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「ありたい姿」から始めるキャリアチェンジ

「石の上にも3年」vs「合わないなら転職」、「やりたいことの前に成果を出すことが先」vs「やりたいことを仕事にしよう」、「好きなことよりできること」vs「好きなことを仕事に」

キャリアに対してはいろんな考え方がありますよね。でも、人によって成功の定義は異なり、求めるものも違うから、どれもある人には正しく、ある人には正しくない。同じアドバイスに従っても、環境や個性によって、得られる結果も感じ方も違うもの。

そんな訳で、この考え方が正しい!というつもりは毛頭ないけれど、転職活動を3回経験している私のキャリアチェンジに対する持論を体験記とともに(キャリア論の書籍を参考にしつつ)書いてみたいと思います。
※私のキャリア:大手通信→中学校教員(NPO法人派遣)→経営大学院→学習塾創業・経営(MBA進学)→学習塾経営/大手企業/研修講師のパラレルキャリア

キャリアをストーリーとして捉える

私はキャリアチェンジを「なりたい自分に近づくための旅」また「新しい自分に出会う旅」として楽しんできました。「旅」なので、「なりたい自分」に対して必ずしも最短距離ではなく寄り道になることもあるし、それによって思ってもみなかった景色や「新しい自分」に出会えることもあります。時には、思ってた通りにならないどころか、険しい道に遭遇してしまうことも。「なりたい自分」が変わることもあります。

そんな自分の歩んできたキャリアをストーリーとして捉え、続きを描くように次に進んでいく。その過程に転職があったりなかったり。決して綺麗なストーリーでなくても、旅をするように楽しむことが大事だと思います。あえて歩んだキャリアをストーリーとして言葉にすることで、大事にしたい価値観や想いが浮かび上がり、「自分らしさ」や「なりたい自分」、「やりたいこと」や「社会に対する志」に気付けたりします。

自分のキャリアをストーリーとして捉えて未来を描くことは、自分らしくキャリアを歩む上で大事であると同時に、転職活動での職務経歴書や面接対策で役立ちます。なぜなら、採用試験では「今までどんなことをしてきて(過去)」「なぜ、この会社でこの仕事がしたい/活躍できると思っていて(現在)」「今後、どうしたいのか(未来)」に対して、企業側が納得できる筋の通ったストーリーが求められるからです。

【描く】将来の自己像は無数にある前提で、たくさん描く。

「あなたはどうなりたいのか?」なんて聞かれると萎縮してしまう人が多いと思います。どんな選択肢があるのかもわからないし、やってみないとわからないし…考えても考えても、本当にそうなのだろうか?という気持ちは拭えない。

一方で、何かを変えたいと思っているのであれば、アクションが必要です。

私は、そのアクションのトリガーとして、唯一無二の将来の自己像(なりたい自分やありたい姿)はなく、また、常に変化することを前提に、いくつも描いてみることから始めます。「やってみないとわからない」けれども、描いたことを一つずつスモールステップで試してみて、違えば修正すれば良いだけのこと。まずは手を動かしてみます。

新しい可能性を見出すには、たくさんの選択肢を何度も見なおし修正しながら過渡期を乗り越えることだ。第二に、新しい自分を見つける「方法」を考え出すのはほぼ不可能であり、したがって計画をきちんと実行するのも難しい。大切なのは心の底の本当の自分をはじめから把握することではなく、将来の自己像を思い描いては試すと言ういくつかの段階の第一歩を始めることだ。どれほど自分を見つめても、直接経験することの代わりにはならない。選択肢を評価するには経験が必要だし、評価の基準も経験を重ねるにつれ変わっていく。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.64

まずは「望ましい未来像を描くこと」が出発点。(「望ましくない未来像」も描いてみると良いでしょう。)気軽にたくさん書いてみることから始めます。書き出してみた望ましい未来像に対してアクションを取るうちに、そのうちのどれかに、心も体もついてきて、後述するようにキャリアが変化していきます。

スタンフォード大学の認知心理学者ヘーゼル・マルカスの研究報告によれば、だれもが心の中ではあらゆる種類の特性を持ち続けている。こうなりたいと思う自己像も目指すべきだと考える自己像も、なりたくないと思う自己像すら存在する。キャリア・チェンジの過程ではまず将来の自己像を思い描き、それによってなりたい手本やなりたくない例を見つけ、さらにはその理想にどれだけ近づいたか進捗の度合いが評価される。将来の自己像が明確になるにつれて変わりたいという意欲も高まる。なぜだろうか。理想にもっと近づこうと懸命になり、同時に一番なりたくない自分を恐れるようになるからだ。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.64

