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第十章 母の葬儀の日はここ数日の猛暑がおさまって、秋の訪れを告げるように爽やかだった。…
秋臣が縁側で涼んでいると、寿美子と叶人が手をつないで入ってきた。 それまでシンと静かだ…
第九章 「先輩、本当に申し訳ありません!」 犬養がこんなにもしおれている姿を見たのは…
第八章 「どうしてもお墓参りがしたいの」 猛暑の中、突然言い出した母の気持ちが秋臣には…
マグカップの中の琥珀色の液体に、口をすぼめて息を吹きかける叶人の横顔はどこか浮かない顔…
家に帰る犬養の車を見送りに門の外に出ると、叶人は少し離れたところに所在なさそうに立って…
処置が早かったため、犬養がクラゲに刺された箇所は赤い腫れが少し残っただけですんだ。夕食が終わると彼はボストンバッグから何かかさばった物を取り出し、それを高く上げた。 「ジャーン! 夏と言ったら花火っしょ!」 「だからそんなに荷物が多かったんだな」 秋臣の呆れ顔に、犬養は親指を立てて見せた。 「先輩、早くやりましょう! 智夏君もおいでよ」 いそいそと立ち上がった犬養が大きく手招きした 「ここ片付けてから行きます」 叶人はテーブルの上の器を集め始めた。その背中はもう智夏
夕食のテーブルでLINEの着信音が鳴った。 秋臣は車エビの天ぷらをだし汁につけたままスマ…
車の中で叶人は一言も言葉を発しなかった。眠っているのかずっと目を閉じたままだ。 家か…
「今日は稽古だから出かける」 朝、出勤する秋臣とすれ違いざまに叶人がささやいた。週三日…
家に帰り着くと、門の前にかかりつけの病院の車が止まっていた。毎日午前中に一度医師が往診…
「お父さん、起きて」 縁側のガラス戸から朝日が射し込んでいる。重たい瞼をやっと開けると…
「智夏(ともか)ちゃん! 智夏ちゃん! 智夏ちゃん!」 あっと思う間もなく、叶人が秋臣を…
三日ぶりの梅雨晴れの一日が終わろうとしていた。 秋臣はオフィスの大きなガラス窓から下界を見下ろした。高層ビルの二十三階から眺める景色は、いつもと何も変わらない。 「失礼します!」 元気よく入ってきたのは入社二年目の犬養日向(いぬかいひなた)だった。 「先輩、本当にありがとうございました!」 犬養はニッと笑って体を真半分に折った。彼が秋臣を「部長」ではなく「先輩」と呼ぶのは二人きりの時だけだ。うまく使い分けているなぁと秋臣はいつも感心してしまう。営業部の部下で大学の後輩