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Industry-Up Days: フライングロボティクス(Spring 2021)

★本記事は、SUNDERD Industry-Up Days: Spring 2021のインタープレナー公式イベントレポーターとしての寄稿です。

こんばんは。 SUNDRED Industry-Up Days: Spring 2021のインタープレナー公式イベントレポーター 竹松 和友です。

イベントから1か月ほど経ちましたが、みなさん「越境」してますか?
なにより大事なのは、イベントで高まった熱量を持続的に保ち、さらに高めていくこと、高めるための取り組みを「個人」が継続し続けること。イベントで一歩深まった知識や関心をさらに深めることではないでしょうか。

それでは、フライングロボティクス産業のセッションを振り返ってみましょう。フライングロボティクスとは、平たく言えば「ドローン」「エアモビリティ」をめぐるビジネス、技術領域のことです。

広義の「ロボティクス」がいよいよ必要とされるようになったのは、労働力の需給ギャップが今後極めて大きくなること、社会資本の老朽化が一層進行すること、ECの一層の拡大、普及が予想されるといったことが背景にあります。

私事ですが、IoT事業(センシングネットワーク)に携わっていることもあり、アプローチは違うものの、重なる領域もある「フライングロボティクス」のセッションでは、新たな学びと次の行動のきっかけとなるお話を伺うことができました。

※本記事は当日のセッション内容をもとに、私なりの考察を加味して再構成して執筆したものです。

登壇者は以下の4方 (敬称略)
井上 翔介さん   (株式会社 自律制御システム研究所)
狭間 研至さん (PHB Design 株式会社)
保理江 裕己さん (ANAホールディングス)
湯浅 浩一郎さん (VFT株式会社) ※ファシリテーター

社会は今変曲点にある

労働力の供給と需要のバランスが崩れてきています。超高齢社会を迎える日本の人口は2060年までに26%減少。労働人口はなんと35%減少という衝撃的な数字が紹介されました。

この記事の執筆にあたり、経産省が2018年にまとめた『2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について』を改めて見返すと、単に人口減少が減少するのみならず、2038年に向かって生産年齢人口比率の減少が加速することが見込まれ、特に2020年代末からの10年間は極めて深刻な状況が予想されます。

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一方で、高度経済成長期に構築されたインフラの老朽化は深刻で、年1兆円以上の費用がインフラの点検や維持管理に費やされています。
さらに、完成から50年以上経過したものの割合は2018年からの5年間で2.5倍となり、激甚化する災害への対策費用も年1兆円を突破しています。

参考となるページ
社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト
国土交通白書 (2020年度) 第3章 第2節
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/pdf/np103200.pdf

また、1988年からの20年間で物流量は5倍になり、宅配は40億個以上/年になりました。ECが広く普及し、あらゆる産業分野に拡大されていくことで、この流れはさらに加速することが予想されます。

フライングロボティクスの特徴と環境整備の動向

ドローンの特徴は大きく二つあり、

3次元空間
:屋外・準屋内(トンネル等)・屋内(工場等))の移動

遠隔操作・自動化
:遠隔制御・リモート操作/自律飛行・自動操縦

です。日本国内においては、ドローンは原則地上150m以下を飛行するものと定められており、低空を3次元で移動するロボットです。これまでは、衝突事故回避のため厳しく規制されてきた無人飛行ですが、2022年には航空法の改正が予定されており、「有人地帯における補助者なし目視外飛行」(レベル4)が実現されます。街中をドローンが飛びまわる日は近いのです。

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まず、フライングロボティクス産業になぜ挑戦されるのか、

・サービスオペレーター → (ドローンを運航し維持管理する)
・ハードウェアメーカー → (ドローンの機体を開発する)
・ユーザー → (ドローンを活用して新たなビジネスを行う)