また、将来像を描くとき、最初は過去に囚われすぎないことも重要です。最初から過去の経験の延長線上で考えると自分の可能性を狭めてしまう。一旦、過去の自分や制約(と思えているもの)を取り払って、望ましい姿を描いてみます。

未来は今ここから始まる
ということを理解する

問われるべき質問は、「これから先、どうしたら満足のいく人生を築くことができるか?」ということです。過去の経験はあなたに貴重な学びを与え、将来それを活用できるかもしれません。しかし、過去を守るべき投資だと考えると身動きが取れなくなってしまいます。

その幸運は偶然ではないんです!(J.Dグランボルツ、A.Sレヴィン 著)

一見、今までの自分と繋がりがないように見える未来像でも、過去→現在→未来のストーリーを再構成していくと、繋がりが生まれてくることがあります。しかも、思ったよりも強い繋がりがあることも。「自分」から出てくる未来像なので、どんなに制約を取り払おうとしても無意識レベルで繋がる何かが出てくるのかもしれません。むしろ、その直感レベルで頭に浮かんだことが、自分のキャリアストーリーを深める大きなヒントになったりします。

このときにポイントになるのは、過去の体験の抽象度をあげて、未来像とのつながりを考えてみること。例えば、学校教員を「教える仕事」と捉えれば、将来像も「教える仕事」に絞られますが、大きな組織でマネジメントをしたいと将来像を描いた場合、(学級担任として)「40人のマネジメント経験がある」と言えるかもしれません。

実際に、就職活動として評価されるかはその文脈の説得力やその人自身のスキルにも依存しますが、このように過去の体験の抽象化によって、自分のキャリアストーリーの可能性は広がるのです。

ここでいう「一つの物語」をつくるとは、いわゆる空想ではなく、みなさんの仕事上の出来事の「過去・現在・未来」を明らかにしてつないでいく、という行為です。「あなた自身が仕事人生を振り返り、過去に何をしていて、いま何を思い、そして未来に何をしていきたいのか」という一連のストーリーに一貫性と迫真性があればあるほど、転職はうまくいきます。

転職学(中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所 著)

実際に私はこの考え方によって、自身のキャリアに「組織開発/人材育成」「学習コンテンツ/コミュニティ企画」「プロジェクトマネジメント」という言葉で横串を指し、キャリアの可能性を切り拓いてきました。直近では大手企業で全社横断の組織開発に関わる仕事も始めました。

【試す】自分の内面を見つめるだけではなく、行動して振り返る。

いくつか将来像を描けたら、スモールステップで試していきます。そして、その選択肢が自分にとって合うのか合わないのかを検証して具体化していくのです。

例えば、書き出してみたキャリアに関する書籍を読んでみたり、セミナーに参加したり、人に会いにいってみたり、少し仕事を手伝わせてもらったり。または大学院や何かしらの講座を受講するなどの学び直しをするなどです。

行動することで経験という自分事のインプットができ、頭で想像するだけではなく、自分の心や個性にしっくり来るのか検証することができます。行動したあとに、ワクワクするのか、つまらなかったのか、自分に合いそうなのか、合わなそうなのか、内省することが重要です。

自分の本質を理論としてでなく、現実的に理解するには、内面を見つめるのではなく実際に試すことだ。本当の可能性を見いだすのは行動を通じてである。新しい活動を試し、いままでと違う人に接し、新たな手本となる人を探しだす。自分の「物語」をまわりの人に伝え、書き換える。経験を重ね人から認められることで、ほしいものがはっきりしてくる。新しい情報を取り入れ理解し、色を加え輪郭を描き足し、陰影や濃淡をつけ形を整える。何かを選ぶ度に、将来の自分の肖像画が描かれていく。再出発するには、考えるよりまず「行動」することだ。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.15

私の場合、学校教員に転職する前には、教員免許に関わる勉強をしたり、学習支援のボランティアに参加したり、セミナーに参加したり、恩師の先生に会いに行ったり、1年くらいは教員という選択肢が自分に合っているのか、実現したいことに取り組めるのか、検証するための行動をしていました。

