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バス停を来訪者と生活者の交流拠点にしたい|日比野さんインタビュー 〜その2〜

場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約に縛られることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方「LivingAnywhere(リビングエニウェア)」。
前回の記事では日比野さんの取り組んでいる研究内容や、LAC館山で今後取り組んでいきたいことなどについてお伺いしました。

▼前回記事

今回はさらにそこを深掘りし、日比野さんの考えていることや想いにフォーカスしてみたいと思います。

日比野さんプロフィール
大学時代にバックパッカーとしてインドへ行ったのを機に、日本の閉塞感をどうにかしたいと思う一方で、目の前にやることはいっぱい転がっていると捉え、実践的な研究を行う大学院生

生活者と来訪者の移動ニーズが重なる場所としてのバス停の可能性

──前回も少しお伺いしましたが、あらためて日比野さんが取り組んでいる研究について詳しく教えていただけますか?

「移動の公共性」というテーマなのですが、まだフレームがないので自分で実践しながら考えています。
「移動の公共性」は「公共交通」とイコールではなくて、例えば公共交通は「この路線にバスを通そう」というような考え方だと思うんです。

一方で移動の公共性は、人は何のために移動するのかを起点に、地域の人が必要なものを自分たちで選択するような概念です。よく言われるのは、移動は今まで交通工学で考えられていたのですが、新しい技術として自動運転が入ってくる今後は、もっと人文学などが広く必要になるということなんです。

──日比野さんが取り組まれている「バス停カフェ」とは、どういう活動なんですか?

西岬地区のバス停に滞在しながら、ゆるっとカフェや買い物代行をして拠点を作る実験です。バス停を来訪者と生活者の交流拠点や、物流拠点にできればと考えて活動しています。

昔の街道で旅をしながら生きる人たちは、宿場町に一定期間とどまって仕事をして、そこで村の人も情報を得たり交流を楽しんだりして暮らしていたんじゃないかと思うんです。

バス停も、観光したい来訪者と、買い物などがしたい生活者の移動ニーズをすり合わせる場所として可能性があるんじゃないかと思っています。

道行く人と会話しコーヒーをふるまう日比野さん

研究拠点、かやぶきの家ゴンジロウ

──「バス停カフェ」の活動を始めたきっかけについて教えてください

ここから200mくらい先にある、築100年以上のかやぶきの家ゴンジロウが大学院の研究室の拠点になっていて、2020年にこの「安房塩見」のバス停を研究室で作ったのがご縁で、バス会社さんとつながりができたんですね。

路線バスをどうしようかっていうところをきっかけとして、地域の公共共通を維持するプロジェクトでご縁があって、LAC館山に滞在しながらコムスを貸し出す活動につながっています。
考えるより、まず手を動かそうという研究室なんです。

研究拠点かやぶきの家ゴンジロウ

大きな課題の解決を目指すより前にある大事なこと

──プロフィールではインドに行ったのを機に「目の前にやることはいっぱい転がっていると思った」と書かれていますが、インドに行ってからどんなことがあったんですか?

僕は2014年にインドに行ってから、2015年に陸前高田のNPO法人でボランティアをやっていたんですね。課題解決型プロジェクトを大学生が地域の家庭に1週間入って行うという活動です。

その中で思ったのは、地域交通や仕事など大きな課題の解決を目指すより前に、一人ひとりの家の人たちがどういうことをやりたいかが大事ということなんです。
こういう課題があるから、是が非でもこうしなければならないということではなくて、少しずつ解決していくことが大切で、実際それが解決すると「チャレンジしよう」ってなれたりするので。

買い物代行で喜ばれる意外なもの

──先ほど活動の中で買い物代行も行われているとおっしゃっていましたが、買い物代行ではどんなものを買っているんですか?

今手探り中ですが、例えばこの辺りの畑では作っていない野菜などです。農業をされている方が多いので、周りからもらったりすることもよくあるのですが、レタスなどは作っていないので喜ばれますね。

これは館山市内の違う地区の農園からもらってきた伏見唐辛子で、焼いたら激うまです。さっきの96歳のおじいちゃんに「毎日同じ感じになってしまうお昼ご飯に、変化がつけられる」ということで買っていただけました。

買い物代行で喜ばれる野菜たち

高齢化に伴う活動範囲の縮小を前にできることは何か

──バス停を拠点とすることに想定と違っていることはありましたか?

高齢の方の活動範囲が想定よりも小さいものでした。
あくまでも体感ですが、60代の方でしたら、散歩のついでにバス停を訪れることができますが、70代になるとバス停までなかなか来られない。

80歳を超えるとそもそも外にあまり出ないので、そこをどう埋めようかというアイデアを今考えています。その一つの実験がこちらから出向いていくことで、自宅まで行こうと思っています。

もう一つは中継地点のような考え方で、神社やお寺の駐車場でカフェをやってみるなど、考える余地があると思っています。

カフェの利用者に資料を使って説明をする日比野さん

──今後バス停を拠点とした活動はどうなっていくと良いと思いますか?

買い物代行は、移住されてきたご夫婦が支援員として入ってくださることになっているので、うまく引き継げるといいですね。
バス停には、LACのユーザーも来てみていただけるとうれしいです。

地域の生活者とは見ている範囲が違うので、近くの名所にここから行ってもらうことで、視点がどう変わるのかというのを調査したいですね。



取材中もひっきりなしに地元の方から声を掛けられていた、日比野さん。
すっかり地域になじんでいました。観光地化されていないところが魅力の館山をもっと知るために、LAC館山を拠点に生活者・来訪者それぞれの視点で巡ってみるのも面白いのではないでしょうか。

《ライター・住永敬一》

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