけました。

画像10▲Wine Kumanoの2階の宿泊スペース

ー街全体のことを考えながら展開されてるんですね。

様々な飲食店があることで、お客さんの選択肢が広がり街の魅力につながると思っています。ですので、この街にはなかったナチュラルワインとクラフトビールを扱う「Wine Kumano」を作りました。

WhyKumanoから距離も近い(徒歩1分)し、名前も似ている(どちらも通称ワイクマノ)で紛らわしいと地域の方から言われます(笑)。

画像11▲将来的には、左の建物がチェックイン・ラウンジになる予定。右隣りの空き地は屋外スペースとして活用。

―他の施設についても教えてください。

現在のLAC那智勝浦は、チェックインの場所としては2階に上がる必要があるので、将来的にはこの建物(上写真の建物)をチェックイン・ラウンジにして、お土産屋さんやE-bike(スポーツバイクに電動アシスト機能を付属させた自転車)置き場にもしようと思っています。

となりの空き地はビアガーデンなどの屋外スペースとして作りこんでいこうと思っています。

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▲マグロ市場に近いこの建物もLAC那智勝浦の拠点となる。

―まさに「まちやど」展開中ですね。

このビル一棟(1階は他飲食店)では、長期滞在の方やワーケーション利用のユーザー向けの部屋の準備をしています。

画像13▲ワーケーション向けの部屋。港の雰囲気を感じながら滞在することができる。

マグロ市場の目の前にあるので「マグロビュールーム(マグロ部屋)」もあります(笑)。
建物全体は全部で12部屋あり、ラウンジやキッチンの整備も進めているところで2022年4月頃のオープンを目指しています。屋上からの景色も最高ですよ。

画像14▲ラウンジ・キッチンスペース

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▲屋上からは、勝浦港や海に浮かぶ中ノ島をのぞむことができる。

ゲストハウスは地域の総合案内所

―マグロ部屋でワーケーションしてみたいですね笑。現在「まちやど」として展開中のLAC那智勝浦ですが、LACユーザーさんはどんな関わり方ができそうですか?

LACユーザーさんは長期滞在する方が多いと思うので、この町をより深く知ってほしいと思いますし、LAC那智勝浦がどんどんと新しくなっていく過程を一緒に作っていけたらという想いがあります。

月に1回ここに来て、LAC那智勝浦が成長している過程を見守る保護者みたいな感覚も持っていただけるとうれしいですね(笑)。もし「こういうスキルがあるので何か一緒にできませんか?」と言っていただければ、「こんなことをお願いしたかったんです」となることもありえると思っています。地元のプレーヤーだけでなく、他の人と一緒にこの地域を作っていくことでよりいろんなことができると思っています。

―そうなると、新たな展開がうまれることになりそうですね。

ですので、関わりしろはどんどん作っていこうと思っていますね。物件が増えたときには、あの物件の掃除が終わってないから「掃除すること」も関わりしろだし、ホームページできてないから「ホームページ制作」をお願いすることも関わりしろになると思っています。

LAC那智勝浦がどんどん広がっていくなかで、ゲストハウス以外のところでもいろいろな人と関わる場面が増えてきています。LACユーザーさんと僕たちだけじゃなくて、ユーザーさんと地域の人とのマッチングもできたらいいなと思っています。

僕は、ゲストハウスを宿泊業じゃなくて総合案内所ととらえているんですよ。

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▲写真 ストリートでマグロをさばく風景。この日常が「まちやど」の舞台であり、さまざまな出会いが生まれる。

―総合案内所ですか?

熊野に訪れた人の中で、ここを気に入った人は住むかもしれませんよね。住みたいという人が現れたときに、住める空き家を紹介したり、仕事がないとなれば仕事を紹介したりする。総合案内所としてのゲストハウスがいろいろなことの中心として位置づけられると思っています。

地元の人から見ても、地域外の人材紹介を行うパイプ役となりえますよね。ですので、僕はゲストハウスを「地域の総合案内所」といってるんですよ。

―LACユーザーさんにとっても地域の総合案内所としての機能する拠点はおもしろいですね。

ここは都会からは距離的に遠いかもしれませんが、LACは各拠点を自由に利用できるのでLAC那智勝浦に何度も来やすいと思います。このエリアには、マグロ無人販売所などおもしろいものもありますし、街角に出ればさまざまな出会いがあり刺激になると思います。マグロを買って、ピクニックに出かける「マグロピクニック」もおすすめです。

LACユーザーさん自身が「WhyKumanoからThis is Kumano」に変わってくことで熊野を好きになり、またここに来たいと思ってくれる方が増えるといいなと思っています。

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▲お気に入りの場所でのマグロピクニック(通称マグピク)

《ライター:宮嵜浩


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