今も組織や個人の内省を支援する仕事をしたく「組織開発(VMM構築浸透)/人材育成(キャリア開発)」の分野でコンサルタント or コーチとして活躍する将来像を描いて試しています。MBAで組織論を学んだり、研修講師の資格を取って実践し始めたり、コーチングを学び実践を始めたり、自分の会社や所属する組織で業務を作り出したり、自分のやりたい仕事をしている先輩の話を聞いたり一緒に仕事をさせてもらったり。数年後の自分のありたい姿を描き、具体化していく旅を楽しんでいます。

もちろん、捨てた選択肢もたくさんあります。MBA入学前に思い描いていた将来像の中には、業界分析を行ったり、業界での成功者にヒアリングをしに行ったりした結果、自分には合わないということがわかり、たくさん悩んだ末に手放したものもあるのです。

将来の自己像を考え出して試すにはどうすればいいだろうか。新しい活動を始め、新しい人間関係を築き、自分の「物語」を書き換えることで、可能性を実際に試せる。そして実践を通じて経験を重ねることで、漠然とした変化の道のりが具体化していく。行動を起こせば周囲の人も反応し、新しいの能力や視点が明確になる。それによって、頭の中だけに存在していた将来の自己像と、行動しない限り見えてこない「現実的な」新しい道とのずれをなくしていけるようになる。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.88

行動と内省を繰り返す中で、自分のストーリーが具体化されていきます。

自分がそのストーリーを人にどのように語っているのかをメタ認知してみると気付きがあるでしょう。ワクワクする経験は、自然と楽しそうに話してしまうもの。逆に迷っていることやネガティブなことも滲み出てしまうものです。

だれかに話した後に、「私、どう感じてると思った?」なんて聞いてみるのも良いと思います。「楽しそうだったよ」とか「まだ迷ってるんだね」とか言ってもらえるだけでも、自分が本当はどう思っているのか、検討するヒントが得られるでしょう。

自然と話してしまうことや自然と行動してしまうことには、自分でもまだ気づいていない自分の興味や特性、想いが隠されているかもしれません。

キャリア・アイデンティティは行動や人間関係だけでなく、徐々に展開していく自分の「物語」にもとづく部分もある。キャリア・チェンジを模索する間、変わりたい理由や変えたくないものを説明するために人は自分の「物語」を組み立てる。つまり、動機や過程を言葉で表現しようとする。この物語は可能性を試す際に役立つ。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.91

また、新しく試したことに対する外部からの評価に耳を傾けてみることも大事です。

私の場合、最近だと、MBAで多くの授業を履修する中で、自然と意識が向く科目が「組織論」と「経営哲学」であり、努力しているという意識なくして高評価を得ることができました。また、「古典講読」という古典を読んで要約をしたり小論文を書く授業や「経営戦略」のレポートも同様で、文章を書くということに対しては苦労なく取り組むことができ、評価してもらえることもわかりました。大学院入試の支援の仕事を引き受けていたときは、志望理由書や小論文の添削、面接対策をすると受講者からよく感謝されました。

この経験から、組織のあり方や個人のキャリアのあり方をテーマに、課題設定をして解決策の提示とともに状況把握をレポートしていく仕事をしたい、組織や人がストーリーラインを描き実行に移すサポートをする仕事をしたいという気付きになりました。一方で、憧れていたM&Aやマーケティングの分析では心理的にも労力を要し、自然と努力して続けていくのは厳しいかも、と思うようになりました。

このように「自然と努力できて」かつ「外部からも評価されること」を知ることは選択肢を絞る上で役に立つと思います。また、「憧れ」はあってもスムーズに手がつかないものを自分には合っていないものとして手放すヒントも得られるでしょう。

選択肢を絞るには、二つの情報源を利用すればいい。自分の胸とまわりの人、つまり自分の気持ちがどう反応するか、そして試したことや努力に人々がどう反応するかである。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.93

