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「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第14話〜N様宅〜

本日のお客様はN様。

N様は…テレビを見ない私でも知っている、有名な芸能人でした。

当店のブログを読んだというN様のマネージャーさんよりお問い合わせいただき、別荘クリーニングのお見積りに伺いました。

お見積り当日はマネージャーさんがお立ち会い。
別荘の出入口や敷地内には、たくさんの防犯カメラが設置されていて緊張しましたが、室内に入ると「素敵!」と感じる装飾品があちらこちらに飾られています。

(お掃除中に壊しちゃったら、加入している損害保険でカバーできるかな?)

そんなことが頭をよぎり……
いつもより慎重に動くことが求められる現場に、おっちょこちょいのパートさんを連れてこなくて良かったと思いました。

N様のマネージャーさんは、お掃除の金額や技術力よりも、守秘義務を守ってくれるところを探していたようで、ブログを読んで真面目にお掃除に取り組んでいる私たちに依頼を決めたそうです。

(めちゃめちゃ嬉しいです!)

過去、家政婦さんが私生活を暴露することがあったそうで、そういうことをしない人を希望するとお聞きして、さらに身が引き締まる思い。

N様とのご契約の際に提出する書類はいろいろあり……
お見積書の他、身元保証誓約書や機密保持誓約書などにもサインしました。

N様の別荘のクリーニングは、基本的に毎月1回。
全体の簡易クリーニングの他、N様が別荘を利用する前後の日にお掃除に伺う契約です。

N様がいらっしゃらない時にお掃除をするので、気楽ではありましたがちょっぴり残念だったり。

そんなこんなで、N様の別荘に通うようになって半年ほど経ったころ。

「明後日、別荘を使うことになりました。急ですが明日、クリーニングに入ることは可能でしょうか?」

いつもは1週間前にはご連絡をいただくN様のマネージャーさんより、焦った様子でお電話がありました。

「明日の午前中は予定が入っておりますが、午後でしたらお伺いできます」

「ではよろしくお願いいたします。いつも通りセキュリティを解錠して入ってください」

N様の別荘は、私と寡黙なスタッフが担当していましたが、その日は急だったためスタッフの手配が間に合わず。
仕方なくおっちょこちょいのパートさんを連れて別荘に行くことになりました。

午前中の仕事を終え、N様の別荘に向かう途中でパートさんに厳重注意。

「いいですか?今から言う3つのことを守ってくださいね。
①N様宅のことは他言しないこと。
②繊細な装飾品には手を触れないこと。
③別荘内外の写真は一切撮らないこと。
これが守れないと今後の仕事も無くなりますし、損害賠償請求をされるかもしれませんよ!」

「は〜い。気をつけます!」

元気に答えるパートさんですが……
パートさんの普段の行動を考えると、一抹の不安。

別荘に入ると、パートさんが感激した様子でボーッとお部屋を眺めています。

「見惚れていないで仕事しますよ!」

「は〜い!」
パートさんは返事は良いものの、周りをキョロキョロしながらお掃除しています。

(やっぱり連れてくるんじゃなかった……)
『後悔先に立たず』その言葉が身に染みました。


別荘の広々としたリビングには天井までの造作棚があり、これまで受賞したトロフィーや盾が、繊細な装飾品と一緒に並んで飾られています。

(ここをパートさんに任せるのは危険ね)

「リビングは私がお掃除するので、バスルームとトイレをお願いね」

「は〜い!」
パートさんがお掃除バケツを持ってバスルームへ向かうのを確認して、テキパキお掃除を進めます。

リビングから続くアイランドキッチンのクリーニングも終わり、後は窓の仕上げ拭きだけ……
と、思ったその時!

「ガシャーン!!」

奥のバスルームから何かを落としたような音が響きます。

(何の音!?)

急いでバスルームに行くと、パートさんが泣きそうな顔で立っています。

「どうしたの!?」

「すみません…トイレットペーパーを新しいものに取り替えようと思ったら、全然できなくて……」

N様の別荘のトイレホルダーは、よくあるワンタッチで取り外しするタイプではなく、重厚感のある真鍮製のもの。

「これは真鍮の棒を上に持ち上げて外して、ペーパーの芯に棒を差し込んでセットするのよ」

「そうなんですね!勉強になりました!」

ホルダーや床に傷がついていないか確認して、マネージャーさんに謝罪のお電話をかけました。

「大丈夫ですよ!Nさんもよく落とすので!」
マネージャーさんがカラッと言ってくださったので、一安心。

でも、その後……
「そちらにNさんが行くのは明日の予定でしたが、仕事が変更になりもうすぐ別荘に到着するそうです。お掃除屋さんのことは伝えているので、気にせず作業は続けてください!」

「N様がいらっしゃるのですね。急いで仕上げます!」

電話を切って、パートさんも一緒に窓を拭きあげました。

「ゆっくり作業してN様にお会いしたいです〜」
パートさんの気持ちはわかるけれど、私は一刻も早くパートさんを連れて帰りたいのが正直なところ。

お掃除を終えて、道具を車に積んで駐車場から出ようと思った時、電動シャッターが上がりN様の車が入ってきました。

(間に合わなかった〜 素通りは失礼なので、私だけご挨拶だけしよう)
パートさんには車で待っていてもらいました。

「いつもお世話になっております。○クリーニングの○○です」

「あぁ、お疲れさま。いつ来てもキレイにしてくれてありがとう」
画面で見るよりステキな笑顔でそう言ってくださいました。

「あぁそうだ。頂き物だけど、これを車の彼女とどうぞ」
N様は微笑みながら、有名店の紙袋に入ったお菓子を手渡してくださいました。

「嬉しいです。どうもありがとうございます」
N様に深々とお辞儀をしながらお礼を言い、
「それでは失礼いたします」
私の車の方へ振り向くと……
パートさんが車のガラス窓に顔をベチャッと押し付けてこちらを見ています。


「そういう行動はやめてって言ったでしょう?」
車を走らせた私は、パートさんを注意。

「だって〜オーナーだけズルいです〜」

「あなたが行くと握手とか求めちゃうでしょ!」

「バレちゃいましたか。えへっ」

「えへっじゃないわよ!もう〜」

(やっぱりパートさんを別荘に連れて行くのはやめよう)
そう心に決めて事務所に戻りました。

その後も私たちのお店が移転するまで、N様の別荘クリーニングは続きました。
その間、何度かN様とお会いすることもありましたが、その度にステキな笑顔で気さくに話しかけてくださって、人気のある方は違うな〜と思ったものです。

N様を通じて他の芸能人の方からもクリーニングのご依頼がありましたが……
それはまた別のお話。

今でも遠方より、N様のご活躍をお祈りしております。


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