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嘘つきな君へ 第一話-1

こんばんは、ときめき研究所のKEIKOです。
本日も、性懲りもなく小説アップしちゃいます。みなさまの暇つぶしになれば幸せです。今週末も自宅で外出自粛なので、続き書こうと思います。♡もらえたらめちゃくちゃ励みになります。どうぞよろしくお願いいたします!

嘘つきな君へ 第一話 上野恵芽の混乱-1

 何万回の祈りを捧げたら、私にご縁のある会社に出会えるんだろう。もし神様がいるんだったら教えて欲しい。今日もまた届いたお祈りメールを目にして、私は落胆した。そんなわけで、求人倍率とか売り手市場とかその手のニュースは、もう信じないことにしている。だったら私にもひとつくらい、内定もらえてもいいはずだ。不採用通知を受け取る度に、「不要」の烙印を押されているような、そんな気分になる。

『恵芽、どーだった?』

 タイミングを計ったかのように優香からLINEが来た。優香はK大学に通うバイト先の友人だ。一足先に就職先が決まった友人たちはこぞって私の就活の行方を心配していて、なんだか泣きたい気持ちになる。優香ももちろん、その一人だ。

『もうしんどい』

 正直な気持ちをタイプしたけど、心配した優香から電話がかかってくる近い未来を予想して、全選択して消した。

『だめだったー。でもがんばる』

 打ってはみるけど頑張れる気持ちは微塵もない。ちょっともう、自分でもどうしたらいいか分からない。
 
「なにしたいんだろうなー、私」
 
 そんな風に、ため息混じりに呟いて優香へのメッセージを送信した私は、携帯を握りしめたまま、ベッドに横たわった。


 耳に残るピアノのメロディは、いつの記憶のものだろうか。

 少し寂しげな太陽の光が差し込む部屋で、笑いながら話している男性と女性。聞こえてくるメロディに乗せて、気ままにふたりで歌いながら、そのふたりよりも低い目線で私も一緒に、そこで笑っている。
 描きかけの油絵。絵の具の香り。寂しい日差しと揺れるカーテン。断片的なことだけが散りばめられている。私は小さいときからよくこの夢を見た。特に昨年母が亡くなってからは、嫌なことがあると必ずこの夢を見ている。幸せな記憶。この夢の世界は、日差しの感じと反対に、なぜだかあたたかくて心地よい。
 
 母は1人で私を育ててくれた。自分の記憶に父の面影はない。私が3歳を迎える少し前に、他界したそうだ。だけど、天真爛漫な母はよく父の話をしてくれたので、私も父のことはそれなりに詳しい。
 
 ふたりはパリの街で出会った。
 母はフローリストとして花を勉強しに、父は現地で絵を描いていたらしい。同世代で単身パリに来ている日本人は珍しかったようで、すぐにふたりは意気投合した。マレの町の小さなアパルトマンを借りて、2人で住んでいて、そしてほどなくして、私が生まれたそうだ。母が19歳のときのことだ。貧しくて大変だったけど、とっても幸せに暮らしていた。この話をするときの母の表情が好きで、昔から何回も、映画みたいなふたりのラブストーリーを聞いて私は育った。まだ見ぬパリの街に、思いを馳せた。
 
 そんな母も、昨年父の元へと旅立った。闘病生活の末に息を引き取ったときには、覚悟していたこともあってか、悲しさよりも少し安堵の気持ちが勝っていた気がする。長い時間だった。言葉が話せなくなってからは、顔を見るのも辛くなった。だけど、懸命に生きようとする母を見て、私は幾度も励まされていた。私が苦労させてきた母だから、幸せになってほしい。もちろんたくさん涙したけれど、きっと今ごろ天国でふたり、思い出話をしながらあの、パリの部屋で過ごしているんだろうと思うと、自然と笑顔になれた。ふたりが残してくれた私の命を、大切に紡いでいかなくては、と思う。それぐらいしか恩返しができないと感じていた。
 

 頬を伝う涙の冷たさに驚いて目を覚ましたのと、携帯が鳴ったのがちょうど同時だった。

「非通知…」

 誰からだろう。
 こないだの繊維商社の面接結果の連絡だろうか。はたまた先週の文具メーカー?もはやどこの合否結果が来ているやら、自分でも把握し切れていない。次こそ、という気持ちと、もうどうでもいいという気持ちとが交錯していた。
 
「もしもし…?」

 ぐるぐると思考を巡らせながら、3回目のコールが鳴り終わった後に応答してみると、一呼吸おいて、向こうから声が聞こえた。
 
「…上野恵芽様のお電話でしょうか?」

続きます!