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爆ぜる好奇心

10月に入った頃、旗揚げしたばかりの劇団に入団をした。

その劇団は、
誰しもが「何を言ってるんだか」と言ってしまいそうな大きな目標を掲げ
劇団立ち上げの動機から、活動内容、劇団としての目標をどえらい長文に気持ちも一緒に乗せて、新規劇団員をネットで募集していた。

この劇団と出会うずっと前に近所で活動されてる劇団に稽古や公演に足を運んでいたのだけれど、ウマが合わないというか、下積み段階では舞台に立てず
古き良き日本の文化がそこにあり。煩わしく感じ、去った。
ささっとステージに立ちたい。

そんなこともあり、
自分のやりたいことを出来そうな環境で、ここなら輝けそうだと連絡をした。

怒涛の長文をすんなりと受け止めてくれた彼は再度、カズマに「覚悟」を問う

『共に、ド派手に転がっていく覚悟はできています。』

日時と場所を決めて、会ってお話をする。


当日、待ち合わせ場所にやってきた主催者のユウタさんともう1人女性がいた

事前の自己紹介で、とても優柔不断です。と打ち明けていたユウタさんは
見た目はコワモテでギャップがすごい。

共に居た女性は、物静か。同じく募集で顔合わせをしていたみたい。

せっかくだから3人で話し合おうとなり、予定していた店に行くも満員御礼。
視界に映るお店はどこも人でぎっしりだ。
待ち合わせ時間がちょうどお昼時だったので、しょうがない。

ネットでお店を探し、
『付近におしゃれなカフェあるじゃーん!ねえねえここ行ってみようよ!』
と伝えようとユウタさんを見たら

「どうしよう、、どうしよっか。。ごめんねすんなり決めらんない。」

と早速、優柔不断?が炸裂しているようだった。

もっと近場に喫茶店があるようなのでそこへ向かって歩き出す。

前日渋谷での縦横無尽。規律正しく、時に横槍を刺してくる人波をかき分けていた自分はここでの人波はもはや無力だった。

スタスタ歩いているとユウタさんが

「人混みほんとニガテだわぁ。。」

「私もです」

2日連続してこの言葉を聞いた。今回は一度に2人から聞いたから2コンボ。

目的地についたものの、満員御礼。絶望顔のユウタさん。
3人まとまって座れるテーブルがないのは理解した。
とりあえず店内の奥まで行って様子見てくるわ!と言って店内を確認をしてきた。

確認したところ、横座りの一列に長い席が3人横並びで座れそうだ。
横並びで3人、顔を見て目を見て話すには、とても忙しそう。
端同士で会話が始まったら、真ん中の人は丸まる?
真ん中に座る人はテニス試合のボールを目で追っている人のようだ

想像したら笑ってしまう。こりゃあかん。

席から壁までの間は人1人歩けるほどのスペースがあるから、
じゃあここのスペースにイスを置いて三角形で話そう!
イス持ってくるからちょっと待っててね〜!

イスを余らせていそうな方に声をかけ強奪し譲ってもらい環境を整える。

狭いスペースにイスを挟み込んで、無事にお話をする環境が完成。
いざ改めて、はじめまして!カズマです!


ユウタさん、28歳

北海道から上京してきた方。学生時代にとりあえず何かサークルに入っておこうと演劇サークルに所属したけれど、演劇独特の異様な空間に馴染めず
怖い先輩に怯えながら過ごしていた。

確かに劇団の異様な空気感は分かる。不機嫌でピリピリではないけれど
なんだかピリついている。『緊張感が漂ってる。』⇦これだ。


日頃からテレビやコマーシャル、バラエティ番組を見ていると
脳内で「このあとこうなったら面白いな」「こういう展開に持っていこう」
とテレビそっちのけにして、自分でお話を作ってしまうそうで
そんな創作のやり方があるのか〜。と驚かされた。

そんなことの繰り返しでテレビを見ていても一切内容が入ってこないとユウタさんは嘆いている。面白いこの人

なぜ苦い思い出のある演劇に軸を置いて活動するの?と聞くと

「自分には、何にもスキルが無い。ただ、人と共同して何かを作り上げることが好き。かといって人付き合いが得意でもないし、学生時代に演劇サークルで失敗してる。だからこそ一度挫折したものと向き合って新しく何かをはじめたかった。自分ではじめれば、確立されたコミュニティに飛び込む訳じゃないし、煩わしいこともなくて自分のやりたいことができる。気の合った人と活動を謳歌したい。」