登壇されたお三方からそれぞれの角度からお話いただきました。

なぜ航空会社がドローンオペレーションに挑戦するのか

オペレーターとして新規事業開発に取り組まれているANAホールディングスでは、レベル4実現に向けて、様々な実証実験を行っています。

本セッションでは福岡市のヨットハーバー~能古島間で実施された、ネットコンビニの商品、処方医薬品のドローン配送実証の紹介がありました。
https://www.anahd.co.jp/group/pr/pdf/20201124-1-1.pdf

登壇者の保理江さんからは、「ANAは、祖業のヘリコプター輸送を開始した時代から、運航オペレーションの安全性を高めることに注力してきた。その技術をドローンが飛行する低空や、今後発展が見込まれる宇宙という新たな領域に活かしていきたい。」というお話がありました。

ドローンによる輸送は、航空会社の既存事業を脅かし、カニバリゼーションを起こしかねない事業とも言えます。だからこそ、ANA HDデジタルイノベーションラボでは既存事業の知見を活かしつつ、内側から破壊的イノベーションを起こし、中長期的な新たな事業ドメインの種を育てる取り組みを進めているとのこと。その柱として掲げているのが、AVATAR、宇宙、ドローン/エアモビリティです。

国産産業用ドローンベンチャーの挑戦

続いて、自律制御システム研究所の井上さんからです。

1990年代というドローンという言葉すらなかった時代からロボティクスを研究していた、千葉大学の野波研究室を源流としているとのこと。
2011年の東日本大震災により発生した原発事故を受け、ロボットで状態確認したいというニーズが出てきたこともあり、2013年に創業されたのが自律制御システム研究所です。大学の研究室発祥のベンチャーであることから、ソースコードから、フライングパーツ、フライトコントローラまで自社で設計可能である強みを持っています。

インフラ点検においては、単に空撮するだけではなく、ボタンを一回押すだけで自動で離陸し、指定した画像を取得し、点検が必要な危険個所をピックアップし、メモをして、レポートまで作成してくれる。つまり、「点検」をすべて終わらせてくれるソリューションとしての完成を目指しているとのことです。

また、ACSLでは、防災・災害でのドローン活用にも力を入れており、災害時の緊急派遣要請には応じることしているとのこと。

2019年10月28日は、ANAホールディングス株式会社、NTTドコモ株式会社の協力のもと、車両の通行できない西多摩郡奥多摩町日原地区へ、緊急物資輸送を実施いたしました。当社のドローンで生活必需品である歯ブラシや歯ブラシ粉など届けることで、大きな被害を受けた地域の皆様を支援することができました。

五島列島で遠隔医療・医薬品の配送実証も行われています。こちらのプロジェクトもANA ホールディングスとの共同で、地元の長崎大学医学部、五島中央病院、五島市などとも参画しています。

こうした実証フライトを、様々な物流企業などと連携して300回以上行うことでかなりの知見がたまってきたそうです。

医学・薬学業界の抱える課題の解決に向けて

最後に、狭間 研至さん。医師であるとともに、家業の薬局を承継し、医学・薬学・ITの融合を掲げ、大阪・兵庫で薬局経営や在宅医療などに携わりながら、薬局業界のDXをサポートするBtoBビジネスの会社を立ち上げられました。

日本ではまだなじみのないTelemedicineという概念も、今後急速に広まることが予想されますが、それでも薬はデータで渡せないことには変わりはなく、医療・薬局業界ではドローンや無人車の活用に期待が高まっています。法制度面での課題はあるものの、医療データが一元的に共有され、診療も投薬もオンラインで行われるとともに、薬は自動で配送される。そのような未来を狭間先生は描いていらっしゃいます。

なぜフライングロボティクス産業へ?どういった苦労が?

