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バーニーVS Amazonの5年戦争

 バーニー・サンダースが全米に多少名前が売れたのは2010年の連邦上院におけるフィリバスターでした。日本の牛歩戦術のようにとにかく長い演説で議会の進行を遅らせる行為ですが数時間も喋り続けるのは非常に難しいです。だから大半の議員は合衆国憲法を読んだり、あらゆる議会史に残る名演説をわざわざ全部自分流にアレンジして喋り続けるなど台本あってのものですが、バーニーは8時間ぶっ通して資本主義批判を展開しました。名演説というには面白味が欠けるものでしたが、連邦上院としてはじめての「社会主義者」。それでもって若くて清潔感ある人ではなく、老人が悪餓鬼を叱っているようにしか見えないのですが頑固なある種誠実な資本主義批判はネットで話題になり、こうしたエピソードがあの「ウォール街占拠運動」にも繋がっていくわけです。
 2018年バーニーがヒラリーとの民主党予備選で互角な選挙戦を闘い、着々と若い支持層が増えつつあった頃いわゆるBEZOS法案を民主党内左派が議会に提出します。これは大企業で雇用されながらフードスタンプを100ドル受け取っている従業員がいればその負担は企業の責任にするというかなりパンチの効いた法案でした。大企業は雇用を創出する事であらゆる補助金を受け、そこで働く従業員は最低賃金どころかフードスタンプに頼らないといけないぐらいの貧困を生み出し、安い商品を提供する。Amazonの前はウォルマートという全米最大のスーパーがその悪名の主役でした。この時代になると時代の寵児IT物流の申し子Amazonも実は労災を隠す、そもそも職場の安全環境がなっていない、使い捨て感覚で従業員を解雇する、多額の税金逃れは朝飯前、現地住民の意見はほとんどすり合わせをせず都市開発を行政と結託して行うなど出るわ出るわ悪評の嵐でした。社会主義者バーニー・サンダースにとってこれは見過ごす事はできなかったのでしょう。ただAmazon創業者ジェフ・ベゾスは思い切った高時給を提示しバーニーと和解しました。Amazonとしても、一連の報道で求人をかけていても人手は常に不足していました。一般的に倉庫業務は人海戦術です。時代はトランプ政権。安くギリギリまで使い潰せる労働者も移民に厳しい政権なら待遇をよくしないと会社運営にも影響が出ます。だから思い切った賃上げをしたのです。
 考えてみるとAmazonが変わるチャンスはここが分岐点でした。労働者の雇用について真摯な態度をとればこんなストライキが定例行事にならなくて済んだと思います。雇用を創出すれば行政はチョロい、公的補助でもっと会社規模を大きくしてやる。という本音も透けて見えすぎていました。バーニー・サンダースも純朴な左翼ではなく政治家です。プログレッシブ・インターナショナルの創設もこのAmazon社会運動をバーニーが独占しようとした形跡も見てとれます。多くの国際的連帯を演出する事でバーニー・サンダースという政治家をさらにその威名を高める事ができる。そうしてノンセクトから本当に化石と化した新左翼まで動員した結果運動が複雑になっていくのも感じています。

