嘘つきな君へ 第二話-1
こんばんは、ときめき研究所のKEIKOです。
ついに緊急事態宣言も発令されて、引きこもりに拍車がかかりますね!(キリッ)そんなわけで、今日も更新します。
ちなみにちなみに、片桐家の兄弟なのですがモデルがいまして...
お兄ちゃんの片桐直人は藤木直人(名前まんまやんけ)、次男の片桐理人は古川雄大さん、そして秘書の和己さんは加藤和樹さんをモデルに書いています。ええ、自分の好きな俳優さんばっかりです笑。ぜひ脳内で想像しながら楽しんでいただければと思います。では、続きをどうぞ^^
嘘つきな君へ 第二話 上野恵芽の憂鬱-1
結局その日、勇人さんに会うことはなかった。
お屋敷から帰る自宅までの道すがら、さっきされた話を何度も何度も頭の中で繰り返してみた。和己さんはそんな私の様子に気付いてか、ただ静かに車を運転している。時折、バックミラー越しの視線を感じた。
直人さんの言うことが本当なのだとしたら、今日私があの場に呼ばれたのは、おおよそこんな話だ。
誰もが知ってる有名商社、片桐商事の会長である片桐健人さん(おじさま)は、報道の通り、末期のガンだという。宣告された余命は、あと半年。残りの人生を考えたときに、自分が今までやりたかったこと、やり残したことを全て完遂してからあの世へ行きたいと思ったそうだ。いろいろとリストを書き出した後、直人さんはそれを託された。好物を食べたいとか、パワースポットの絶景を見たいとか、様々な項目が並ぶ中に、私に会いたいという願いが書かれてあったそうだ。
「恵芽ちゃんのことは、僕たちも全然知らなくて、本当に驚いたんだ」
直人さんは続けた。
「初めて目にする名前だったから、これは誰なんだろう?と思って父に尋ねると、自分の娘だって答えた」
「娘…」
私がその言葉を復唱すると、直人さんは私に向き直って、改めて視線を合わせてくれた。
「恵芽ちゃんのお母さんって、上野聡子さん?」
「……はい」
「昔、パリにいたことがあるのかな?」
もうその情報だけで、十分に言い当てられている気がして、口をつぐんだ。やっぱり、私のお父さんなのかもしれない。そう思ったら、ずっと焦がれていたその人を目の前にしている喜びと、母が真実を隠していたということへの悲しみとで、目の奥が熱くなった。
私の様子を察してか、直人さんはなおも慈悲深い瞳を私の方に向けてくれていた。
「父も昔、パリに絵の勉強をしに行ってたことがあってね」
そう静かに直人さんは話し始めた。
「俺が6歳のころだったかな…突然、絵を勉強したいと言って、家を飛び出してね」
「……え」
「随分と破天荒な男だろう?」
ははっと声を出して直人さんは笑った。
「昔から自分のしたいことはやらないと気が済まない人なんだよ、父は。大人になった今ならその気持ちも少しは理解できるし、むしろそんな生き方が羨ましいとも思うけれど、当時の僕は全く理解できなくてね。寂しくて毎日泣いてたよ。理人は記憶にないよな?」
「ないなぁー、兄貴が6歳ってことは、俺2歳でしょ?ないない、全然ない」
理人さんは持っていたスマホをいじりながら答えた。
「まぁ、そんな感じで突然パリに旅立った父さんが、出会って一目ぼれしたのが、聡子さんだったそうだ」
そう言って、なぜか直人さんが申し訳なさそうに私の顔を見る。私の様子を、終始気にかけてくれていることが視線だけでも分かった。
「恵芽ちゃんは父の話、聡子さんから何か聞いたことってあった?」
「……私、私は…」
不倫の恋だったから、お母さんは、お父さんの存在を隠していたんだろうか。もやがかった自分の出生の秘密が、こんな風に突然明るみに出されて、私はかなり戸惑った。
「私は…父は死んだと聞いていました…」
直人さんの瞳が、一瞬だけ揺れたように見えた。ソファに座る理人さんも、携帯を触っている手が止まり、床に突っ伏していた私の父だというおじさまが、その瞬間顔を上げて口を開いた。
「さ、聡子は…死んだって言ってたのか」
涙でおじさまの声が震えているのが分かった。
「…はい。でも、それ以外は、さっき直人さんが話してくださった話と、おおよそ一致しています」
