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第十一章 外に出たら、ビルの隙間を走り抜ける冷たく乾いた風の出迎えを受けた。 厚手のロ…
第十章 母の葬儀の日はここ数日の猛暑がおさまって、秋の訪れを告げるように爽やかだった。…
秋臣が縁側で涼んでいると、寿美子と叶人が手をつないで入ってきた。 それまでシンと静かだ…
第九章 「先輩、本当に申し訳ありません!」 犬養がこんなにもしおれている姿を見たのは…
第八章 「どうしてもお墓参りがしたいの」 猛暑の中、突然言い出した母の気持ちが秋臣には…
マグカップの中の琥珀色の液体に、口をすぼめて息を吹きかける叶人の横顔はどこか浮かない顔…
家に帰る犬養の車を見送りに門の外に出ると、叶人は少し離れたところに所在なさそうに立っていた。 犬養はよく眠れたらしく、昨日の疲れの名残などかけらも見えない。 「先輩、お世話になりました。本当に楽しかったです。また来ていいですか?」 「それは構わないけど、もうそろそろ本格的なクラゲシーズンだから、どうかな」 「そっか、残念。あ、そうだ。俺気になってたんすけど……」 犬養が声を落とした。 秋臣はギクリとして次の言葉を待った。 「気になることって?」 「智夏君、なんか元気
処置が早かったため、犬養がクラゲに刺された箇所は赤い腫れが少し残っただけですんだ。夕食…
夕食のテーブルでLINEの着信音が鳴った。 秋臣は車エビの天ぷらをだし汁につけたままスマ…
車の中で叶人は一言も言葉を発しなかった。眠っているのかずっと目を閉じたままだ。 家か…
「今日は稽古だから出かける」 朝、出勤する秋臣とすれ違いざまに叶人がささやいた。週三日…
家に帰り着くと、門の前にかかりつけの病院の車が止まっていた。毎日午前中に一度医師が往診…
「お父さん、起きて」 縁側のガラス戸から朝日が射し込んでいる。重たい瞼をやっと開けると…
「智夏(ともか)ちゃん! 智夏ちゃん! 智夏ちゃん!」 あっと思う間もなく、叶人が秋臣を押しのけて門の中に走り込み、寿美子を抱きとめた。 「おばあちゃん!」 見ると、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。秋臣は目の前の光景にあっけにとられ、言葉を失ってしまった。 「おばあちゃん、会いたかったよー!」 「ああ、おばあちゃんもどんなに会いたかったか。毎日お祈りしてたのよ。智夏ちゃんが元気で幸せでいるようにって」 抱き合う二人の横で、秋臣は呆然と立ち尽くした。 寿美子はボ