弓具の魅力 其の壱

 こんにちは!東京大学運動会弓術部です。今回は、弓を引くにあたって必要になる弓具の概説と魅力について話をしたいと思います。

 和弓と洋弓の違いについて説明します。

 一番大きな違いはその形状でしょう。写真のように、洋弓は握りの上下の長さが等しく対称的な形になっていますが、和弓は握りが下三分の一の位置にあることがわかります。

 また、大きさが違います。アーチェリーで用いるリカーブボウの一般的な大きさは64~70インチ(約170cm)と言われています。それに対し、和弓の大きさは並寸で7尺3寸(約220cm)と、和弓がかなり大きいことがわかります。古代(奈良~平安時代)は、丸木弓(一本の木で作られる)が弓の形態としてほとんどであったため、弓を長大にして反発力を稼ぐしかありませんでした。しかし、平安末期以降は竹と木の合成弓が作られるようになったため、反発力の大きい弓が作れるようになりました。つまり、小さく強い弓を作ろうと思えば作れたはずなのです。それにも関わらず、和弓が歴史を経て小さくなることは無く、握りが真ん中にないといういわば性能上の欠陥を抱えたまま、その長大さを保持して来ました。

 この一見不合理な継承がなされてきた理由については、多くの書籍に様々な説が記されていますが、「弓の尊厳を保つため」というのが一番説得力のある説だと思います。例えば「神武東征」の逸話の中で、伊波礼彦尊が大和を目指し苦難の旅を続けていた時、霊鳥の八咫烏が尊の弓の上に飛来し、行き先を案内したという場面があります。霊鳥がとまる場所はもちろん穢れなきものでなければならないため、古代から日本人は弓に対して崇高性を見出していたことがわかります。東大でも鳴弦之儀が毎年(去年、今年は中止)執り行われてきましたが、これも弦音によって魔を祓う儀式であり、弓に対する崇拝が表れています。短く強い弓を作る技術を持ちながらも、和弓の長大さ、そこから生まれる造形美を保持することで、和弓の崇高性を維持してきたのです。

 それにしても、和弓の形状は息をのむ美しさです。弓の上下には「姫反り」と呼ばれる柔らかな反りがあります(写真の丸で囲った部分)が、これが握り付近の直線的な堅さと相俟って全体の調和をとっています

 写真はカーボン弓ですが、グラスやカーボンの化学繊維でできた弓は、周囲の温度や湿度の影響を受けにくいため扱いやすく、個体間の形状の差もほぼありません。一方、竹弓は周囲の環境により弓の成りや強さが変わってしまうため、日々のメンテナンスが欠かせません。筆者は竹弓を引いたことはありませんが、竹弓は化学繊維の弓に比べ、伸合いがしっかりできていないと的まで飛ばすのが難しいらしいです。

写真1
写真2

 まず矢のシャフト(棒部分)の材質について。主なものとしてはジュラルミン、カーボン、竹の3種類ですが、学生が使うのは主にジュラルミンとカーボンでしょう。一般的にはカーボンの方が矢のスパインが強い(曲がりにくい=硬い)ので矢勢が出やすいと言われていますが、これについては何とも言えないので、弓の強さに合った矢を使えば良いと思います。

 また、矢羽根は主に七面鳥、鷲、白鳥の3種類があります。鷲は七面鳥に比べて高価ですがその分耐久性が高くなっています。初心者は掃き矢を多く出し、羽根を傷つけやすいので、安い七面鳥の羽根のものを使用するのが良いと思います。白鳥の羽根は遠的矢でしか筆者は見たことがありませんが、他の二つに比べてとても柔らかく、なめらかな触感が特徴だと思います。

 矢には3枚羽根がくっついていますが、これは矢に直進性を付与するためです。棒矢といって羽根のない矢があるのですが、これを的に向かって飛ばすと、たいていあらぬ方向へ急旋回してしまいます。羽根がついていることにより、矢自体が飛びながらシャフトを軸として回転するので、直進できるようになるのです。ちなみに矢が放たれてから的に到着するまでに、矢は約2.5回転するらしいです。

 弽(ゆがけ、かけ)は鹿革製の手袋のようなもので、右手に挿して使用します。親指の帽子の部分に木や角(つの)が入っているものを「堅帽子」(かたぼうし)、入っていないものを「和帽子」(わぼうし)、もしくは「柔帽子」(やわらぼうし)と呼びます。堅帽子の弽は、弓力の強い弓を引くときに親指を傷めないように開発された弽で、親指と弦の接触感がないため、和帽子よりも扱いが難しいです。また、指の本数も様々で、親指、人差し指、中指の3本を覆うものを「三ツ弽」(みつがけ)、加えて薬指まで覆うものを「四ツ弽」(よつがけ)、5本全部を覆うものを「諸弽」(もろがけ)と呼びます。学生弓道においては三ツ弽が主流ですが、四ツ弽を使っている人も少なからずいるといった感じです。

 この弽の形状もまた美しいです。特に、帽子から腰、控にかけての滑らかなライン(写真の青線)には惚れ惚れする美しさがあると思います。新品の弽は硬いためこのラインが直線的ですが、使用して弓の負荷がかかるにつれて、射手の手首のラインに沿うように形が変わっていきます。道具が自分のものになっている感じがして一層愛着がわくと思います。

 また、大手弽メーカーの弽にはたいていグレードが存在しており、高価なものになると全て手縫いのものや、一から使用者の希望に沿って誂えられるものまであります。大体ある程度のグレード以上のものになると燻革を使用するようになるため、独特の薫りが漂うようになります。筆者はこの匂いが大好きなのですが、これのせいでスモークチキンが食べられなくなりました。

写真3

まとめ

 その昔、弓道は「究極の道楽」と呼ばれました。これは、弓道は道具に凝りだしたらキリがないということで、飾りがふんだんに使用された贅沢品が多く作られました。これらは実際に使用するというよりかは鑑賞用の面が強かったとは思われますが、弓具に対する人々の愛着は古来より続いてきたことがうかがえます。実際、弓具を買う時の迷いはとても幸せですし、使えば使うほど愛着がわいてくるものです。弓具を選ぶときはじっくり考えて、選んだ弓具に対しては精一杯の愛情を注いで手入れすることが一番大事だと思います!

-----------------------------------------------------------------------------

各種SNS等2022年度版

公式Twitter
https://twitter.com/todai_kyujutsu/


公式LINEアカウント
https://liff.line.me/1645278921-kWRPP32q/?accountId=196dsxnq


公式Instagram
https://www.instagram.com/todai_kyujutsu/


公式ホームページ
http://www.kyujyutubu.com/


メールアドレス
todai.kyujutsubu.shinkan□gmail.com (□を@に変換してください)

今後の投稿でも新歓情報をまとめていくのでぜひチェックしてください!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?