嘘つきな君へ 第一話-3

こんばんは、ときめき研究所のKEIKOです。
さて、今日も続きをアップロードします。このあたりからたくさんイケメン出てきます♡誰を当てて書いているか当ててみてください〜。
そして今止まってるところからやっと!再出発で書きはじめました笑。この更新が追いつかないことを祈りながら。書き進めます〜。みなさまの♡が励みになります〜ぽちっとお願いいたします。

嘘つきな君へ 第一話 上野恵芽の混乱-3

 ろうそくの灯りだけのその部屋には、1人の男性が立っていた。ドアが開いたことに気付いた男性はこちらを振り向き、その人の顔を見て私は驚いた。ガウンを着て、氷の入ったロックグラスを持つその男性は、眉間に深い皺が刻まれている、私が今朝からずっとニュースで見ていた、その、知らないおじさまだったのだ。
 
「え」

 思わず声が出た。
 だって、自分が関係ないと思っていたその人が、テレビの向こうにいたその人が、今目の前にいて、自分の父だという嘘のような事実を、突きつけられているのだ。

 知らないおじさまは私の顔を見ると、テレビ画面にもくっきりと映っていた眉間の皺をゆるゆると緩めて、今にも泣き出しそうな顔で私の名前を呼んだ。
 
「え…恵芽…」

 確かに私の名前を呼んだおじさまは、戸惑う隙を与えずにずんずんと一直線に私に向かってきた。頬を紅潮させて、大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら。正直に言って、テレビの印象と全く違っていて、こっちが戸惑った。

「あっ、あの!えっと…!」

 あまりの勢いに私も後ずさってしまう。おじさまとの距離がどんどん縮まって、残りほんの僅かになった瞬間だった。私の背後から、ぬっと誰かの腕が伸びてきて、間一髪でおじさまの額をぱん!とその手のひらで受け止めた。

「親父。少しは分をわきまえて行動してほしいね」

 私の頭上からそんな声が聞こえたと思ったら、ぐいと腕を後ろに引かれ、おじさまとちゃんと距離が取れた。そして、ふわっとムスクの香りと共に、またとんでもなく美しい顔の、今度はどこかの国の王子様みたいな人に上からのぞきこまれた。

「で、大丈夫?恵芽ちゃん。けがはない?」

 優しい瞳の、おだやかな視線で私を見つめてくれた。少したれ目で、肌がつるつるで、そしていいにおいがする男の人に、上からのぞきこまれていたのだ。

「…恵芽ちゃん?」

 あまりにかっこよすぎて、自分でも信じられないけど、また見とれてしまっていた。

「えっ!あっはい!大丈夫です!!」

 私が慌てて返事をすると、視界の片隅で、おじさまが額を抑えながら、よろめきながらも抗議の声を上げた。

「…な、直人。病気の父さんに、あんまりだろう!いじめるなよー」
「病人だからって、何したっていいわけじゃないから。初対面の女の子に抱きつこうとするなんて、許されないからな」
「なんだよー、娘なんだからいいじゃないかぁ…」

 おじさまは涙を目にたたえ、直人と呼んだその男の人に口を尖らせて悪態をつきながら、そっと私の手を握った。あまりに自然すぎて、抵抗する隙もなく。

「恵芽」

 改めて私の名前をおじさまが呼んだ。父と母がつけてくれた、私の名前を。

「何年ぶりだろうか…。すっかり綺麗になって……ううう…」

 そう言うなり、私の手を握ったまま、その場におじさまは泣き崩れてしまった。

「あ、あの…」
「ごめんね、恵芽ちゃん。ちょっと感情的になってるだけなんだ」

 そう言いながら、直人と呼ばれたその男の人は、おじさまの手から私の手を開放してくれた。

「驚かせてごめんね。僕は片桐直人。この人は僕の父で、片桐健人。こんなだらしない感じだけど、片桐商事っていう商社の会長ね」
「……」

 朝からニュースでずっと聞いていた、あの商社の社名と完全に一致した。就活四季報でも、もちろん目にする超有名な商社の会社だ。

「僕のことは直人でいいからね」

 直人さんはにこりと微笑んで私の方を見た。私の中の何かが弾けたような感じがした。イケメンの笑顔の破壊力は計り知れない。
 私が直人さんの顔に完全に心奪われていた矢先に、また背後から別の男性の声がした。