「…そうか…。そうか…聡子…」
自分を納得させるようにおじさまは小さくつぶやいて、また床に突っ伏して、泣いていた。
「和己さん、聡子さんの話は、もう父にしてる?」
泣きじゃくるおじさまをちらりと見た後、直人さんは和己さんに尋ねた。たぶん、昨年母が他界した話のことだろうと思った。
「はい、恵芽様をお迎えに上がる前に、ご報告差し上げました」
「なるほど。それであの泣き様なわけだな」
直人さんが顎に手を当てて考える様子は、さっき目の前で見た理人さんのそれによく似ていた。
「恵芽ちゃん」
直人さんが私の名前を呼んだ。こんなかっこいい人に呼ばれるなんて、まだなんだか慣れてなくてむずむずする。
「突然で驚かせたと思うんだけど、どうやら父と聡子さんの証言がほぼ一致しているみたいだから、この話は本当みたいだ」
「…そう、みたいですね…」
私の返答を聞いてからしばらく、直人さんはまた真剣な眼差しを私に向けた。
「…最初は、僕も全然信じられなかったんだ。自分が大人になって父のことも許せてたし、過去の寂しい記憶も水に流していたし。このタイミングで父に隠し子がいたって聞いても、不思議と今更憎しみだとか、そんなものは生まれて来なかった」
「まぁ、パリに素敵な女性がいて声かけない方が理解に苦しむよね」
「…っ、理人!」
真剣に話している直人さんに、横から理人さんが茶化して、直人さんが真面目に突っ込む。雑誌で見るRIHITOと様子が違うことも面白いけど、直人さんの様子も、かわいく見えた。理人さんに一瞥を向けた後、もう一度直人さんは私の方を見る。
「でね」
そう言ってからコホンとわざと分かるように咳をして、直人さんは話しはじめた。
「純粋に、僕達も恵芽ちゃんがどんな子なんだろうって会いたくなったんだ。それで、和己さんに協力してもらって、連れてきてもらったってわけ。少々手荒な真似をして、ごめんね」
信じられないと思うけど、そう言って直人さんは私に向かってウインクをした。こんな謝罪は初めてで、あまりのイケメンぶりに何もかもがどうでも良くなってしまった。
私が目をぱちくりしてそのウインクを受け止めると、直人さんは私に向かって、あの、王子様のような満面のスマイルをまた向けた。それだけで私の視界がきらきらと輝いたように見えた。
「そしたら、こんなに可愛い妹だったなんて、嬉しくってね」
にこにこと笑顔を向けてくる直人さんを間近に見て、私の心臓は大きく飛び跳ねた。
「おい兄貴」
直人さんの笑顔に完全に心を奪われていたら、いつの間にか直人さんの背後に理人さんが迫っていた。
「だから抜け駆けはずるいってば」
と言って、理人さんは直人さんの肩越しに顔をのぞかせた。そのまま、理人さんは、直人さんの後ろからすっとその長い腕を伸ばした。
「恵芽ちゃん。俺も会えて嬉しいよ」
にっこりと笑って、理人さんは私の前に手を差し出した。この人から手を差し伸べられたら、世界中の女子が、握らずにはいられないだろう。ぶんぶんと大げさに握手をして、理人さんは私の手を離した。理人さんが手を離すのを目視した後、直人さんは私に話しかけた。
「そういうわけでね恵芽ちゃん」
ー残り少ない父の余生を、家族みんなで看取ってあげたくて、ここで一緒に暮らさないか?
今でも脳裏に焼き付いているきらきらの笑顔で直人さんはそう言った。あんまりにも綺麗な顔だったから、危うく普通にうなずきそうになってしまった。
ーもちろん、急な話だし恵芽ちゃんの気持ちを僕たちも大切にしたい。だけど、父の命も本当にもう限られてる。
私の家の前に車を停めると、慣れた手つきで和己さんは私をエスコートして車から降ろしてくれた。
「3日後…」
私は、改めて直人さんからの条件を呟いた。
「はい」
それを聞いた和己さんが、呼応するように答える。
「3日後の夜に、またお迎えに上がります。お返事をぜひお聞かせください」
凛とした佇まいの和己さんに深々とお辞儀をされるけど、あまりにもちゃんとされすぎていてこちらが戸惑うほどだ。和己さんが顔を上げたタイミングで、私は、きちんと目を見て頷いて、検討する意志を伝えた。
続きます!