【耐える】時間と労力がかかることを受け入れて、アイデンティティが曖昧な状態を楽しむ。

このストーリーを描き、試し、書き換えようとする時期は、すぐには答えが見つからずモヤモヤする期間が一定続きます。矛盾する自分と向き合ったり、今まで大事だと思っていたことを手放したり、変化を受け入れたりしなければなりません。「本当に自分に合っているんだろうか?」「今まで積み重ねてきたものを失ってしまうのでは?」「周りからどう見られるだろう?」いろいろ悩むでしょう。私自身、20代の頃はそのモヤモヤの時期はとてももどかしかったですし、今でもそういう時期はあります。

ただ、人生は「歩く時期→走る時期→止まる時期」の繰り返しとも言います。この時期は止まる時期〜歩く時期と言えるでしょう。人生100年時代、一つの会社で評価され続けるために走り切る単線的なキャリア形成の時代は終わり、中長期的な視点で自分のキャリアを育てていく時代。焦らずに、立ち止まることや歩くことを楽しめると良いですね。

可能性をどれだけうまく見つけられるかは、この時期の行動で決まる。何ヶ月かかるにしろ何年かかかるにしろ、矛盾する状態を続けるのは変化の過程で一番苦しいことだ。実際のところ、アイデンティティーのはっきりしない日々は、「嵐のなかで毎日をすごす」感じがするかもしれない。だが、つぎの章で詳しく説明するように、早まって結論をだしても適切な答えは得られない。新旧のアイデンティティーの間の時期には、過去を手放すか未来を受け入れるかについての基本的な葛藤が生じる。一貫性のないこのつらい時期を乗り越えられる人が適切な情報にもとづいて判断を下す姿勢を身につける。この時間があるからこそ大きな変化を遂げられるのだろう。もっと満足できる仕事や生き方を見つけ、人生を持続させていく感覚を取り戻すために必要な大きな変化を。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.97

【挑戦する】「自分を知ること」と「新しい物語を描くこと」を楽しむ

曖昧な時期や迷いの時期を越え、自分のストーリーがクリアに語れるようになったとき、それは挑戦するタイミングかもしれません。というよりも、個人的な経験から、ここまでくると「動かずにはいられない」という状態になります。

私自身、経営大学院勤務から学習塾創業へとキャリアチェンジをした際、約1年は勤務先の経営に関するセミナーを聞いては内省し、20の学習塾の教室を見学しては内省し、事業計画やビジョンを描いては人に語って内省し、動かずにはいられないという時が来ました。

28歳の誕生日にたまたま自分がハーバードの歴史家の教授を招いたセミナーを担当していて坂本龍馬の話が出てきたことから28歳の誕生日に坂本龍馬が日本を変えるために脱藩したことを思い出し、翌日に上司に退職を伝えました。

表面的には、「思い切った決断」と見えるかもしれないけれど、深層では、自分のアイデンティティを書き換え、新しい物語へ飛び込む準備が整っていたのです。キャリアチェンジに対して自然と「思い切る」ことができるのは、行動と内省によるキャリアストーリーが腹落ちするレベルで描けたからだと思います。

一方で、挑戦してみた結果、「思っていたのと違う」ということは少なからずあるでしょう。そして、「思った通り」だったとしても、ある一定期間が経つと、「このままで良いのだろうか」と悩むこともあります。そのときはまた、その環境でそう感じている自分を理解し、また「描く」に戻れば良いのです。何事も経験してみないとわかりません。やってみたから、自分を知ることができ、新しい物語を描くことができるわけです。まるで、世界を旅するように、あるいは、小説を描くように、自分のキャリアの旅、ストーリー作りを楽しんで行けたら良いですね。

充実した職業人生を送る鍵は「自分を知ること」だとよくいわれる。だが人は常に成長し変わっていくものだから、実際にはその鍵は目的地で手にできるほうびなのだ。出発の地点ではっきり見えるわけではない。

ハーバード流 キャリア・チェンジ術(ハーミニア・イバーラ著)p.212

参考文献

たくさん引用しましたが、20代前半に出会って、私のキャリア形成に大きな影響を与えた本です。本記事の内容に共感されるところがあった方にはぜひお勧めしたい本です。

行動と内省を繰り返しながらチャンスを掴むためのヒントがつまっています。いろんな人の成功例・失敗例のケースが載っていて読み物としてもおもしろかったです。

自分の経験知がとっても体系化されていて学びになりました。自分のN=1が多くの人にも当てはまる内容だと思いました。転職を検討している人にはぜひ読んでもらいたい本です。

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