保理江さん自身は、新規事業への興味から、デジタル・デザイン・ラボのメンバー募集の社内公募に応募し、ジョインされたそう。技術職出身とのことで、ビジネスモデルを考えるといった新規事業の立ち上げに欠かせない思考プロセスに慣れるのには2年ぐらいかったとのことです。イベントに出かけて自社の取り組みを広報しつつ、報道発表を受けての外部からの問い合わせに答えていくといった、選挙活動のような地道な作業を続けることで事業をはぐくみ、ドローンのサービスプロバイダとしてのポジションを確立できつつある様子。

経営トップの強いコミットメントを背景に、いわゆる「出島」として設立されたANA HD デジタル・デザイン・ラボですが、既存の枠組みでは解決できない課題に取り組み、コラボレーションパートナーを募りつつ、空港や機体整備→遠方の離島→大都市の離島というプロセスを踏んでいくことで、既存事業とうまく折り合いをつけてきたことも成功しつつある要因の一つのようです。

井上さんは、現職の会社の経営陣が、以前お勤めのコンサルティング会社の上司もしくは先輩で、声をかけられたというのがきっかけだったとのこと。(まさしく、共感でつながるチーム。)

コンサルティングからベンチャーの事業会社に転職したことで、自分で知らない業界のことを調べ、新しい顧客を見つけて関係を構築していくことが欠かせなくなり、仕事をするうえで必要なことが全く変わったそうです。

もともと宇宙工学科出身だったというバックグラウンドも活かして、営業としてだけではなく、機体開発にも携わられているとのこと。ちょっと珍しいキャリアかもしれません。

狭間先生からは、かつての「門前薬局」も、変化が求められているというお話しがありました。薬局業務は、薬局に来た患者様に対面で応対するものにとどまるものではすでになくなっており、在宅医療を受けられている方や介護施設向けの配送が重要なニーズであり、経営上重要な課題となってきているとのこと。

さらに、薬剤師の業務は、政策的に投薬時の説明や、フォローアップに重きを置かれつつあり、「説明」と「配送」の業務オペレーションを効率化していかなければなりません。

医療・薬局業界のDXにあたり、今後の技術の発展に、ユーザーとして期待しておられ、物流サービスのユーザーサイドから貢献したいという思いを感じました。

本格的な「社会実装」に向けた課題は何か


今日、あらゆるビジネスは、プロダクトアウトはおろか、旧来のマーケットインアプローチすら限界に到達しつつあります。ドローンのように急速に発展する技術を社会実装するには、社会全体での合意を形成しながら規制を緩和していくことも必要です。

ドローンのハードウェアとしての進化は目覚ましく、次世代バッテリー搭載による航続距離の長延化も見込まれています。ドローンによる物流は「実証」から「実用」に遷移するフェーズにあり、フードデリバリーに代表されるように、「店舗に行かずともサービスが受けられる」「家にモノがやってくる」という体験が拡大しており、ドローンのビジネスチャンスは拡大していくでしょう。

そのためには、
「生活に溶け込むインフラ」
 →安全に飛行・離着陸、社会受容性(見た目が怖くない、静粛)
「使い勝手が良い」
 →誰もが使えるようになること。
「ビジネスモデル」
 →採算がとれる物流システムというアプリケーションとして利用できる

こういった要素がそろいエコシステムを形成することで、フライングロボティクス産業は、機体の衝突・騒音が懸念されるとか、診療・投薬指導は対面であるべきだ、といったかつての「常識」から自由を獲得し、新産業として離陸(Take off Anywhere)していくことでしょう。

まとめ

インタープレナーが、「イノベーション」を産み出すために必要なこと。それは、インタープレナー自身が、機運をとらえながらキャリアやスキルを棚卸し、「自分事」として何ができるのか、どんな「垣根」や「常識」をどのように越えられるかを自らに問い、「社会人」として「対話」し続けることではないか。

先端技術の象徴にも思えるドローンと遠隔医療。長年の技術研究の成果がベースとしてあり、なおかつ、業界の慣行や法規制の緩和も含めた息の長い取り組みが必要な産業領域です。

だからこそ、あたりまえのようなことかもしれませんが、新産業創造には、インタープレナーが地道な活動を通じて「対話」し、目的を共創していくプロセスが欠かせないと実感できたセッションでした。

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