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腐女子が世界を動かしている

 腐女子とは「BL(ボーイズラブ)が好きな女性。男性同士の恋愛を扱った小説や漫画を好む女性」である。そして、年齢の高い腐女子のことを「貴腐人」と呼ぶらしい。その定義によれば、私は貴腐人である。
おっさんずラブにはまって、「沼」にどっぷりつかってしまった。今でもOL沼の住人で、二次創作を大量に書いてインスタにのせている。

https://www.instagram.com/kyrieasako/?hl=ja

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私は小説家のはしくれだけど、この二次創作は完全な「趣味」だ。自分の楽しみと、そして誰かを楽しませたいという気持ちで書き続けている。この二次創作のおかげで「書く喜び」という、もの書きとしての原点に立たせてもらっている気がする。
BLというのは、男性同士の恋愛という一点だけは動かないものの、実に多種多様で、裾野を占めるグレーゾーンはとても広い。
例えば私の場合は「男性同士の恋愛を扱ったピュアなBL作品」が好きである。
例を挙げれば、『おっさんずラブ』『昨日何食べた?』『30歳まで童貞だったら魔法使いになれるらしい』
この三作品に共通しているのは「質が高い」「ピュア」「キャラクターが魅力的な善人」そして「腐女子でない女子にも人気」というところだ。
それにしても「腐女子」とは、なんとまあひどいネーミングだろう。
社会学者の上野千鶴子氏はこのネーミングについて「自らを腐女子と表現する背景は、相手から腐ったような女子と言われる前に自分から表明して、侮蔑を回避するという居直りのレトリックがある」とおっしゃっている。なるほど…。
私は、腐女子と呼ばれる女子達は、腐っているんじゃなくて、熟成しているんだと思っている。ワインのように。
だから熟成した女達が作る「沼」というものは、実に幸せな楽園なのだ。
この沼は「裏切らない」「自由に妄想の翼を広げられる」「同じ沼にいる人たちと想いを共有できる」「競争や嫉妬とは無縁」「与えられるだけで、奪われることはない」という特徴がある。
腐女子というものは、総じて平和主義者だ。私はツイッターやインスタを通しておっさんずらぶファンの方達と仲良くさせていただいているが、とにかくみんな優しい。
OL民達のツイッター上でのやり取りを見ていると、本当に平和。ただただ牧と春たんの幸せを願っていて、二人の幸せを自分の幸せに変えている。
腐女子は、キャラクター達が仲良くしていたり、幸せだったりする姿を見て幸せになるという「利他」の心にあふれた人たちなのだ。
春たんが「結婚して下さ〜い!」と叫んで牧がその腕の中に飛び込んだシーンや、シロさんとケンジが仲良く夕飯を食べてるシーン、黒沢が安達の怪我の手当てをしているシーンを観て、ほんわかと幸せな気持ちになった腐女子が世界中にどれほどたくさんいるだろう。おそらく天文学的数字だ。
このキャラクター達は今、この世界に存在している。何かを変化させたり、何かを与えたりするものは「存在」する。「無」ではない。だから牧も春たんも、シロさんもケンジも、安達も黒沢も存在する。
腐女子は純粋にキャラクター達を「己」の存在を消して愛しているのであって、自分自身が「あんな恋がしてみたい」と思っているわけではない。
『おっさんずラブ』なら、牧と春たん、『昨日何食べた』ならシロさんとケンジ、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』なら安達と黒沢の「関係性」に萌えるのだ。「関係性」が最も重要であると言っても過言ではない。
この「関係性に萌える」ということで、最近ちょっと驚いたことがある。私事で恐縮だが、私の娘達は漫画家(キリエ)で、現在「ヤングアニマル」で「てっぺんぐらりん~日本昔ばなし犯罪捜査~」という作品を連載中なのだが、巻を重ねるにつれて、腐女子の方々が続々とファンになってくださっているのだ。この作品は、日本昔話をベースにした警察もののアクションファンタジーである。堅物の新米刑事桃生と変人教授太郎の若きイケメンバディーの関係性に、腐女子達が萌えて下さるという予想外の反響に、驚くやら嬉しいやらありがたいやら……。

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↑殺人事件の捜査で高校に潜入した桃生と太郎(てっぺんぐらりん3巻収録)

そもそも、腐女子が夢中になるのは必ずしもBL作品だけではない。例えば大ヒットしている少年漫画のファンの中にたくさん腐女子がいることは周知の事実だ。キャラクター同士が恋愛関係にあるわけじゃなくても、その二人の関係性に「妄想」という香辛料を振りかければ、実に美味しい仕上がりになる。
私は声を大にして言いたい。この世界は腐女子が動かしているのだ!と。その証拠に大ヒット作品の裏には必ず腐女子のパワーが働いてる。
世界に目を向けてみると、「アベンジャーズ」「スーパーナチュラル」「ハワイファイブオー」「NCIS LA」が良い例だ。

これらの大ヒット作品は腐女子達の大好物である。何と言ってもキャラクター達の「関係性」が素晴らしい。自分を犠牲にしても相手を救う、互いのために死ねるというところにハートを持っていかれるのだ。
「スーパーナチュラル」の中では、主役のウインチェスター兄弟をBL小説にしてネット配信している腐女子が登場している。「ハワイファイブオー」の製作者側はスティーブとダニーを「最高の夫婦」ランキングで一位にあげている。つまり製作者側も、しっかり腐女子の存在を意識しているのだ。
その強大な力と影響力、作品とキャラクターに注いでくれる深い愛が、作品をヒットさせるということを痛いほどわかっているからだろう。
最後にもう一度断言しておこう。腐女子は、自らを「腐っている」などと卑下しながら、実は意図せずにこの世界を動かしているのだ。


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