「兄貴だけ抜け駆けすんなよなー」
「理人。抜け駆けだなんて人聞きの悪い言い方するなよ。ほら、お前もちゃんと挨拶しなさい」

 振り返って見ると、そこには信じられない人が立っていた。信じられなすぎて、思わず声を失った。
 それこそテレビや雑誌で何回も見たことがある、今をときめく有名モデルのRIHITOが立っていたのだ。
 すらっとした長身に、ミステリアスでクールな小さな顔。驚くほど長い手足で、デニムと黒Tだけでも、華やかさが際立っている。重めの黒い前髪からちらっと瞳をのぞかせて、あの、RIHITOが私の目の前に、今、立っている。目の前にいるだけなのに、彼の発するオーラで、自分の足ががくがくと震えているのが分かった。
 RIHITOは、ゆっくりと歩いてくると、長身をかがめて私の顔をじっと見つめた。顔が近くて、左目の下の泣きぼくろまで、ばっちりとわかるほどの距離になった。ふたつの瞳で私を捕らえた後、まともに見ると完全に心臓が止まるような美しい笑顔を、私に向けた。

「はじめまして、恵芽ちゃん。理人です」

 言いながら理人さんは、顎に手をやりながら、またまじまじと私の顔を見た。近い。毛穴が、ない。ひとしきり私の顔を見たあと、ふぅと一息つくと、全国の女子が羨むであろう、あの、頭ぽんぽんを私に繰り出した。あまりに自然すぎて私は、まともにくらってしまっていた。

「ん、かわいくてよかったね。親父に似なくて」

 そう言って満足げにまた笑った。これは、心臓が、持たない。

「こら、理人。近いぞ」
「いって!なんだよ、なんにもしてないだろー」

 私をかばうように、直人さんが理人さんの腕を引っ張って遠ざけた。

「ほんっと、女の子と見たらすぐに声をかけるからな。理人は」

 ふたりのやりとりが、まるで映画のワンシーンかのようで、私は黙り込んでしまっていた。直人さんはそれに気が付くと、改めて私の方を振り向いた。

「恵芽ちゃん、ごめんね。説明が不足してて。こっちは、俺の弟の理人」
「…あ、の…モデルのRIHITO、ですよね?」
「えっ、嬉しいー!知ってるのー?俺のこと!」

 そう言って、理人さんの表情が明るくなった。

「し、知ってるもなにも、め、めちゃくちゃ有名ですよ!!」
「こーんなかわいい子に知っててもらえてるなんて嬉しーなー。あーモデルやっててよかったー♡」

 分かりやすくデレる理人さんの隣で、直人さんはまた大きくため息をついていた。

「……で、勇人は?」

 一息ついた直人さんは理人さんに尋ねた。

「勇人?来てないの?」
「ああ、恵芽ちゃんが来る時間伝えておいたんだけどな。和己さん、勇人は?」

 その時にやっと、秘書の人が和己さんという人だと認識した。というか、秘書の和己さんを筆頭に、この邸宅にはイケメンしかいないのか…?

「勇人様は、お加減が悪いようでお部屋にいらっしゃるようです」
「どーせあれだよ、いつもの中二病。いろいろ拗らせちゃってるからさー勇人は」

 言いながら、理人さんはふかふかのソファに深く腰掛けた。

「あいつももういい年なのにな…まったく…」

 首を左右に振りながら直人さんが嘆いた。
 直人さんは動きをぴたりと止めると、おじさまの方をちらりと見た。視線に気付いて私もおじさまを見たけど、まだわぁわぁとその場に突っ伏して涙されていた。

「…というわけで、父がああなものだから、俺からちゃんと説明するね」

 直人さんがおじさまを父と呼んでいることに、本当に自分のおとぼけ加減に驚くけど、この時に気付いた。

 えっと…、和己さんはこのおじさまを私の父と紹介してくれた。
 そして、直人さんと理人さんは兄弟で、このおじさまのことを父と呼んでいる。
 ……つまり、つまりそれは…。

「混乱するかもしれないから、単刀直入に言うね」

 一呼吸置いて、直人さんははっきりとこう言った。

「恵芽ちゃん。僕たちは兄妹なんだ」


続きます!