かっこいい。特に後半の煩わしさうんぬんは、あっしも同意見です。

そして女性はSさん、22歳
脚本関係のお仕事をされていて、じっと人の目を見てお話する方。
何かを聞かれれば、即答はせず、

じっくりと考えてから、発言をする。
選ぶ言葉も綺麗で、分かりやすくスッと脳内に入ってくる。
演技をするつもりはなく、脚本でお手伝いをしたく応募。

休日には演劇ワークショップに参加したり、お知り合いの脚本家さんを通じて演劇を観に行ってるらしく、彼女もとてもクリエイティブだ。

演技するつもりないのに、演劇WS(ワークショップ)に参加するんだね〜。

「何者かに成り切ってるって面白いじゃないですか?とても不思議なんです。演技をしている人間に興味があるんです。」

そういう目的で演劇WSに足を運ぶ人もいるんだねって思わず笑ってしまった。
なんだか天才達が集まっているような気がしてきた。

活動内容など堅っ苦しい話しはとりあえず無く、みんなの人となりを分かち合う時間を過ごした。

一時間ほど雑談し、そろそろお開きな頃。ユウタさんが、

「これからもう1人の団員が拠点に来るんだけど、お時間あったら一緒にどうですか?」

カズマ、Sさんは是非是非と返事をする。

「タクシー代は劇団の経費として落とせるのでタクシーで行きましょう!」

どゆこと?!


タクシーに乗り込み3人横並び。ぎゅうぎゅう。

おっとりした白髪混じりのおじちゃんが目的地を聞いてくる。

「分かりました〜〜」

走り出したら豹変。まるで大海原。
3人してその瞬間を楽しんでいる。その瞬間、運転が荒すぎるなど誰も口にしてはいなかったけれどみんな楽しんでた。そんな顔をしていた。

右折すればみんな遠心力に負けてカズマが潰され、左折すればSさんが潰されてる。真ん中にいるユウタさんは常にどちらにも謝っていた。笑える。
すごいアトラクションだ。10分弱で1600円。安い。

拠点とやらに到着し、タクシーから解放された途端みんなで笑い出す。
あの瞬間思っていたことを感じたことをみんなして打ち明ける。
ゲラゲラ。ゲラゲラ。

拠点と言われていた場所は、ユウタさんの勤務先だったみたい。

ほう。

お邪魔しまーす。

中は広々、演劇の練習も問題なくできそうだし
あちこちにハイテクなものがたくさん置いてある。
4Kビデオカメラに大きすぎるモニターに、

うわ!MacBookじゃーん!

「社長が活動に必要だろ。と贈ってくれた。2TBも使い切れる気がしないよ」

2TB?!

2TBで最新のMacBook Proなんてお値段はりますわよ〜
すごい社長さんだ。ユウタさんに期待をしているし、ユウタさんはそれに応えられるパワーを持っている人間なんだろうな〜と感じられた。

じゃあ、あそこにあるバカみたいにでかいモニターもさては

「そう、必要ではないと言ったんだけど用意してくれた」

なんちゅう環境だ。
募集の中に『スポンサーがついてくれている。』となんだか不透明なことが書かれていたんだけど、そういうことらしい。

かといってなんでもかんでも、社長さんの資金力がモノを言うわけではなく
必要となるモノが出てきた場合

・なぜそれが必要なのか
・それを得たことで活動にどういう影響をもたらすのか
・影響力の期待値
・あと、なんか大人っぽいややこしいことうんぬん

それを企画書に起こし提出し、社長がその企画書を吟味し
スポンサーとして対応。というシステムみたい。とてもしっかり。

団員同士の外食費など、移動費は活動費として 経費にまわしなさい。
団員からお金を取るようなことはせずにみんなを活動に専念させてあげなさい。と手厚い。

旗揚げばかりといえど、心強い人がバックにおりほんとすごい環境だ。

Sさんと唖然としながら過ごしていたらドアが開き

「お疲れっす〜」

もう1人の団員さんがやってきた。
男性 Nさん 40代かな。年齢は聞いていない

「以前話し合っていたラジオ出演の件。企画書にしてきた。ラジオ出演するに至って必要な額と話す内容や確保できる枠をラジオ局の人と話したよ。話す内容に関してはしかじかでラジオ局の人もこれは面白そうだと。企画を通してくれる所まで話が進んだよ。」