ブラックフライデーストライキ

 Amazon労働問題で1番最初にこうした活動を始めたのはUNI Global Unionでした。強力な労働協約と組織化を目指すUNIは対ウォルマートでも実績があり、このAmazon労働問題も積極的に取り組みました。Amazon専門部会を置くほどの力の入れようであり、労組結成と健全な労使交渉さえAmazonが呑めさえすれば、それで終わっていた話だったはずです。しかしAmazonは労働組合潰しで著名なピンカートン社を顧問にするなど徹底的に闘う姿勢を見せました。確かに海外の労組の方が団体行動権を行使することに躊躇はないので強すぎる経営者の猜疑心は納得はしないが理解は多少できますが、Amazonは明らかにやりすぎていました。指名解雇も現代の労働法でも報道に散々注文をつけられても躊躇う事なく行います。UNIとしては全面対決せねば勢いある国際産別として今後の運動にも支障が出る事態になりました。先駆けとなったのはドイツから。プライムデーや年一回の最大セールであるブラックフライデーに全面ストをうち、Amazonに譲歩を引き出す行動でしたがグローバル社会において未組織労働者はごまんといます。ストはなんのその組織化さえどうにかできれば何とかなるという姿勢で実際この程度ではビクともしませんでした。運動が欧州だけではなくAmazonに商品を卸しているアジア諸国にも広がり日本でも東京管理職ユニオン傘下のAmazon労働組合が結成されました。この時代は大きな産別もAmazon組織化に対して積極的であり、すぐに管理職ユニオンを超えるAmazon支部ができるはずでした。ですが、未組織労働者の組織化を怠り足元の組織労働者すら組合の基盤から遠ざかる現状で彼らの経営戦略、労務対策は労働運動家よりも先に行っていました。結論から言えば日本の労働組合は悉くAmazon労組創設に失敗しました。乗り気であった一部産別も戦術を変えざる得なかったです。UNIは強力な労働協約作りは得意分野であり、様々なUNI傘下の産別はAmazonに対抗しようと手を打ちます。実際雇用されながら契約は雇用契約ではないギグワーカーの組織化の専門部会を置くなど連合や各種産別も奮闘してきました。全労連なども一部産別がかなり熱心に動いていましたがAmazon  Japanの労務対策も難攻不落でした。

Amazon労働運動の切り札

 最も勢いある産別であるUNIがストライキを行っても何ら環境改善は行わなかったAmazonに対してバーニー・サンダースの政治団体を担うプログレッシブ・インターナショナルは積極的に運動を関与します。実際労働組合側は手詰まりであり、市民団体や政治家の知恵を借りたいのですがそもそも地域行政どころか国家機関ともそれなりに官民癒着関係があるAmazonに対して市民団体はともかく政治家ではほとんどいませんでした。一部反資本主義を唱える極右が移民制限とセットでAmazon運動に口を出していましたが、そもそもノウハウがない政治勢力に本気で取り組むわけがないと誰もが思ってました。そこで登場したのはアメリカ民主党最左派のバーニー・サンダースとそのチルドレンの下院議員たち。それまで既存労働組合とは距離をとっていたバーニーもUNIと同盟を組むばかりではなく、運動を通じてあらゆる労働組合や市民団体を動員することに成功しました。それが毎年恒例になりつつあるブラックフライデーに合わせたAmazon抗議活動♯Make Amazon Pay。プログレッシブインターナショナル最大の政治行事であり世界各国の左派のアウトサイダーもこれらの運動と共同体になりました。一部日本の国会議員でも関心を持つ人がいましたがやはりそれほど成功しなかったのは運動側にそもそも日本人が少なく欧米出身や南米などキリスト教圏の運動の側面も強かったです。ただ指くわえて見ていただけではない事は記しておきます。地域運動に結びつけられなかったAmazon社会運動側にやはり大きな弱点がありました。
 本社があるアメリカでは散々会社の妨害に遭いながら労組結成までこじつけました。しかし労組は結成するだけで終わりではなく交渉団体として労使交渉ができなければ必ず運動は崩れます。現在アメリカのAmazon労働組合は委員長派である執行部と反委員長派の前財務担当者の内部分裂を迎えています。元々Amazon労働組合の初代委員長クリスチャン・スモールズはかなり個人的な活動が多く労働組合は労働運動に徹するべきという反執行部派の理論は説得力を持ちます。ただ交渉する前に分裂するのは組織として欠陥があります。労働運動の本場ドイツ、イギリスでは強力な運動体に成長していますがアメリカでの試みは微妙であり日本に至っては多分ほぼ消滅しているのかもしれません。

終わる気配もないAmazon労働運動

 Amazonは反労組ですが、物流業にとってはもはやインフラとなりつつあります。前時代的な会社経営さえ改めれば今後も発展するグローバル企業になると思います。ただこうした闘争が続けば続くほど組合だけではなく会社も地域住民も終わりなき消耗戦が続いていくばかりです。ここまで拗れて環境団体や労働団体でもとびきり筋が悪い運動体も混じりつつあります。こうなってしまったのはグローバル企業も労組も結局は資本主義の行き着く先について何かしろの未来を示せていないからだと強く感じます。

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