Nさんは簡潔に話す。

行動力の化け物と事前にカフェで聞いていたけれど、それよりも話の展開について行けず変に興奮していた。

Nさんはセミプロ編曲家。アレンジャー。
ユウタさんが掲げる大きな通過目標に心踊らせてやってきたみたい。

ラジオ出演に関する会議が終わり、

「じゃあ声合わせしていきますか」とNさんが言い
小冊子のようなものを出した。

ユウタさんも同じものを出し、そそくさと準備を始める

「せっかくだから立ち稽古で動きも入れようか」と広いスペースで稽古が始まる

何かの劇?もう台本あるんだ。


稽古をする2人と向かい合う形で、カズマとSさんは椅子に座り観る。

劇のテーマは戦争。

なぜ人は争い合う?と疑問と武器を抱える青年と、
これは国の命令だ。あいつらはだ!!!と吠える男性の物語。

殺意を向けるから殺意で返ってくるのだ。僕は武器を持たない
国が言う命令に背く青年。

そんなバカな話があるか?!
あいつらは敵なんだ、そんなの関係ナシに殺されるさ!
早く武器を持て!と怒鳴る男。

お前は殺意のない人間を殺せるのか?
青年はこう訴える

怒鳴っていた男も徐々に人の命に意識が向き
青年の言葉に感化され行動を変え始めた

ガ。

銃弾が男を貫き、死ぬ。殺意を捨てたばかりの出来事。

その光景に激情した青年

「全員ぶっ殺してやる!!!!!」

ざっとこうだ。戦争を軸に動く、皮肉で悲惨な劇。

ユウタさんが脚本した劇だ。

「ハッピーエンドはあまり好きじゃない、現実は綺麗事ばかりじゃないから。ただ、これを劇としてやるのは賭けだと思ってる。ただ、これしか脚本がないから現状どうしようもない。。」

と言うと?どう言うことだ?演劇の内容は自由なんじゃ?

「一月に公演が決まったけれど、会場が老人ホームなんだよね。」

わお。それは確かにリスキーだ。何かしら批判を買うかもしれない。

ここでSさんが

「確かに戦争を題材にした劇は、時と場合を選ぶ気がします。脚本を読んで、稽古を見て思ったことなんですが」と話し出す

「結末や時代は変わりますが、平家物語の”扇の的”に置き換えられるのではないかと思いました。ご年配の方々なら、よく聞いた話でしょうし、取っ付きやすいと思います。観客の方々も、平家側、源氏側で分かれてもらったりして参加もできます。」

と、淡々と話す。
みんなして大賛成。

「うわぁ、参加型か。。めっちゃいいじゃんそれ。。すっげえ。この短時間でその判断すごいよ。ただ、脚本書き直しかぁあ…平家物語しっかりと読んだことないから筆が重い..重すぎる….」

頭を抱えるユウタさん。

「…よし、わかった。とりあえず、なるだけ早く連絡するようにするから!!たぶん!!!ごめん!」

こうしてその日は終えて、それから一週間経たない頃に
グループラインにユウタさんがファイルを送ってきた

タイトルは〜扇の的〜

総数19ページで書き上げたユウタさん。ひとまずお疲れ様でした。ありがとう。


ユウタさんの怒涛の書き上げから、2週間が経ち
今週の日曜日に役決めのための打ち合わせという所まで話が進みました。
指定されたセリフを各自読み、誰がどの役にピッタリだろうか。とみっちりと話し合ってまいります。

ラジオや稽古、衣装制作のタスクがあり公演から逆算するとやべえぞこれと感じますが、楽しんで乗り切ろうと思っております。


そして今日、ユウタに

「ねぇねぇ、カズマ。ひとつお願いごとあるんだけどいい?劇団のyoutubeチャンネルを作ってほしい。」と。
映像を作ることは好きだけど、今かぁぁ。

こんな感じに退屈させてくれない仲間に出会えました。
これからもよろしくですです。

読んでくれてありがとうございました。
人との出会いで目まぐるしく転がる様を楽しんでくれたら幸いです。

みなさんにも突拍子もない突然の出会い、
素敵なイチゴイチエが訪れますように。

では!

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